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第4章:仕組まれた罠
第20話:完璧に仕組まれた罪
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朱色の警告の光が、俺たちの顔を不気味に照らし続けていた。
けたたましい警鐘が鳴り響く中、俺はただ呆然と立ち尽くす。
目の前には、俺が引き起こしてしまった大惨事。
そして、悲劇の主人公を完璧に演じきる、親友だった男の顔。
「……君の優しさが、この悲劇を招いたんだ」
リュウガの言葉が、全ての罪を俺一人に押し付けるための呪いのように響き渡る。
だが、彼の次の言葉は俺の予想を裏切るものだった。
「だが。……ケント、今はここで話している場合じゃない。
とにかく一度、王宮の俺の部屋に来い。
今後のことを相談しよう。
俺は君の味方だ」
その声は真に迫っていて、混乱する俺を心から心配しているように聞こえた。
(……味方、だと……?)
疑念が心をかすめる。
だが、心のどこかでまだ彼を信じたい自分がいた。
この絶望的な状況で、彼だけが唯一の蜘蛛の糸のように思えたのだ。
俺は、ほとんど抵抗らしい抵抗もできず、彼が差し伸べた手を取るようにして、兵士たちに「保護」されながら王宮へと向かった。
◇ ◇ ◇
通されたのは、リュウガの私室である執政室だった。
先ほどまでの喧騒が嘘のような、静かで落ち着いた空間。
彼は俺を柔らかなソファに座らせると、自ら温かい茶を淹れてくれた。
「まずは落ち着け、ケント。
ひどい顔だぞ」
「……リュウガ、俺は……」
「分かっている。
君がやったことじゃない。
君はただ、患者を救おうとしただけだ。
そうだろ?」
その言葉に、俺の心の警戒が少しだけ解けていくのを感じた。
そうだ、彼は分かってくれている。
「施設でのことは、俺から陛下に上手く説明しておく。
君の《物語の観測者》の力は、この帝国にとって必要なものだ。
こんな事故で、君を失うわけにはいかない」
彼は、俺の犯した「失敗」ではなく、俺の持つ「価値」について語ってくれた。
それは、前世で俺が最も欲していた言葉だった。
「今日はもう遅い。
まずは部屋でゆっくり休め。
明日の朝一番に、玉座の間の扉の前で待っていてくれ。
俺と合流して、一緒に陛下に話をしよう。
いいな?」
「……ああ」
「大丈夫だ。俺に任せろ。
お前は隣で、俺の言う通りに頷いていればいい」
その力強い言葉に、俺はもう何も考えられなくなっていた。
疲れ果てた頭で、ただこくこくと頷く。
彼は、やはり俺の親友なんだ。
そう、信じようとしていた。
◇ ◇ ◇
翌朝。
俺は、ほとんど眠れないまま夜を明かし、約束の時間に玉座の間の前に立っていた。
やがて、リュウガが昨日と変わらない穏やかな表情で現れる。
「よく来たな、ケント。
顔色はまだ悪いが、少しは落ち着いたか」
「……ああ、なんとか」
「よし。行こうか」
俺は周囲を見渡した。
あれほど厳重だったはずの玉座の間に、護衛の兵士の姿が一人も見当たらない。
「衛兵はいいのか?」
「ああ、事前に人払いはしてあるから安心しろ。
陛下には俺たちだけで会える。
あとは俺に任せろ」
リュウガはそう言うと、重々しい扉を自らの手でゆっくりと押し開いた。
俺は、ごくりと唾を飲み込み、彼の後に続いた。
玉座の間は、不気味なほど静まり返っていた。
人の気配が、全くしない。
そして、俺は見た。
広大な間の奥、国王がいるはずの玉座を。
そこにあったのは、血に濡れた玉座。
その玉座に深々と腰掛けたまま、胸に儀礼剣を突き立てられ事切れている老人の姿。
神聖ロゴス帝国国王、アウレリウス三世陛下だった。
「……な……んだ……これ……」
声が、震えた。
理解が、追いつかない。
俺は、助けを求めるように後ろを振り向いた。
そこにいるはずの、唯一の頼りである親友の名を呼ぶために。
だが。
「―――リュウガ?」
そこには、誰もいなかった。
リュウガの姿が、忽然と消えていたのだ。
その、瞬間だった。
バタンッ!
