異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第4章:仕組まれた罠

第16話:初めて与えられた役目

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「……俺に、この施設の管理を全て任せたい」

 リュウガの言葉が、静かな執務室に響く。

 俺は、目の前に広げられた施設の設計図と親友だった男の顔を、交互に見つめた。

 その表情はどこまでも穏やかで、俺への絶対的な信頼に満ちているように見えた。

 だが、俺はもう騙されない。

 数日前、俺の天賦ギフトを「研究対象」として値踏みしていたあの冷たい瞳を、忘れるはずがなかった。

(……罠だ)

 直感的に、そう感じた。

 俺が自分の力を利用されていることに気づき、不信感を募らせているこのタイミングで、あまりにも都合が良すぎる提案。

 これは俺を手なずけ、さらに大きな彼の計画の駒として組み込むための、巧妙に仕組まれた罠に違いない。

「……随分と、大きな話だな」

 俺は警戒心を悟られないよう、努めて冷静に言った。

「スラムでの活動は、まだ始まったばかりだ。俺に、これほど大きな施設の管理が務まる保証はどこにもない」

「保証ならあるさ」

 リュウガは、俺の疑いなどまるで見透かしているかのように即答した。

「君がスラムで見せた成果こそが、何よりの保証だ。
正直に言うと驚いているんだよ、ケント。
君の力は、私の想像を遥かに超えていた。私の《絶対王の勅令アブソリュート・オーダー》がいわば外科手術のように、強制的に人の心を変える力だとするなら、君の力は患者自身の治癒力を引き出す内科治療のようだ。
……より根本的な、解決策なのかもしれないな」

 彼は、自らの力の限界を認めるかのような素直な言葉を口にした。

 その意外な言葉に、俺の心の壁がほんの少しだけ揺らぐ。

「この療養施設に収容されるのは、スラムの者たちとは訳が違う。
彼らはその天賦ギフトが強力すぎるか、あるいは不安定すぎるために社会に馴染めずにいる者たちだ。
帝国にとっては放っておけば危険な存在になり得るが、正しく導けば国を支える大きな力ともなり得る、貴重な人材でもある」

 リュウガは、設計図の一点を指でなぞった。

「彼らを力で押さえつけるのは簡単だ。
だが、それでは彼らの才能を殺すことになる。
……ケント、君にしかできないんだ。
彼らの魂の物語に寄り添い、彼らを『救済』できるのは、この帝国で唯一、君だけなんだよ」

 君だけなんだ。

 その言葉は、俺の心の最も弱い部分を的確に突いてきた。

 前世で誰からも必要とされず、「お前の代わりはいくらでもいる」と言われ続けてきた俺にとって、その言葉は逆らいがたい魅力を持っていた。

「もちろん、君が気にしているであろう『研究チーム』は、この計画からは完全に手を引かせる。
この施設は君の聖域だ。誰にも邪魔はさせない。
君のやり方で、君の信じる方法で彼らを救ってやってほしいんだ」

(……研究チームを、引かせる……?)

 その一言が、俺の心を大きく揺さぶった。

 俺が抱いていた最大の心配事を、彼は自ら取り除いて見せたのだ。
これは、罠なんかじゃないのかもしれない。

 彼は俺の力を認め、純粋に俺を信頼してこの大役を任せようとしているのではないか。

 俺が、リュウガを疑いすぎていただけなのではないか。

(……そうだ。
俺たちは、親友じゃないか)

