異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

文字の大きさ
35 / 150
第8章:再誕の奇跡

第35話:『再誕』の覚悟

しおりを挟む
​(……食ったか)

 ​俺の口元に浮かんだのは、この谷に来てから初めてかもしれない、穏やかな笑みだった。

 遠く離れた洞窟の中で、俺はルナの魂にかすかな変化を感じ取っていた。

 憎悪と絶望で塗り固められていた彼女の魂に、本当に小さな、ろうそくの火のようにか細いが、確かに温かい光が灯ったのを。

 ​それは、ほんの小さな一歩だ。

 だが、この分厚い絶望に閉ざされた世界を動かすための、何よりも大きな一歩だった。

 俺の心は、奇妙な高揚感に包まれていた。
だが、それは獲物を手懐けた狩人の満足感とは違う。

 もっと純粋で、温かい何か。
前世では、決して感じることのなかった感情。

 ​芽生えた信頼の種は、まだあまりにもか弱く、もろい。
少しでも強い風が吹けば、いとも簡単に消し飛んでしまうだろう。

 この種をどう育てていくか。
どうすれば、彼女の失われた物語を本当の意味で取り戻すことができるのか。

 俺は、暗闇の中で静かに思考を巡らせた。
​そこで、俺は改めて自らの力と向き合うことになる。

物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》。

 この世界で授かった、たった一つの俺の天賦ギフト
リュウガに「使えない」と判断された、欠陥品けっかんひんの力。

 ​俺は今までこの力を、ただ無意識に、そして反射的に使ってきたに過ぎない。

 スラム街で出会った、天賦ギフトが暴走していた少年レオ。
あの時俺は、彼を救おうとしたわけではなかった。

 ただ彼の魂に刻まれた「仲間と繋がりたい」という悲痛な叫びに、前世の自分を重ねて強く共感しただけだ。

 結果として、彼の天賦ギフトは安定した。

 枯れかけた花を手に泣いていた、あの女性もそうだ。
亡き夫との思い出を大切にしたいという彼女の物語に、俺はただ寄り添っただけ。

奈落の猟犬アビス・ハウンド岩石猪ロック・ボアを狩る時は生き延びたいという一心で、ただその弱点を「情報」として抜き取った。

 全てが、無自覚。
全てが、場当たり的。
俺は、この力の本当の意味を、その本質を、まだ何も理解していなかったのだ。

 ​俺の脳裏に、スラムの住民たちが俺につけた、あの少し気恥ずかしい二つ名が蘇る。

『再誕の賢者』。

 彼らは、俺がただそこにいるだけで、よどんだ天賦ギフトが「生まれ変わった」ように安定すると言っていた。

 ​再誕。
そう、生まれ変わりだ。
俺の力は、ただ他人の物語を「観測」するだけの力じゃない。

 壊れてしまった物語、あるいはリュウガによって奪われ引き裂かれた物語の残骸から新たな物語の「種」を見つけ出し、再び芽吹かせる手助けをする力。

 リュウガが物語を「終わらせる」力なのだとすれば、俺の力は物語を「始めさせる」力なのだ。

​(……《再誕の観測リボーン・サイト》……)