俺が入ってきた扉が、外から勢いよく開かれた。
「何事だ!」
「陛下!」
なだれ込むようにして、武装した兵士たちと宰相らしき男が入ってくる。
そして、彼らは見た。
血に濡れた玉座と、冷たい亡骸と化した陛下。
そしてその傍らで、血の気の引いた顔で呆然と立ち尽くす、俺の姿を。
ああ、そうか。
そういうことか。
俺は、ようやく理解した。
俺の記憶が混乱していた理由も。
リュウガが、俺をここに連れてきた理由も。
療養施設での爆発も、スラムでの活動も、俺が「再誕の賢者」と呼ばれたことすらも。
全ては、この瞬間のためにあったのだ。
俺を、国王殺しの犯人に仕立て上げるための完璧な舞台装置として。
兵士たちに少し遅れて、リュウガが息を切らしながら玉座の間に駆け込んできた。
「……ケント」
リュウガが、震える声で俺の名を呼んだ。
その瞳は、信じられないものを見るかのような大きな驚きに満ちている。
「……なぜ、君がここに……。
まさか、君が……?」
その完璧な演技。
その完璧なタイミング。
俺は、もはや怒りを通り越してある種の感嘆すら覚えていた。
「違う……」
俺の口から、か細い声が漏れる。
「違う……違う、違う、違うッ!!」
俺は、叫んだ。
「俺じゃない!
俺はやっていない!
俺はリュウガに呼び出されてここへ来たんだ!
そしたら、もう陛下は……!」
俺の必死の叫びは、しかし誰の耳にも届かない。
兵士たちの目に宿るのは、国王を殺した大逆罪人に対する剥き出しの憎しみだけだ。
「……なんということだ……」
宰相が、絶望に満ちた声で呟く。
「大規模な爆破事件を起こし、その混乱に乗じて陛下を暗殺する……。
なんという周到な計画……なんという悪魔の所業だ……」
違う。
違うんだ。
全ては、あいつが仕組んだことなんだ。
だが、俺にはもうそれを証明するすべがなかった。
「……捕らえろ」
宰相の冷たい命令が響く。
その声に反応した衛兵の一人が、怒りに燃えた目で俺に駆け寄り、その手に持った棍棒で俺の頭を殴りつけた。
鈍い衝撃と共に、俺の意識は急速に暗転していった。
けたたましい警鐘が鳴り響く中、俺はただ呆然と立ち尽くす。
目の前には、俺が引き起こしてしまった大惨事。
そして、悲劇の主人公を完璧に演じきる、親友だった男の顔。
「……君の優しさが、この悲劇を招いたんだ」
リュウガの言葉が、全ての罪を俺一人に押し付けるための呪いのように響き渡る。
だが、彼の次の言葉は俺の予想を裏切るものだった。
「だが。……ケント、今はここで話している場合じゃない。
とにかく一度、王宮の俺の部屋に来い。
今後のことを相談しよう。
俺は君の味方だ」
その声は真に迫っていて、混乱する俺を心から心配しているように聞こえた。
(……味方、だと……?)
疑念が心をかすめる。
だが、心のどこかでまだ彼を信じたい自分がいた。
この絶望的な状況で、彼だけが唯一の蜘蛛の糸のように思えたのだ。
俺は、ほとんど抵抗らしい抵抗もできず、彼が差し伸べた手を取るようにして、兵士たちに「保護」されながら王宮へと向かった。
◇ ◇ ◇
通されたのは、リュウガの私室である執政室だった。
先ほどまでの喧騒が嘘のような、静かで落ち着いた空間。
彼は俺を柔らかなソファに座らせると、自ら温かい茶を淹れてくれた。
「まずは落ち着け、ケント。
ひどい顔だぞ」
「……リュウガ、俺は……」
「分かっている。
君がやったことじゃない。
君はただ、患者を救おうとしただけだ。
そうだろ?」
その言葉に、俺の心の警戒が少しだけ解けていくのを感じた。
そうだ、彼は分かってくれている。
「施設でのことは、俺から陛下に上手く説明しておく。
君の《物語の観測者》の力は、この帝国にとって必要なものだ。
こんな事故で、君を失うわけにはいかない」
彼は、俺の犯した「失敗」ではなく、俺の持つ「価値」について語ってくれた。
それは、前世で俺が最も欲していた言葉だった。
「今日はもう遅い。
まずは部屋でゆっくり休め。
