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第8章:再誕の奇跡
第38話:揺るぎなき最初の仲間
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最高の「頭脳」と最強の「剣」が、奈落の底で巡り合った。
こうして、俺たちの本当の戦いが始まったのだ。
◇ ◇ ◇
洞窟の中には、不思議な静寂が満ちていた。
先ほどまでの張り詰めた空気は嘘のように消え去り、代わりに魂と魂が繋がったことで生まれた、かすかで温かい熱が俺たち二人を包み込んでいる。
ルナは、まだ少し戸惑いが残る表情で俺の隣に座っていた。
その琥珀色の瞳はもう人間への憎しみに、燃えてはいない。
ただ、燃え尽きた荒野にようやく差し込んだ夜明けの光を、どう受け止めていいか分からないでいるようだった。
「……これから、どうするんだ?」
静寂を破ったのは、彼女の方だった。
その声は、以前の刺々しさが嘘のように穏やかだった。
「あんたの物語を、見せてもらった。
あんたも……アタシと同じなんだな。
あの男に、全てを奪われた」
「ああ」
俺は、短く頷いた。
「俺は、復讐する。
リュウガ個人にじゃない。
あいつが創り上げた人の心を部品のように扱う、あの偽りの理想郷……あの『仕組み』そのものをこの手で破壊する」
俺の言葉に、ルナはゴクリと唾をのんだ。
それはあまりにも、途方もない目標に聞こえただろう。
この奈落の底にいるたった、二人で。
だが、その瞳に宿ったのは絶望ではなかった。
むしろ、初めて生きる目的を見つけたかのような力強い光だった。
「……面白い」
彼女は、ふっと息を漏らすように笑った。
この谷に来てから、初めて見たかもしれない彼女の本当の笑顔。
「アタシも、連れていけ。
故郷を焼かれ、同胞を殺された……この借りは、必ず返さなきゃならない」
「お前は、もう俺の相棒だ。
拒否権はない」
俺がそう言うと、彼女は少しだけ驚いたように目を見開き、そして嬉しそうにうつむいた。
その仕草は、孤高の戦士ではなく年相応の少女のものだった。
「……なあ、ケント」
彼女が、おずおずと口を開く。
「アタシの、この新しい力……《絆を力に(ソウル・リンク)》ってやつ。
本当に、仲間と繋がることで強くなるのか……?」
「ああ。俺の《物語の観測者》がそう告げている。
お前が覚醒した時、俺の魂に流れ込んできた情報だからな。
間違いはない」
俺がスラムの少年を救ったように。
俺の力が、彼女の魂に眠る新たな可能性の種を芽吹かせた。
俺たちの力は、どこかで繋がっているのかもしれない。
「……試してみても、いいか?」
「どうやって?」
「あんたに、触れる」
彼女はそう言うと、少しだけ緊張した面持ちで俺の腕にそっとその手を伸ばした。
ひんやりとした、だが確かな温もりを持つ彼女の指が、俺の肌に触れる。
その瞬間。
パチッ、と再び微かな光が俺たちの間で弾けた。
今度は爆発的な光じゃない。
もっと穏やかで優しい光。
ルナの全身を、淡い光のオーラが包み込む。
彼女は、驚きに目を見開いた。
「……なんだ、これ……」
彼女の口から、驚きの声が漏れる。
「……頭の中に、流れ込んでくる……
あんたの感覚が……!」
俺もまた、その変化に気づいていた。
彼女と繋がったことで、俺の五感が異常なほど鋭敏になっている。
洞窟の外で岩陰に潜む、小さなトカゲの心臓の音。
はるか遠くで瘴気が風に流れる、かすかな音。
その全てがまるで、自分のことのようにリアルに感じられた。
そして、その感覚の一部がルナにも共有されているのだ。
「……すごい……」
ルナは、自分の両手を見つめていた。
「これが……
仲間と、繋がるってこと……」
かつての彼女の力は、他者を一方的に従える「王」の力だった。
だが、この新しい力は違う。
他者と感覚を共有し、その力を借り受ける「仲間」の力。
孤独だった彼女が、初めて手にした温かい繋がり。
その事実に、彼女の琥珀色の瞳が喜びで潤んでいくのが分かった。
「これなら……戦える」
彼女は、力強く拳を握りしめた。
「あんたが頭脳になって、アタシが剣になる。
あんたが観測した敵の弱点を、アタシがその感覚を借りて正確に突く。
……二人なら、なんだってできる気がする」
「ああ。
俺たち二人が組めば、最強だ」
俺たちは、どちらからともなく笑い合っていた。
この奈落の谷に来てから、初めて心の底から。
その夜、俺たちは久しぶりにまともな食事を共にした。
俺が狩ってきた岩石猪の肉を、今度はルナが手際よく解体していく。