 心のどこかで、まだ彼を信じたいと願っている自分がいた。

 小学生の頃、いつも俺の前を走り俺を導いてくれた太陽のような親友。

 彼が、俺をそこまでおとしめるようなことをするはずがない。

 この話を受ければ、俺は名実ともにこの国の「頭脳」となる。

 スラムでの活動のような、裏の仕事じゃない。
帝国の未来を左右する、重要な計画の責任者だ。

 前世では決して手にすることのできなかった、自由にできる大きな権限とやりがいのある役目。

 俺がこの異世界で、本当に手に入れたかったもの。

「どうだ、ケント? 
やってくれるか?」

 リュウガは、あの日のように俺に手を差し伸べてきた。
その瞳は真剣で、俺への期待に満ちているように見えた。

 俺の中の元サラリーマンとしての冷静な部分が、警鐘を鳴らす。

「美味い話には裏がある」。

 だが、人生を変えたいと願ってこの世界に来た俺の魂が、このチャンスを逃すなと叫んでいた。

「……分かった」
 俺は、意を決した。

「やらせてくれ、リュウガ。
その役目、俺が引き受ける」

 俺がその手を取るとリュウガは、心の底から嬉しそうに力強く握り返した。

「ありがとう、ケント! 
信じていたよ!」

 ◇ ◇ ◇

 それからの日々は、目まぐるしく過ぎていった。

 俺は、王宮の一室に与えられた自室を仕事部屋代わりにして、療養施設の管理運営計画を立てることに夢中になった。

 人員配置、患者の受け入れ手順、治療計画の立案……。

 やるべきことは、山のようにあった。
だが、不思議と苦ではなかった。

 これは前世でやらされていた、誰かのための仕事じゃない。

 俺自身の計画だ。

 スラムでの活動は、監視下の実験動物のような気分だったが、今度は違う。

 俺は、この施設の最高責任者なのだ。
その事実が、俺の心に新たな活力を与えてくれた。

 数週間後、王都から馬車で半日ほど離れた、静かな森と湖に囲まれた場所にその施設は完成した。

 白い壁で統一された、清潔で近代的な建物。

 それは牢屋のような場所ではなく、どこか高級な保養地のホテルのようにも見えた。

「素晴らしい……」

 施設の前に立ち、俺は感嘆の声を漏らした。

 ここが、俺の城だ。
俺の理想を実現するための、最初の舞台。

 リュウガは、約束通りだった。

 施設の建設から完成まで、彼は一切の口出しをしてこなかった。

 俺の計画書を読み、「全て君に任せる」とだけ言って、全ての権限を任せてくれたのだ。

 スラムであれだけ俺を監視していた研究チームの姿も、どこにもない。

(俺は、間違っていたのかもしれないな……)

 リュウガを疑いすぎていた自分を、少しだけ恥じた。
彼は、やはり俺を最高の「相棒」として認めてくれているのだ。

 俺は彼の期待に、結果で応えなければならない。

 施設の開所日。

 俺は、真新しい純白の制服に身を包み、施設の職員たちを前にして簡単な挨拶をした。

 彼らもまた俺がスラムでの実績を元に選び抜いた、心優しい人材ばかりだ。

「今日から、ここが我々の職場であり、そして患者さんたちにとっては新しい家となります。
我々の目的は彼らを管理することではありません。
彼らが自らの力と向き合い、その魂の物語を取り戻す手助けをすることです。
皆さんの力を、貸してください」

 俺の言葉に、職員たちが力強く頷いてくれる。

 最高のチームが、ここにできた。

 俺は高揚感を覚えながら、施設の門へと向かった。

 門の前には帝国各地から移送されてきた最初の患者たちが、不安そうな顔で待機している。

 彼らの瞳は、スラムの住民たちと同じように希望の光を失っていた。

(大丈夫だ)
 俺は、心の中で彼らに語りかけた。

(ここに来たからには、もう何も心配いらない。
俺が君たちの物語を、必ず取り戻してやる)

 これが、俺がこの世界で初めて与えられた本当の役目。

 この場所で、俺は証明するのだ。

 人の心を支配するのではなく、人に寄り添う力こそがこの世界を本当に救うのだということを。

「さあ、始めよう」

 俺は決意を新たに患者たちを迎え入れるべく、療養施設の扉を自らの手で開いた。

 希望に満ちた、新たな物語が今まさに始まろうとしていた。
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