異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第8章:再誕の奇跡

第37話:絆を力に

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 ルナが、震える手を俺の手にそっと重ねた。

 その瞬間。

 パチッ、と静電気のような微かな衝撃が走り、彼女の手からまばゆい光が放たれた。

 それは、憎しみの炎でも、絶望の闇でもない。
まるで夜明け前の空に輝く一番星のような、どこまでも純粋で温かい光だった。

「……これは……」

 俺は息を呑んだ。
光は、この奈落の谷に初めて生まれた生命の光そのものだった。

 光に触れた洞窟の壁にはかすかに苔が芽生え、乾いた地面からは小さな花のつぼみが顔を出すかのようだ。

 光は俺たちの繋がった手を中心に渦を巻き、ルナの全身へと広がっていく。
彼女の魂が、俺の魂に何かを伝えようとしている。

 いや、違う。
彼女の魂が、俺の魂を支えに自らの力で立ち上がろうとしているのだ。

(そうだ、ルナ……!)

 俺は心の中で、強く彼女の名を呼んだ。

(お前の物語は、憎しみと絶望だけじゃない……!)

俺の《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》が、彼女の魂の最も深い場所で起きている奇跡をとらえる。

 憎悪の氷壁が完全に溶け去った彼女の魂の荒野。
そこに、俺の観測によってもたらされた「共感」という名の雨が降り注ぎ、乾ききった大地を潤していく。

 そして、その大地の奥深く。
リュウガによって《百獣の咆哮ひゃくじゅうのほうこう》が引きがされた痛々しい傷跡の、さらにその下に。

 ずっと眠っていた、新たな物語の「種」が力強く脈打ち始めたのが見えた。

 ズキンッ!

 再び、俺の脳内に彼女の魂の情報が流れ込んでくる。

 だが、それはもう痛みではなかった。
生命が生まれ出る瞬間に立ち会うような、荘厳そうごんな感動だった。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名前:ルナ
状態:魂の再誕(新たな天賦ギフトの覚醒)
​魂の物語:
【悲劇】:過去との対峙を完了し、乗り越えようとしている。
【渇望】:孤独ではなく、仲間と共に戦うための新しい力が欲しい。
【受容】:自らの弱さと過去を受け入れ、未来へと進む決意が固まった。
天賦ギフト
【喪失した天賦ギフト
百獣の咆哮ひゃくじゅうのほうこう
能力概要:[観測不能] かつて森の獣たちを率いていた王の力。リュウガにより魂から完全に引きがされている。
​【新たなる天賦ギフト
絆を力にソウル・リンク
能力概要:触れた仲間の天賦ギフトの特性を、自らの戦闘能力に一時的に上乗せエンチャントする能力。
[制約・ルール]:仲間との「きずな」そのものが力の源となるため、対象への絶対的な信頼がなければ効果は発揮されない。  
​攻略の糸口:
【精神】:彼女の魂は「仲間」との繋がりの上で最も輝く。孤立させることは、彼女の力を著しく削ぐことに繋がる。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

(……《絆を力にソウル・リンク》……!)

(そうだ、それこそがお前の本当の願い!)

(お前が心の底から望んでいた、新しい物語の始まりだ!)

俺の確信にこたえるように、ルナの全身から放たれる光はさらに輝きを増した。

 ゴウッ!

 まるで小さな太陽が生まれたかのように、温かい光の流れが洞窟全体を満たしていく。

 奈落の谷のよどんだ瘴気しょうきが、その聖なる光に触れて消えていくのが見えた。

「……あ……ああ……っ」

 ルナの口から、驚きと歓喜が入り混じった声が漏れる。

 彼女は、自らの両手を見つめていた。
その手から、温かい光がとめどなくあふれ出している。

 失われた力が、戻ってくる。

 いや、違う。
これは、失ったものをただ取り戻すような後ろ向きの力じゃない。
過去の悲劇と、仲間を求める渇望。

 その全てを受け入れた彼女だからこそ手にできた、全く新しい、未来のための力だ。

 やがて光はゆっくりと集まっていき、彼女の魂の中へとかえっていく。
後に残されたのは、生まれ変わったかのように澄み切った瞳をしたルナと、呆然ぼうぜんと立ち尽くす俺だけだった。

「……今の……は……?」

 彼女は、信じられないといった様子で自分の体を見下ろしている。

 無理もない。
彼女自身にも、何が起きたのかまだ理解できていないのだろう。

 俺は、荒い呼吸を整えながら静かに告げた。
俺の《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》が読み解いた、彼女の新たな力の正体を。

「それが、お前の新しい物語だ。ルナ」

「……アタシの……新しい……?」

「ああ。
《絆を力に(ソウル・リンク)》……
それが、お前の新しい天賦ギフトの名だ」

 俺の言葉に、ルナはハッとしたように顔を上げた。
彼女の魂が、自らの新しい力の意味を理解し始めているのが分かった。

 《百獣の咆哮ひゃくじゅうのほうこう》は、森の獣たちを一方的に従える「王」の力だった。

 それは、孤独な支配者の力。
だが、この《絆を力にソウル・リンク》は違う。

 他者の力を借り受け、自らの力に上乗せする。
仲間がいなければ、真価を発揮できない。
仲間との繋がりが深ければ深いほど、その力は無限の可能性を見せる。

 それは孤独を捨て、仲間と共に戦うことを選んだ彼女の魂のあり方そのもの。
これ以上ないほど、彼女にふさわしい力だった。

「……仲間と……共に……」

 ルナは、力なくその言葉を繰り返す。
その琥珀色こはくいろの瞳が、ゆっくりと俺に向けられた。

 そこにはもう、人間への憎悪も恐怖も混乱もなかった。
ただ自分を絶望の淵から救い出してくれた男に対する、静かで深い信頼の色だけが宿っていた。

 俺は、何も言わなかった。
ただ、彼女が次の言葉をつむぎ出すのを静かに待っていた。
彼女が自らの意志で、新しい物語の最初の一歩を踏み出すのを。

 奈落の谷の冷たい風が、洞窟の中へと吹き込んでくる。

 だが、俺たちの間にはもう寒さはなかった。
魂と魂が繋がり生まれた、小さな絆の炎が確かにそこにあったからだ。

 ルナは、ゆっくりと立ち上がった。
そして俺の前に来ると、まるで騎士が王に忠誠を誓うかのように、深く、深くその膝をついた。

「……アタシの牙と魂は、あんたの剣だ。
あんたが進む道が、アタシの道だ」

 その声は、震えていたが、迷いはなかった。

「だから……アタシを連れていってくれ。
あんたの物語の、一員に」

 俺は、彼女の前にゆっくりと膝をつくと、その視線を合わせた。

「俺たちは主従じゃない。
ふたつの星だ。対等な相棒だ」

 そして、彼女の手を取り、ゆっくりと立ち上がらせる。

「よろしくな、ルナ」

「……うん……よろしく、ケント」

 最高の「頭脳」と最強の「剣」が、奈落の底で巡り合った。
こうして、俺たちの本当の戦いが始まったのだ。
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