異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第10章:賭博都市と嘘喰いの道化師

第44話:自由都市カジノ・ロワイヤル

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​ 俺たち《アケボシ》の、本当の戦い。
その最初の舞台の幕が、今まさに上がろうとしていた。

​◇ ◇ ◇

​ 賭博都市、カジノ・ロワイヤル。

  その巨大な城門は、まるで全てを飲み込む獣のあごのように、俺たちの前に口を開けていた。

 門の上にはサイコロとコインをかたどった奇妙な紋章が掲げられ、その奥からは欲望と熱気が渦巻く生々しい人間の匂いが、むわりと流れ出してくる。

​「……ひどい匂い……」

 隣で、ルナが鼻をつまんで顔をしかめた。
獣人である彼女の鋭い嗅覚には、この街が放つ酒と汗、香水と金が混じり合った匂いは耐え難いものなのだろう。

​「……空気が、揺らいでおる」
 エルゴもまた、その手に持つ古びた傘を杖代わりに突きながら、険しい表情で街の空を見上げている。

「無数の魂の渇望かつぼうが、陽炎かげろうのように立ち上っておるわい。帝国とは、全く違う意味で危険な場所じゃな……」

​ 二人の言う通りだった。
神聖ロゴス帝国の管理された清潔さとも、奈落の谷のよどんだ絶望とも違う。
ここは、人間の欲望というものが一切のかせを外され、き出しのまま渦巻いている場所だ。

​ 前世で俺が歩いた、眠らない繁華街の空気に似ている。
だが、その濃度が尋常ではなかった。

​「行くぞ」
 俺は、二人に短く告げた。

「ここが、俺たちの最初の戦場だ」

 俺たちは、覚悟を決めて門をくぐった。
その瞬間、音の洪水が俺たちを襲った。

​ けたたましく鳴り響く音楽。
人々の熱狂的な歓声と、絶叫にも似た悲鳴。
絶え間なく鳴り続ける、スロットマシンのような機械のベルの音。
その全てがごちゃ混ぜになって、脳を直接揺さぶってくる。

​ 目の前に広がるのは、昼夜の感覚を狂わせる狂乱の光景だった。
空は、色とりどりの魔晶石でできた看板の光で、夜だというのに真昼のように明るい。

 道という道は人で埋め尽くされ、誰もが熱に浮かされたような顔で、一攫千金を夢見ていた。

​「おい、そこの兄ちゃん!
一杯どうだい!
今日の勝負運が上がる、幸運の酒だぜ!」

​「そこのお嬢さん、綺麗な毛皮だねぇ!
今日の勝負に負けたのかい?
俺が慰めてやるよ、一晩中な!」

​ すれ違う人々から、品のない声が次々と飛んでくる。

 ルナが、獣のうなり声を上げて威嚇いかくした。
その鋭い眼光に、声をかけてきた男たちは慌てて逃げていく。

​「……秩序が、ない」
 エルゴが、あきれたようにつぶやいた。

 彼の言う通り、この街には帝国の治安維持部隊のような、法を守らせる者の姿がどこにも見当たらない。

 代わりに闊歩かっぽしているのは、賭場の用心棒らしき屈強な男たちだけだ。
ここでは、法や秩序よりも腕力と金が全てを支配しているのだ。

​「まずは、情報収集と……
今夜の寝床の確保だな」

 俺は、人混みをかき分けながら二人に言った。

「それから、資金稼ぎもしないといけない」

 奈落の谷から持ってきたものなど、着の身着のまま。
俺たちの懐には、銅貨一枚すら入っていない。

​ 俺たちは、比較的規模の大きい路上の賭場へと足を運んだ。

 円形に作られた闘技場のような場所で、中央のテーブルを大勢の客が取り囲んでいる。
どうやら、カードゲームが行われているらしい。

​「張った、張った!
さあ、次の一枚で全てが決まる!
勝つのは赤か、黒か!」

​ ディーラーらしき男の威勢のいい声が響き渡る。
俺たちが人垣の後ろからその様子をうかがっていると、信じられない光景が目の前で繰り広げられた。

​ テーブルの上には、赤と黒の二枚のカードが伏せられている。
客たちが、どちらかにコインを賭けていく。
赤に賭ける者が、やや多いようだ。

 ディーラーはニヤリと笑うと、おもむろに黒のカードを指さした。

​「――勝負あり!
勝ちは、黒だ!」

​ その言葉と同時に、彼が指さした黒のカードが淡い光を放ち、その数字が『9』から『10』へと変化したのだ。
赤のカードは『9』のまま。

 わずかな差で、黒の勝ち。

​「うおおおおおっ!」

「やったぜ!
大儲けだ!」

​ 黒に賭けていた者たちから、歓声が上がる。
赤に賭けていた者たちは、悔しそうに舌打ちしながら賭け金を没収されていく。

​「……今のは……」
 ルナが、不審そうな声を上げる。

「……イカサマ、じゃないのか?」

​「ああ、間違いない」
 俺は、静かに頷いた。

天賦ギフトを使った、あからさまなイカサマだ」

​ 俺は、ディーラーの男に意識を集中させる。

物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》――発動。

​(ケントの思考:こいつの物語を、丸裸にしてやる――《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》!)

(脳内に、冷たい情報の奔流が流れ込む。)

​‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名前:ザック
状態:高揚こうよう、優越感
​魂の物語:
【過去】:何をやっても中途半端だった、平凡な人生。
【渇望】:勝ちたい。誰かに認められたい。この街で一番の勝者になりたい。
【信条】:勝てば官軍かんぐん。どんな手を使おうと、最後に立っていた者が正義だ。
天賦ギフト
不完全な模倣画インパーフェクト・コピー
能力概要:視認した物体の表面的な情報を、別の物体に上書きして模倣もほうする。ただし、完璧には模倣できず、必ず一つの「欠陥けっかん」が生じる。(例:カードの数字を1だけ変える、コインの裏表を逆にする、など限定的な操作しかできない)。
​攻略の糸口:
【精神】:彼の力は「勝ちたい」という強い渇望かつぼうに支えられている。彼の自信を打ち砕き、敗北の可能性を突きつけることで、能力の精度を著しく落とすことができる。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

​「……ひどいな」
俺の口から、乾いた笑いが漏れた。

 この街は、イカサマ師の天国だ。
だが、もっと驚くべきは周囲の客たちの反応だった。

 何人かは、今のイカサマに気づいているはずだ。
だが、誰もそれを非難しようとはしない。
それどころか、勝者であるディーラーを称賛しょうさんの目で見つめている。

​「……どうなってんだ、この街は」
 ルナが、吐き捨てるように言った。

「イカサマが、まかり通ってるのかよ」

​「ああ、そうらしい」

 俺は、この街の異常なルールを理解し始めていた。

「ここでは、『勝つこと』が全てなんだ。
どんな手段を使おうと、最後に勝った者が正義。
天賦ギフトは、そのための武器でしかない。
……リュウガの帝国とは、真逆の価値観だな」
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