その動きには一切の無駄がなく、彼女がこの過酷な環境をたった一人で生き抜いてきたことの証だった。
二人で囲む焚き火は、一人で見ていた時よりもずっと温かく感じられた。
「……うまい」
肉にかじりつきながら、ルナがぽつりと呟いた。
その横顔は、炎に照らされて穏やかだった。
「ケントが焼いた肉は、アタシが今まで食ったどんなものより美味い」
「ただ焼いただけだ。
塩もコショウもないぞ」
「違う。
……味が、するんだ。
誰かと一緒に食べる飯は、こんな味がするんだなって……思い出した」
その言葉に俺は、何も言えなかった。
ただ、黙って自分の分の肉を彼女の前に差し出す。
彼女は一瞬だけ驚いた顔をしたが、やがて嬉しそうにそれを受け取った。
俺たちは、それから多くのことを語り合った。
それぞれの失われた故郷のこと。
この谷での、孤独な日々のこと。
そして、これから始まるであろう途方もない戦いのこと。
言葉を交わすたびに、俺たちの魂の絆はより強く、より確かなものへと変わっていく。
彼女の魂を覆っていた氷が完全に溶け、本来の快活で少しだけ負けず嫌いな、少女の顔が覗くようになった。
俺もまた復讐心だけで凝り固まっていた心が、彼女の存在によって少しずつほぐされていくのを感じていた。
食事を終え、二人で揺れる炎を見つめる。
奈落の谷の夜は、相変わらず闇と瘴気に満ちている。
だが、もうここはただの地獄ではなかった。
俺たちの、反撃の狼煙を上げるための最初の拠点だ。
「……さて、と」
俺は、立ち上がった。
そして、この谷の出口があるであろう北の空を見据える。
そこは、瘴気がひときわ濃く渦巻いている場所だ。
「まずは、このゴミ箱から出るところからだな」
俺の言葉に、隣に立ったルナが力強く頷いた。
その手には、黒曜石の短剣が握られている。
その瞳に、迷いはなかった。
「どこへでもついていく。
おまえが道を示せ。
アタシが、その道を切り開く」
最高の「頭脳」と、最強の「剣」。
揺るぎなき、最初の仲間。
俺は、彼女の信頼を背中で感じながら静かに息を吸い込んだ。
(待ってろよ、リュウガ)
(お前が捨てたゴミが、今からお前の世界をひっくり返しに行く)
だが、それは決して簡単な道ではないことも俺は理解していた。
俺の《物語の観測者》が、あの出口の方向からかすかな、だが異常に強力な魂の気配を感じ取っていたからだ。
それは、魔物のものではない。
人間。
「……そう簡単には、通してくれないみたいだな」
俺は、誰に言うでもなく呟いた。
こうして、俺たちの本当の戦いが始まったのだ。
◇ ◇ ◇
洞窟の中には、不思議な静寂が満ちていた。
先ほどまでの張り詰めた空気は嘘のように消え去り、代わりに魂と魂が繋がったことで生まれた、かすかで温かい熱が俺たち二人を包み込んでいる。
ルナは、まだ少し戸惑いが残る表情で俺の隣に座っていた。
その琥珀色の瞳はもう人間への憎しみに、燃えてはいない。
ただ、燃え尽きた荒野にようやく差し込んだ夜明けの光を、どう受け止めていいか分からないでいるようだった。
「……これから、どうするんだ?」
静寂を破ったのは、彼女の方だった。
その声は、以前の刺々しさが嘘のように穏やかだった。
「あんたの物語を、見せてもらった。
あんたも……アタシと同じなんだな。
あの男に、全てを奪われた」
「ああ」
俺は、短く頷いた。
「俺は、復讐する。
リュウガ個人にじゃない。
あいつが創り上げた人の心を部品のように扱う、あの偽りの理想郷……あの『仕組み』そのものをこの手で破壊する」
俺の言葉に、ルナはゴクリと唾をのんだ。
それはあまりにも、途方もない目標に聞こえただろう。
この奈落の底にいるたった、二人で。
だが、その瞳に宿ったのは絶望ではなかった。
むしろ、初めて生きる目的を見つけたかのような力強い光だった。
「……面白い」
彼女は、ふっと息を漏らすように笑った。
この谷に来てから、初めて見たかもしれない彼女の本当の笑顔。
「アタシも、連れていけ。
故郷を焼かれ、同胞を殺された……この借りは、必ず返さなきゃならない」
「お前は、もう俺の相棒だ。
拒否権はない」
俺がそう言うと、彼女は少しだけ驚いたように目を見開き、そして嬉しそうにうつむいた。
その仕草は、孤高の戦士ではなく年相応の少女のものだった。
「……なあ、ケント」
彼女が、おずおずと口を開く。
「アタシの、この新しい力……《絆を力に(ソウル・リンク)》ってやつ。
本当に、仲間と繋がることで強くなるのか……?」
「ああ。俺の《物語の観測者》がそう告げている。
お前が覚醒した時、俺の魂に流れ込んできた情報だからな。
間違いはない」
