異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第3章:無自覚の救済者

第14話:称賛と嫉妬の眼差し

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 王宮へと続く道を、俺は固い決意を胸に歩いていた。

 もう、逃げも隠れもしない。
リュウガが俺を「国の頭脳」として、「共犯者」として引きずり込むつもりなら、上等だ。

 俺は俺のやり方で、彼が示した「課題」に対する「改善案」を叩きつけてやる。

 前世で培った、サラリーマンの交渉術の全てを懸けて。

 執政室の前に立つと、衛兵が俺を認めて静かに扉を開けた。

 リュウガは、まるで俺が来ることを予期していたかのように、巨大な執務机の奥で静かに俺を待っていた。

「……来たか、ケント」

 その声は穏やかだったが、俺の全てを見透かしているかのような響きがあった。

「ああ。
お前に報告があってな」

 俺は努めて冷静に、そして堂々と彼の前に立った。

 もう、彼の圧倒的な力に気圧されていた以前の俺ではない。
俺の背後には、スラムの人々のあの希望に満ちた瞳があるのだから。

「先日、君が私に与えてくれた課題についてだ。
スラム街の『改善』について、一つの解決策を見出した」

 俺は前世で何度も繰り返した説明のように、よどみなく切り出した。
彼の土俵で戦うために、彼の使う言葉で。

「まず現状の問題点だが、スラム街の住民は帝国にとって『非効率な資産』となっている。
彼らが持つ不安定な天賦ギフトは、放っておけば帝国の秩序を乱しかねない『危険因子』だ」

 リュウガは何も言わず、ただ静かに俺の言葉に耳を傾けている。
その表情は、能面のように読み取れない。

「次に、その原因分析だ。俺が《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》の力で観測した結果、彼らの天賦ギフトが不安定な根本原因は悪意や反抗心ではないことが判明した。
原因は、彼らが抱える深い『絶望』と帝国から必要とされていないという『無力感』だ。
彼らの魂の物語が、壊れてしまっているんだ」

 俺はそこで一度、言葉を切った。
そして、核心を突く。

「そこで、解決策の提案だ。
俺の天賦ギフト、《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》は彼らの壊れた物語に共感し寄り添うことで、その魂に『肯定』という光を与えることができる。
結果として彼らの精神は安定し、暴走していた天賦ギフトを自ら制御できるようになる。これはすでに数例の『実証実験』によって確認済みだ」

 俺は、あえて「再誕の賢者」という大げさな名前を自ら口にした。

 これは俺が作り出した物語なのだと、主導権はこちらにあるのだと、暗に見せつけるためだ。

「この手法は治安維持部隊による力での鎮圧よりも、はるかに人道的かつ根本的な解決策となり得る。
リュウガ、お前が切り捨てた『不要な者』たちを、再び帝国のための『有用な人材』へと変えることが可能なんだ」

 言い切った。
俺の言葉に、リュウガの表情が初めて動いた。
 
 彼は、ゆっくりと席を立つ。
そして机を回り込み、俺の目の前までやってきた。

 その顔には、満面の笑みが浮かんでいた。

「――素晴らしい!」

 彼は心の底から嬉しそうに、俺の肩を力強く叩いた。

「実に見事だ、ケント! 
やはり俺の目に狂いはなかった! 
それこそ、私が『国の頭脳』である君に期待していた答えだよ!」

 その称賛は俺が予想していたよりもずっと熱烈で、純粋なものに聞こえた。

 一瞬、俺の心に安堵が広がる。
よかった。
俺のやり方は、認められたんだ。

 だがその安堵は、すぐに消え去った。

 俺は、見てしまったのだ。
満面の笑みを浮かべるリュウガの、その瞳の奥に揺らめく冷たい光を。

 その瞳は、笑っていなかった。
そこにあるのは、称賛ではない。

 俺の理解を超えた力に対する、純粋な好奇心。
そして、自らの《絶対王の勅令アブソリュート・オーダー》では決して届かない領域に踏み入った俺への、どす黒い『嫉妬』と。

 何よりも、自らの管理外で生まれた想定外の力を、決して見過ごさないという冷徹な『警戒』の色だった。

「君の報告は、私の想像を遥かに超えていた。
他者の魂に寄り添い、その力を安定させる……。
ふむ、実に興味深い現象だ」

 リュウガは、楽しそうに言葉を続ける。

 だがその言葉の節々から、俺の力を「現象」として客観的に分析しようとする、冷たい響きが感じられた。

「君のその活動を、帝国として全面的に支援しよう。
本日をもって君のスラム街における活動を、正式な任務として認める。
それが君に与える、最初の『役目』だ」

 役目。
その言葉に、俺の心臓が冷たく締め付けられる。

 俺は、自らの意志で動いたはずだった。
だが、結局はそれすらも彼が用意した筋書きの上の「役目」へと、いとも簡単にすり替えられてしまった。

「……感謝する、リュウガ」
俺は、喉の奥から絞り出すように言った。

「ああ。思う存分、力を振るうといい。
君のやり方で、スラムに光をもたらしてくれ」

 リュウガは、完璧な親友の笑顔で俺の背中をポンと押した。

「もちろん、君が発見したその素晴らしい『力』については、帝国としても詳しく調査し、その原理を解明する必要があるだろうな。
いずれその力を誰もが使えるように『仕組み化』できれば、帝国の平和はより揺るぎないものになる」

 仕組み化。
その言葉が、俺の頭に突き刺さった。
ぞわり、と全身の産毛が逆立つ。

 彼は、俺の力を認めたんじゃない。
俺の力を彼の仕組みに組み込むための新たな『研究対象』として、狙いを定めたのだ。

 俺の天賦ギフトを解明し再現し、そしていずれは彼の支配のための道具へと変えるつもりなのだ。

 俺は、何も言えなかった。
ただ、彼の言葉が持つ本当の意味を理解し、ぞっとするだけだった。

 執政室を後にする俺の背中に、リュウガの満足げな声が掛けられる。

「期待しているよ、相棒」

 扉が閉まり、俺は一人静まり返った廊下に立ち尽くした。

 表向きには、俺の完全な勝利だった。
俺は自らの活動の自由を勝ち取り、帝国公認の役目さえ手に入れた。

 だが、俺の心はなまりのように重かった。
リュウガとの間にあった見えない壁が、今日ハッキリと見えた気がした。

 俺が創り出した「再誕の賢者」という希望の物語。

 それすらも彼は自らの理想郷を完成させるための、都合のいい部品の一つとして利用するつもりなのだ。

 俺たちの間に生まれた亀裂は、もはや修復不可能なほど深く、暗く広がってしまっている。
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