異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第2章:神聖ロゴス帝国

第6話:光に満ちた理想郷

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 リュウガと固い誓いを交わした翌朝、俺は前世では考えられないような豪華絢爛ごうかけんらんな寝室で目を覚ました。 

 天蓋てんがい付きのベッド。
羽毛のように柔らかな布団。

 窓から差し込むのは都会の喧騒けんそうではなく、二つの太陽の穏やかな光と小鳥たちのさえずり。

(……夢じゃ、なかったんだな)

 昨日の出来事が、走馬灯のように頭を駆け巡る。 
絶望的な森での生存生活。 
化物との死闘。 

 そして、奇跡のような親友との再会と新たな人生の誓い。

 全てが現実だった。 

 俺は会社という組織の歯車「相馬健人」としてではなく、この世界でリュウガの相棒「ケント」として第二の人生を歩み始めたのだ。

 身支度を整えていると、リュウガが部屋を訪ねてきた。 

 昨日と同じ純白の豪奢ごうしゃな衣服を身にまとった彼は、自信に満ちた笑みを浮かべていた。

「よく眠れたか、ケント?」

「ああ。
こんな立派なベッドで眠ったのは、人生で初めてだよ」

「はは、すぐに慣れるさ。
さあ、行こうか。
約束通り、俺たちの未来の姿を見せてやる」

 リュウガに導かれ、俺たちは王宮の外へと足を踏み出した。 
そして、俺は息を呑むことになる。 

 昨日、馬車の中から見た王都の姿も凄かったが、実際にその中に立ってみると、その美しさと活気は想像を絶していた。

 どこまでも続く白い石畳の道。 
道の両脇には手入れの行き届いた花壇が続き、色とりどりの花が咲き誇っている。 

 建物はまるで芸術品のように洗練されたデザインで統一されており、前世で見てきた無機質なコンクリートのビル群とは何もかもが違っていた。

「まずは街の心臓部、中央市場に行ってみよう」

 リュウガに案内されて向かった市場は、大勢の人でごった返していた。 
だが、そこにあるのは活気と笑顔だけだった。

(すごい……。
誰も怒鳴ったり揉めたりしていない……)

 前世で営業マンだった頃、市場や商店街といえば値引き交渉の怒声や客同士の小競り合いが日常茶飯事だった。 

 しかし、この市場では誰もが譲り合いの精神に満ちている。 

 店主は客に対して丁寧に商品の説明をし、客は店主に感謝の言葉を述べて品物を受け取る。 
スリや置き引きなど起こる気配すらない。 

 全ての取引が、完全な信頼と善意の上で成り立っているかのようだった。

「次はあそこだ。
我が国が最も力を入れている場所の一つだよ」

 リュウガが指さしたのは、ひときわ大きな建物だった。 

 そこは、子供たちが学ぶための学校だった。 

 中に入ると、子供たちの明るい笑い声が響き渡る。 
誰もが目を輝かせながら、教師の話に耳を傾けていた。 

 いじめや差別の空気はどこにもない。 
裕福な家の子供もそうでない家の子供も、同じ教室で同じように学ぶ機会を与えられている。

「この国では、教育と医療は全て無料だ。
誰もが生まれに関係なく、等しく学ぶ権利と健やかに生きる権利を持っている」

 リュウガは、誇らしげにそう言った。

 その後も俺たちは様々な場所を見て回った。 

 どんな重い病や怪我も癒やすという、清潔で設備の整った医療院。 
労働者たちが自分の仕事に誇りを持ち、笑顔で働いている工場。 
そこでは過酷なノルマもサービス残業も、存在しなかった。

 見るもの全てが、完璧だった。 
貧困も争いも不満すらも、この国のどこにも存在しないように思えた。

(なんだ、ここは……。
本当に理想郷じゃないか……)

 前世で俺が夢見た、いや、あまりの理不尽さに見ることすら諦めていた世界。
誰もが尊重され、誰もが笑顔でいられる場所。 

 そんなおとぎ話のような世界が、今、目の前に広がっている。

 リュウガは、たった一人でこんなにも完璧な国を創り上げたのか。 

 俺の胸は親友への尊敬と、この国の一員になれるという喜びで熱く満たされていた。

 ……だが。 

 その高揚感の片隅で、ほんの小さな針で刺したような違和感がチクリとうずいていた。

(なんだろうな、この感覚は……)

 市場の商人たちの笑顔。 学校の子供たちの真剣な眼差し。 
工場で働く労働者たちの勤勉な姿。 
どれも素晴らしい光景のはずなのに、どこか既視感を覚えるのだ。

 そうだ。 

 これは前世で俺が叩き込まれた、「完璧なプレゼンテーション」の空気に似ている。 

 株主や取引先に見せるための、完璧に作り込まれた資料。 
一分の隙もなく、どこにも欠点が見当たらない。 
だが、その裏には修正に修正を重ねた、生々しい現実が隠されている。

 この国の完璧さは、それとどこか似ている気がした。 

 人々の笑顔があまりにも綺麗すぎる。 
まるで優秀な役者が、「幸福な市民」という役柄を完璧に演じているかのようだ。

(いや、何を考えているんだ、俺は……)

 俺はかぶりを振って、心の内に生まれた疑念を打ち消した。 

 前世の汚れた記憶が、この純粋な光景を素直に受け取ることを邪魔しているだけだ。 
そうだ、きっとそうに違いない。

 一通りの視察を終えた俺たちは、王宮の最上階にある王都を一望できるバルコニーへとやってきた。 

 眼下には、光に満ちた理想郷が広がっている。

「どうだ、ケント。
これが俺が創り上げた、神聖ロゴス帝国だ」

 リュウガは、誇らしげに胸を張った。

「ああ……すごいよ、リュウガ。
本当にすごい。まるで奇跡だ。
どうしてこんなことが可能なんだ? 
争いも貧困も、人の心にあるはずの悪意すらどこにも見当たらないじゃないか」

 俺が心の底からの賞賛とほんの少しの疑問を込めて尋ねると、リュウガは静かに首を横に振った。

「奇跡じゃないさ、ケント。
これは、俺が創り上げた『秩序』だ」

 その声は今までに見せたことのないほど冷たく、そして絶対的な響きを持っていた。

「人は自由を与えられると、必ず間違いを犯す。
己の欲望におぼれ、他者を傷つけ、争いを始める。
前世で俺たちはそれを嫌というほど見てきたはずだ」

 彼の言葉に、俺は反論できなかった。 
確かに、前世で俺を苦しめたのは上司や取引先の身勝手な欲望や感情だった。

「だから俺が導いてやる必要があるんだ。
彼らが過ちを犯さないように。
誰もが等しく幸福でいられるように。
……正しい道を、俺が示してやる」

 リュウガは眼下に広がる民衆を、まるでチェスの駒でも見るかのような目で見下ろしていた。

「そのために、俺の力はある」

 その言葉と彼の瞳に宿る光に、俺は今まで感じたことのない、畏怖いふに近い感情を抱いた。 

 彼の言っていることは、正しいのかもしれない。 
彼のやり方こそが、この世界に真の平和をもたらす唯一の答えなのかもしれない。

 だが心の奥で疼いていた小さな違和感が、彼の「導く」という言葉と結びつき、無視できないほどの大きな疑問となって俺の胸に突き刺さっていた。

(彼らが過ちを犯さないように……
導く?)

(一体、どうやって……?)
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