俺がスラムの少年を救ったように。
俺の力が、彼女の魂に眠る新たな可能性の種を芽吹かせた。
俺たちの力は、どこかで繋がっているのかもしれない。
「……試してみても、いいか?」
「どうやって?」
「あんたに、触れる」
彼女はそう言うと、少しだけ緊張した面持ちで俺の腕にそっとその手を伸ばした。
ひんやりとした、だが確かな温もりを持つ彼女の指が、俺の肌に触れる。
その瞬間。
パチッ、と再び微かな光が俺たちの間で弾けた。
今度は爆発的な光じゃない。
もっと穏やかで優しい光。
ルナの全身を、淡い光のオーラが包み込む。
彼女は、驚きに目を見開いた。
「……なんだ、これ……」
彼女の口から、驚きの声が漏れる。
「……頭の中に、流れ込んでくる……
あんたの感覚が……!」
俺もまた、その変化に気づいていた。
彼女と繋がったことで、俺の五感が異常なほど鋭敏になっている。
洞窟の外で岩陰に潜む、小さなトカゲの心臓の音。
はるか遠くで瘴気が風に流れる、かすかな音。
その全てがまるで、自分のことのようにリアルに感じられた。
そして、その感覚の一部がルナにも共有されているのだ。
「……すごい……」
ルナは、自分の両手を見つめていた。
「これが……
仲間と、繋がるってこと……」
かつての彼女の力は、他者を一方的に従える「王」の力だった。
だが、この新しい力は違う。
他者と感覚を共有し、その力を借り受ける「仲間」の力。
孤独だった彼女が、初めて手にした温かい繋がり。
その事実に、彼女の琥珀色の瞳が喜びで潤んでいくのが分かった。
「これなら……戦える」
彼女は、力強く拳を握りしめた。
「あんたが頭脳になって、アタシが剣になる。
あんたが観測した敵の弱点を、アタシがその感覚を借りて正確に突く。
……二人なら、なんだってできる気がする」
「ああ。
俺たち二人が組めば、最強だ」
俺たちは、どちらからともなく笑い合っていた。
この奈落の谷に来てから、初めて心の底から。
その夜、俺たちは久しぶりにまともな食事を共にした。
俺が狩ってきた岩石猪の肉を、今度はルナが手際よく解体していく。
その動きには一切の無駄がなく、彼女がこの過酷な環境をたった一人で生き抜いてきたことの証だった。
二人で囲む焚き火は、一人で見ていた時よりもずっと温かく感じられた。
「……うまい」
肉にかじりつきながら、ルナがぽつりと呟いた。
その横顔は、炎に照らされて穏やかだった。
「ケントが焼いた肉は、アタシが今まで食ったどんなものより美味い」
「ただ焼いただけだ。
塩もコショウもないぞ」
「違う。
……味が、するんだ。
誰かと一緒に食べる飯は、こんな味がするんだなって……思い出した」
その言葉に俺は、何も言えなかった。
ただ、黙って自分の分の肉を彼女の前に差し出す。
彼女は一瞬だけ驚いた顔をしたが、やがて嬉しそうにそれを受け取った。
俺たちは、それから多くのことを語り合った。
それぞれの失われた故郷のこと。
この谷での、孤独な日々のこと。
そして、これから始まるであろう途方もない戦いのこと。
言葉を交わすたびに、俺たちの魂の絆はより強く、より確かなものへと変わっていく。
彼女の魂を覆っていた氷が完全に溶け、本来の快活で少しだけ負けず嫌いな、少女の顔が覗くようになった。
俺もまた復讐心だけで凝り固まっていた心が、彼女の存在によって少しずつほぐされていくのを感じていた。
食事を終え、二人で揺れる炎を見つめる。
奈落の谷の夜は、相変わらず闇と瘴気に満ちている。
だが、もうここはただの地獄ではなかった。
俺たちの、反撃の狼煙を上げるための最初の拠点だ。
「……さて、と」
俺は、立ち上がった。
そして、この谷の出口があるであろう北の空を見据える。
そこは、瘴気がひときわ濃く渦巻いている場所だ。
「まずは、このゴミ箱から出るところからだな」
俺の言葉に、隣に立ったルナが力強く頷いた。
その手には、黒曜石の短剣が握られている。
その瞳に、迷いはなかった。
「どこへでもついていく。
おまえが道を示せ。
アタシが、その道を切り開く」
最高の「頭脳」と、最強の「剣」。
揺るぎなき、最初の仲間。
俺は、彼女の信頼を背中で感じながら静かに息を吸い込んだ。
(待ってろよ、リュウガ)
(お前が捨てたゴミが、今からお前の世界をひっくり返しに行く)
だが、それは決して簡単な道ではないことも俺は理解していた。
俺の《物語の観測者》が、あの出口の方向からかすかな、だが異常に強力な魂の気配を感じ取っていたからだ。
それは、魔物のものではない。
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