異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

文字の大きさ
12 / 150
第3章:無自覚の救済者

第12話:スラム街の小さな奇跡

しおりを挟む
 俺の意思とは無関係に発動した《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》。

 その力は暴走する少年の魂の奥深くへと、俺の意識を引きずり込んでいく。
現実世界の音や光が急速に遠ざかり、俺の目の前には全く別の光景が広がっていた。

 それは、少年の心の中の風景。
彼の魂に刻まれた「物語ストーリー」そのものだった。

 そこは、どこまでも続く灰色の荒野だった。
空は厚い雲に覆われ、太陽の光は届かない。

 少年は、その荒野にたった一人でぽつんと立っていた。
その小さな背中は、ひどく震えている。

 彼の周りには、無数の影が渦巻いていた。

『お前は本当に、何もできない子だね』

『どうして、みんなと同じようにできないの?』

『お前の《天賦ギフト》は、触れたものを全部壊すだけじゃないか』

 影たちは口々に少年を責め立てる。

 それは彼の両親や、周りの大人たちの声。
悪意のない、だがそれ故に残酷な言葉の刃が、少年の心を容赦なく切り刻んでいた。

(……そうか、この子の天賦ギフトは……)

 俺は理解した。
彼の天賦ギフトは、おそらく触れたものに反発する力を与えるものなのだろう。

 だがまだ幼い彼には、その力を制御できない。

 優しく触れたいだけなのに、全てを弾き飛ばしてしまう。
ボールを蹴りたいだけなのに、ボールが逃げていく。

 その結果が周囲からの「期待外れ」という評価と、彼自身の深い無力感に繋がっていたのだ。

『ごめんなさい……
ごめんなさい……』

 少年は荒野で、ただひたすらに謝り続けていた。
誰にともなく。

 ただ、自分の存在そのものを否定するかのように。

 彼の魂から溢れ出ていたのは、制御できない天賦ギフトの力だけではなかった。

 仲間と繋がりたいという切実な願いと、自分は誰からも受け入れてもらえないという深い絶望。

 その二つの相反する感情の嵐が、彼の天賦ギフトを暴走させていたのだ。

 その光景は、俺の胸に突き刺さった。

 前世の俺と、同じじゃないか。
組織の役に立ちたいと願いながらも「お前は何もできない」と無能のレッテルを貼られ、心を殺して生きてきた俺と。

 違うのは、彼がまだ幼く、その痛みに耐えるすべを知らないことだけだ。

(……やめろ)

 気づけば俺は心の中で、叫んでいた。

(もうその子を責めるな。
この子は何も悪くない。
ただ、自分の力の使い方が分からないだけなんだ)

(誰かと繋がりたいだけなんだ。
独りぼっちになりたくないだけなんだ)

 それは少年に向けた言葉であると同時に、前世の俺自身に向けた叫びでもあった。

 俺の心の声が、観測者としての力を通じて少年の魂に届いたのだろうか。
灰色の荒野に立っていた少年が、ハッとしたように顔を上げた。

 その潤んだ瞳が、まっすぐに俺の意識を捉える。

(君は……誰……?)

(俺は……)

 俺は、何者でもない。
ただの傍観者ぼうかんしゃだ。

 だが、この子の痛みだけは痛いほど分かる。

(大丈夫だ)

 俺はただ心の中で、強く念じた。

(お前は独りじゃない。
俺が見ている。
お前の物語を、ちゃんと見ているぞ)

