異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第5章:奈落の谷

第25話:ゴミ箱の真実

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 「……ゴミ箱だ」

 その冷え切った言葉が、俺自身の口から漏れたという事実が、俺の心を完全に作り変えた。

 リュウガの理想郷にとって、不都合な者たちを隔離するための。
彼の完璧な世界の、薄汚いゴミ箱。

 そして俺もまた、そのゴミ箱に捨てられたただのゴミの一つに過ぎない。

 俺は、洞窟の入り口に立ったまま眼下に広がる奈落の谷を見下ろしていた。

 渦巻く瘴気しょうき
どこからともなく聞こえてくる、魔物たちの不気味な叫び声。

 絶望と死の匂いだけが満ちる、この世界の最底辺。

 だが、もはや俺の心に絶望はなかった。
燃え盛るような怒りも、悲しみもなかった。

 そこにあったのは、まるで嵐が過ぎ去った後の不気味なほどの静寂せいじゃく
熱に浮かされていた頭が、氷水で冷やされたかのような絶対的な覚醒。

 今まで俺を支配していたリュウガ個人への灼熱しゃくねつの憎しみは静かに、そして急速に冷えていく。

 そしてその奥底で、より硬く鋭利な何かが形作られていくのが分かった。
それは、鋼のように冷たい殺意という名の決意だった。

(……ああ、そうか。
そういうことか)

 俺は、全てを理解した。
リュウガがやっていることは、俺が前世で最もよく知る、あの行為と全く同じなのだ。

 会社組織。
俺が歯車としてすり潰された、あの場所。

 あの会社にも、「ゴミ箱」はあった。
業績の悪い社員や、上司に逆らった社員を送り込むための部署。

 そこでは仕事が与えられず、ただ一日中自席に座っていることだけを強制される。

 会社は自ら手を下さない。
ただ、心を殺す環境を用意するだけだ。
そして、社員が自ら辞めていくのを待つ。

 あの息の詰まる部屋と、この奈落の谷は本質的に何一つ変わらない。

 リュウガがやっているのは、国家運営などではない。
ただの、人員整理だ。

 彼が理想とする完璧な会社帝国にとって、生産性の低い、あるいは不都合な「不良資産人材」を、人知れずこの「子会社奈落」へと追いやっているに過ぎない。

 そして、その目的は二つ。

 一つは、本体である帝国の見栄えを保つこと。
彼の光り輝く理想郷に、不満を持つ者や無能な者の影を落とさせないための徹底した隠蔽いんぺい工作。

 そして、もう一つは。
帝国内に残った社員国民たちへの、無言の脅しだ。

「会社のルールに従わない者は、ああなるぞ」と。

 この地獄の存在そのものが、彼の支配体制をより強固にするための最高の恐怖政治の道具として、機能しているのだ。

 俺の追放劇も、そのための完璧な見せしめだったというわけか。

 執政の親友という最高の地位から、一夜にして大逆罪人として奈落の底へ。
これほど分かりやすい「出る杭は打たれる」という実例はないだろう。

「……ははっ」
乾いた笑いが、漏れた。

 笑うしかなかった。
なんという、ちっぽけな話だ。

 俺はてっきり、もっと壮大な裏切りと陰謀の物語の主人公にでもなったのかと思っていた。

 だが、蓋を開けてみれば。

 俺が巻き込まれたのは、小学生の頃の親友が始めた壮大な「会社ごっこ」だったのだ。

 そして俺は、その会社のルールに馴染めなかった、ただの厄介払やっかいばいの対象でしかなかった。

(……ふざけるなよ)

 心の奥底で、青い炎が静かに揺らめく。

 俺の怒りは、もはやリュウガ個人へのものではなかった。
彼の創り上げた、この偽りに満ちた「仕組み」そのものへ。

 人の個性ものがたりをただの生産性や効率でしか測れない、その浅ましさへ。

 俺は、洞窟の中へと戻った。
そして、無言で骨のナイフを研ぎ始める。

 石と骨がこすれる、冷たい音だけが響く。

 シュッ、シュッ、シュッ……。

 繰り返される単純な作業が、俺の思考をより鋭く、より冷徹にしていく。

 復讐。
その言葉の意味が、俺の中で変わった。
ただリュウガを殺すだけでは、何も終わらない。

 社長を殺しても、腐った会社がなくならないのと同じだ。
俺が本当にやるべきことは、ただ一つ。

 神聖ロゴス帝国という、リュウガが創り上げた完璧な会社を「倒産」させることだ。

 その偽りを白日はくじつの下にさらし、その仕組みを根底から破壊し尽くす。

 そのためには、情報が要る。
戦力が要る。
そして、共に戦う仲間が要る。

 俺は、ふと顔を上げた。

 洞窟の外に広がる、この広大な「ゴミ箱」を見つめる。
ここには、俺と同じようにリュウガの仕組みから弾き出された者たちが、まだ大勢いる。

 彼らは、ただの被害者じゃない。

 リュウガの支配の犠牲者であり、その罪を証明するための生きた「証拠」だ。
そして、誰もがリュウガに対して何らかの憎しみや怒りを抱いているはずだ。

 彼らは、ゴミなんかじゃない。
磨けば光る、ダイヤの原石だ。

 いや、違う。

 リュウガの帝国を内部から破壊するための、最高の「爆弾」だ。

 俺の天賦ギフト、《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》。

 それは、その爆弾のありかを探し出し、その信管に火をつけるための最高の武器になる。

 俺は、立ち上がった。

 研ぎ終えた骨のナイフは、瘴気しょうきの切れ間から漏れるかすかな光を反射して青白く光っている。

 もう、迷いはない。
やるべきことは、決まった。

 俺は、このゴミ箱の王になる。
リュウガが捨てたゴミたちを拾い集め、磨き上げ、最強の軍隊へと作り変えるのだ。

 そして、いつか。

 必ず、このゴミ箱の中からい上がり。
お前の光り輝く理想郷を、俺たちが集めたゴミの山で埋め尽くしてやる。

 そう、固く決意したその時だった。

 キンッ!

 遠くから、澄んだ金属音が響いてきた。
それは俺がこの谷に落ちてから、一度も聞いたことのない音だった。

 石と骨、牙と爪がぶつかる鈍い音ではない。
明らかに、鍛え上げられた鋼と鋼が打ち合う音。

(……なんだ?
 この谷で、剣を使う奴がいるのか?)

 そして、金属音に続いて。

「―――グオオオオオオオッッ!!」

 聞いたこともない巨大な魔物の叫び声が、谷全体を震わせた。
それは、俺が今まで相手にしてきた奈落の猟犬や岩石猪ロック・ボアなどとは、比較にならないほどの威圧感を放っている。

 この谷の「主」クラスの魔物だ。

 直後、

「ぐ……ぁっ……!」

 人間の苦悶くもんの声が響いた。
それは、断末魔だんまつまの叫びに近かった。

 俺は、骨のナイフを強く握りしめた。
獣の目が、音のした方向を鋭く見据える。

 何かが、起きている。
この谷の日常とは違う、何かが。

 俺は、音もなく洞窟を飛び出した。

 獣のように身を低くし、岩陰から岩陰へと跳躍しながら音の発生源へと向かう。

 好奇心ではない。
ただの、冷徹れいてつな分析のためだ。
このゴミ箱で起こる全ての出来事は、俺が利用すべき情報の一つに過ぎない。

 俺は、静かに闇の中を疾走しっそうした。
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