 ​俺の脳内に、もう一つの名前が浮かび上がった。

 そうだ。
これこそが、俺の力の本当の名前。

物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》という広大な能力の中に隠された、その真の核心。

 ​リュウガは、他人の魂から天賦ギフトという名の果実を暴力的に「強奪」する。

 だが、俺は違う。
俺は、魂という大地に眠る新たな可能性の種を見つけ出し、持ち主が自らの力でそれを育てられるようにほんの少しだけ光を当てる。

 支配じゃない。
共感だ。
奪うのではなく、与えるのでもない。
ただ、そこにあるものを肯定し、共に育む。

 なんとリュウガのやり方とは正反対の、そして彼には決して理解できない力だろうか。

 だからこそ彼は、俺の力を「使えない」と判断したのだ。
彼の価値観では、支配できない力など無価値でしかないのだから。

 ​その事実に思い至った瞬間。
俺の中で燃えていた復讐の炎が、その色を明確に変えた。

 もはや、それはリュウガ個人への憎しみだけではない。
彼の創り上げた、人の物語を部品のように扱う冷徹な「仕組み」そのものへの、絶対的な反逆の意志。

 ​そして、その反逆の狼煙を上げるための最初の戦いが、今まさに始まろうとしている。

 ルナを、救うこと。
それが、俺の戦いの始まりだ。

 彼女は、俺と同じリュウガの犠牲者だ。
故郷を焼かれ、同胞どうほうを殺され、誇りである天賦ギフトを奪われた。

 その魂は、人間への憎悪という分厚い氷の壁に閉ざされている。
俺が焚き火と肉で溶かした壁は、ほんの表面に過ぎない。

 その奥深くには決して癒えることのない巨大な傷口が、今もなお熱い血を流し続けているはずだ。
あの傷を放置すれば、芽生えた信頼の種などすぐに腐り落ちてしまうだろう。

 彼女を本当に救うためには俺が彼女の魂の奥深くまで潜り、その傷口に直接触れなければならない。

 彼女が目を背け続けてきた、あの悲劇の記憶と、もう一度向き合わせる必要がある。

 ​それは、あまりにも危険な賭けだ。
下手をすれば、彼女の魂は完全に砕け散ってしまうかもしれない。

 そして、俺自身も無事では済まないだろう。
彼女の魂を引き裂いたあの絶望と痛みを、俺もまた観測者として共に体験することになるのだから。

​(……怖いか?)
​自問する。

 答えは、イエスだ。

 怖い。

 他人の魂の最も繊細な部分に、自分の意志で踏み込むことの重さ。
その責任。
考えただけで、足がすくむ。

 ​だが。

 俺の脳裏に、肉をかじりながら涙を流していたルナの姿が浮かんだ。

 あの涙は、彼女がまだ完全に希望を捨てていない証拠だ。
心の奥底では、誰かに救われることをずっと待ち望んでいた魂の叫びだ。

 ​俺は、その声を聞いてしまった。
前世の俺は、いつだって逃げてきた。
面倒なことから、責任から、自分の人生そのものから。
歯車でいる方が楽だったからだ。

 だが今世では、本気で生きると誓ったはずだ。
自分の物語を、自分の意志で紡ぐと。

 ならば、今こそ覚悟を決める時だ。

 ​俺は、ゆっくりと立ち上がった。
洞窟の暗闇の中で、固く拳を握りしめる。

 もう、迷いはない。

 ​俺は、初めて自分の意志で、意識的にこの力を使う。
復讐のためでも、生き延びるためでもない。
ただ、目の前の一つの傷ついた魂を救うためだけに。

 俺の《再誕の観測リボーン・サイト》の力を。

 ​これは、俺の物語の始まりだ。
リュウガが捨てたゴミ箱の中から、最初の仲間と共にい上がるための。

 そして、いずれ彼の偽りの理想郷を終わらせるための、最初の一歩。

 俺は、暗闇の中で静かに息を吸い込んだ。
その瞳に宿るのは獣のような生存本能ではない。
ましてや復讐心に燃える狂気でもない。

 ただ一人の人間を救うと決めた男の、どこまでも静かで、そして鋼のように硬い覚悟の光だった。

 俺は、骨のナイフを腰に差すと、再びルナの寝ぐらがある谷の最奥部へと、今度は一切の迷いのない足取りで歩き始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

家族と魔法と異世界ライフ!〜お父さん、転生したら無職だったよ〜

三瀬夕
ファンタジー
「俺は加藤陽介、36歳。普通のサラリーマンだ。日本のある町で、家族5人、慎ましく暮らしている。どこにでいる一般家庭…のはずだったんだけど……ある朝、玄関を開けたら、そこは異世界だった。一体、何が起きたんだ?転生?転移?てか、タイトル何これ?誰が考えたの?」 「えー、可愛いし、いいじゃん!ぴったりじゃない?私は楽しいし」 「あなたはね、魔導師だもん。異世界満喫できるじゃん。俺の職業が何か言える?」 「………無職」 「サブタイトルで傷、えぐらないでよ」 「だって、哀愁すごかったから。それに、私のことだけだと、寂しいし…」 「あれ?理沙が考えてくれたの?」 「そうだよ、一生懸命考えました」 「ありがとな……気持ちは嬉しいんだけど、タイトルで俺のキャリア終わっちゃってる気がするんだよな」 「陽介の分まで、私が頑張るね」 「いや、絶対、“職業”を手に入れてみせる」 突然、異世界に放り込まれた加藤家。 これから先、一体、何が待ち受けているのか。 無職になっちゃったお父さんとその家族が織りなす、異世界コメディー? 愛する妻、まだ幼い子どもたち…みんなの笑顔を守れるのは俺しかいない。 ──家族は俺が、守る!

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界おっさん一人飯

SILVER・BACK(アマゴリオ)
ファンタジー
 サラリーマンのおっさんが事故に遭って異世界転生。  秀でた才能もチートもないが、出世欲もなく虚栄心もない。安全第一で冒険者として過ごし生き残る日々。  それは前世からの趣味である美味しいご飯を異世界でも食べ歩くためだった。  

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...