 その瞬間。
少年の魂の荒野に、一筋の温かい光が差し込んだ。
厚い雲の切れ間から、太陽の光が。

 その光に照らされた少年の表情が、驚きに変わっていく。

 現実世界へと俺の意識が、急速に引き戻される。
目の前で荒れ狂っていた力の渦が、嘘のように静まっていた。

 少年を中心に渦巻いていた砂埃すなぼこりは、ふわりと地面に落ちる。
まるで何事もなかったかのように、スラムの広場に静寂が戻った。

「……あれ……?」

 少年は呆然ぼうぜんと、自分の両手を見つめている。
さっきまで自分を拒絶していたはずの力が、完全に消え去っていた。

 仲間たちが蹴っていたボロ布のボールが、彼の足元にことりと転がっている。
少年はおそるおそる、そのボールに足を伸ばした。

 今度は、弾かれない。
彼の足は、確かにボールに触れた。

 その柔らかな感触に、少年は目を見開いた。
そして、ゆっくりと顔を上げる。

 その視線は仲間たちではなく、俺が隠れている路地の暗がりへとまっすぐに向けられていた。

 ハッとして、俺は身をすくめた。

 見られた? 
いや、そんなはずはない。

 だが、彼の瞳は確かに俺の魂を見透かしているかのようだった。

「……すげえ……」

「おい、今の見たかよ……!?」

 静寂を破ったのは、周りで見ていた子供たちの驚きの声だった。

 彼らは恐れるどころか、目をキラキラと輝かせながら少年に駆け寄っていく。

「お前、すごいじゃないか!」

「今の、魔法か!?」

 今まで少年を遠巻きにしていた子供たちが、今や彼を英雄のように囲んでいた。

 少年はその突然の変化に戸惑いながらも、その顔には今まで見たことのない、はにかんだような笑みが浮かんでいた。

 その光景に、俺は胸が熱くなるのを感じた。
だが同時に、背筋が冷たくなるのも感じていた。

(……俺が、やったのか……?)

 いや、違う。
俺は何もしていない。
ただ、彼の心を「観測」しただけだ。

 だが、結果として彼の暴走は止まった。
それは紛れもない事実だった。

 俺の天賦ギフトは、ただ情報を集めるだけの力ではなかった。

 他者の魂の「物語」に共感し寄り添うことで、その魂そのものに影響を与えることができる力。

 それはリュウガの《絶対王の勅令アブソリュート・オーダー》とは全く違う、支配ではない「救済」の力なのかもしれない。

 ザワザワと、周囲が騒がしくなってきた。
子供たちの騒ぎを聞きつけて、大人たちが何事かと集まってくる。

(まずい……!)

 ここに長居は無用だ。
俺は誰にも気づかれないように、そっとその場を離れた。

 背後で聞こえる子供たちの興奮した声と大人たちの驚きの声を振り切るように、俺は早足で王宮へと続く門へと向かった。

 自分の部屋に戻りベッドに倒れ込みながらも、心臓の鼓動は一向に収まらなかった。

 俺は初めて自分の意志で、この世界に干渉したのだ。

 リュウガの指示でも、誰かの命令でもない。
俺自身の、魂の叫びによって。

 それは、ほんの小さな奇跡だったかもしれない。
だが、光の差さないあのスラム街に、俺は確かに一つの変化の種をまいてしまった。

 そして、その種がこれからどのような芽を出すのか。
その時の俺は、まだ知るよしもなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

家族と魔法と異世界ライフ!〜お父さん、転生したら無職だったよ〜

三瀬夕
ファンタジー
「俺は加藤陽介、36歳。普通のサラリーマンだ。日本のある町で、家族5人、慎ましく暮らしている。どこにでいる一般家庭…のはずだったんだけど……ある朝、玄関を開けたら、そこは異世界だった。一体、何が起きたんだ?転生?転移?てか、タイトル何これ?誰が考えたの?」 「えー、可愛いし、いいじゃん!ぴったりじゃない?私は楽しいし」 「あなたはね、魔導師だもん。異世界満喫できるじゃん。俺の職業が何か言える?」 「………無職」 「サブタイトルで傷、えぐらないでよ」 「だって、哀愁すごかったから。それに、私のことだけだと、寂しいし…」 「あれ?理沙が考えてくれたの?」 「そうだよ、一生懸命考えました」 「ありがとな……気持ちは嬉しいんだけど、タイトルで俺のキャリア終わっちゃってる気がするんだよな」 「陽介の分まで、私が頑張るね」 「いや、絶対、“職業”を手に入れてみせる」 突然、異世界に放り込まれた加藤家。 これから先、一体、何が待ち受けているのか。 無職になっちゃったお父さんとその家族が織りなす、異世界コメディー? 愛する妻、まだ幼い子どもたち…みんなの笑顔を守れるのは俺しかいない。 ──家族は俺が、守る!

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界おっさん一人飯

SILVER・BACK(アマゴリオ)
ファンタジー
 サラリーマンのおっさんが事故に遭って異世界転生。  秀でた才能もチートもないが、出世欲もなく虚栄心もない。安全第一で冒険者として過ごし生き残る日々。  それは前世からの趣味である美味しいご飯を異世界でも食べ歩くためだった。  

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...