明日の朝一番に、玉座の間の扉の前で待っていてくれ。
俺と合流して、一緒に陛下に話をしよう。
いいな?」
「……ああ」
「大丈夫だ。俺に任せろ。
お前は隣で、俺の言う通りに頷いていればいい」
その力強い言葉に、俺はもう何も考えられなくなっていた。
疲れ果てた頭で、ただこくこくと頷く。
彼は、やはり俺の親友なんだ。
そう、信じようとしていた。
◇ ◇ ◇
翌朝。
俺は、ほとんど眠れないまま夜を明かし、約束の時間に玉座の間の前に立っていた。
やがて、リュウガが昨日と変わらない穏やかな表情で現れる。
「よく来たな、ケント。
顔色はまだ悪いが、少しは落ち着いたか」
「……ああ、なんとか」
「よし。行こうか」
俺は周囲を見渡した。
あれほど厳重だったはずの玉座の間に、護衛の兵士の姿が一人も見当たらない。
「衛兵はいいのか?」
「ああ、事前に人払いはしてあるから安心しろ。
陛下には俺たちだけで会える。
あとは俺に任せろ」
リュウガはそう言うと、重々しい扉を自らの手でゆっくりと押し開いた。
俺は、ごくりと唾を飲み込み、彼の後に続いた。
玉座の間は、不気味なほど静まり返っていた。
人の気配が、全くしない。
そして、俺は見た。
広大な間の奥、国王がいるはずの玉座を。
そこにあったのは、血に濡れた玉座。
その玉座に深々と腰掛けたまま、胸に儀礼剣を突き立てられ事切れている老人の姿。
神聖ロゴス帝国国王、アウレリウス三世陛下だった。
「……な……んだ……これ……」
声が、震えた。
理解が、追いつかない。
俺は、助けを求めるように後ろを振り向いた。
そこにいるはずの、唯一の頼りである親友の名を呼ぶために。
だが。
「―――リュウガ?」
そこには、誰もいなかった。
リュウガの姿が、忽然と消えていたのだ。
その、瞬間だった。
バタンッ!
俺が入ってきた扉が、外から勢いよく開かれた。
「何事だ!」
「陛下!」
なだれ込むようにして、武装した兵士たちと宰相らしき男が入ってくる。
そして、彼らは見た。
血に濡れた玉座と、冷たい亡骸と化した陛下。
そしてその傍らで、血の気の引いた顔で呆然と立ち尽くす、俺の姿を。
ああ、そうか。
そういうことか。
俺は、ようやく理解した。
俺の記憶が混乱していた理由も。
リュウガが、俺をここに連れてきた理由も。
療養施設での爆発も、スラムでの活動も、俺が「再誕の賢者」と呼ばれたことすらも。
全ては、この瞬間のためにあったのだ。
俺を、国王殺しの犯人に仕立て上げるための完璧な舞台装置として。
兵士たちに少し遅れて、リュウガが息を切らしながら玉座の間に駆け込んできた。
「……ケント」
リュウガが、震える声で俺の名を呼んだ。
その瞳は、信じられないものを見るかのような大きな驚きに満ちている。
「……なぜ、君がここに……。
まさか、君が……?」
その完璧な演技。
その完璧なタイミング。
俺は、もはや怒りを通り越してある種の感嘆すら覚えていた。
「違う……」
俺の口から、か細い声が漏れる。
「違う……違う、違う、違うッ!!」
俺は、叫んだ。
「俺じゃない!
俺はやっていない!
俺はリュウガに呼び出されてここへ来たんだ!
そしたら、もう陛下は……!」
俺の必死の叫びは、しかし誰の耳にも届かない。
兵士たちの目に宿るのは、国王を殺した大逆罪人に対する剥き出しの憎しみだけだ。
「……なんということだ……」
宰相が、絶望に満ちた声で呟く。
「大規模な爆破事件を起こし、その混乱に乗じて陛下を暗殺する……。
なんという周到な計画……なんという悪魔の所業だ……」
違う。
違うんだ。
全ては、あいつが仕組んだことなんだ。
だが、俺にはもうそれを証明するすべがなかった。
「……捕らえろ」
宰相の冷たい命令が響く。
その声に反応した衛兵の一人が、怒りに燃えた目で俺に駆け寄り、その手に持った棍棒で俺の頭を殴りつけた。
鈍い衝撃と共に、俺の意識は急速に暗転していった。
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