異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第10章:賭博都市と嘘喰いの道化師

​第46話:眠らぬ街の情報網

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​ 俺たちの新たな戦いは、この欲望渦巻よくぼううずま不夜城ふやじょうから始まる。
その先に、どんな絶望が待っているのかも知らずに。

​ 俺たちは、カオスな街の喧騒をBGMに、静かに次の一手を練り始めていた。

​◇ ◇ ◇

​ 安宿『眠れる羊亭』の一室で、俺たちは一夜を明かした。

 窓の外からは、朝だというのに街の喧騒けんそうが絶え間なく聞こえてくる。
この街は、眠るということを知らないらしい。

​ 久しぶりのベッドで眠ったというのに、俺の頭は妙に冴えていた。
奈落の谷で身についた、常に周囲を警戒する獣の習性が抜けきらないせいだろう。

​「さて、と」

 俺は、ベッドから起き上がるとテーブルを囲んでいたルナとエルゴに向き直った。

「今日から、本格的に動くぞ」

​ 俺は、昨日宿の主人からおまけでもらった街の簡易な地図をテーブルの上に広げた。

​「俺たちの目的は、仲間探しだ。
だが、やみくもに探しても見つかるはずがない。
まずは、この街の情報を徹底的に集める。
特に、この街を牛耳ぎゅうじっているっていう謎の『ディーラー』。
そいつの正体と、そのやり方に不満を持つ者たちの存在をあぶり出すんだ」

​ 俺は、三本の指を立てた。

​「情報収集は、三手に分かれて行う。
ルナ、お前はその身体能力を活かして、チンピラや情報屋が集まるような裏路地を中心に探ってくれ。
ただし、戦闘は絶対に避けること。
いいな?」

​「……分かってるよ。
アタシは、あんたの剣なんだろ?
あんたの指示なしに、勝手に抜いたりはしないさ」

 ルナは、少しだけ不満そうに、だが素直にうなずいた。

​「エルゴ殿は、商人たちの組合や表通りの店が集まる商業区を頼みます。
金の動きが集まる場所には、必ず重要な情報も集まるはずです」

「うむ、承知した。
儂のこのなりならば、ただの物好きな爺として怪しまれもすまい」

 エルゴは、その手に持つ古びた傘を軽く叩いた。

​「そして俺は、酒場だ。
いつの世も、人の本音と噂話は酒と共にある」

​ 俺たちは、頷き合った。
ギルド《アケボシ》の、最初のミッションだ。

 俺は、昨日お婆さんとの勝負で勝ち取った銀貨数枚を二人に渡し、それぞれの持ち場へと散っていった。

​◇ ◇ ◇

​ 俺が向かったのは、街の中央広場に面したひときわ大きな酒場だった。

 『幸運の女神亭』という、いかにもな名前。
昼間だというのに、中には大勢の客が酒を飲み、大声で昨日の勝負の結果を語り合っていた。

​ 俺は、カウンターの隅に静かに腰を下ろし、一番安いエールを注文する。
そして、ただひたすらに聞き耳を立てた。

 元サラリーマンとしてつちかった、会議中に他の部署の噂話を聞き流すスキルが、こんなところで役に立つとはな。

​ 聞こえてくるのは、景気のいい話ばかりだった。
昨日のカード勝負で大勝ちしただの、どのディーラーが甘いだの。
だが、その会話の端々はしばしに必ず出てくる名前があった。

​「……やっぱり、この街で一番なのは『塔』のディーラー様だよな」

「ああ、間違いない。
あのお方に勝てさえすれば、一生遊んで暮らせるだけの金が手に入るって話だ」

​ 塔。
その単語に、俺は意識を集中させた。

 宿のお婆さんも言っていた、この街を牛耳ぎゅうじっているという謎のディーラーのことだろう。

​「だが、誰も勝てた奴はいないんだろ?」

「当たり前だ。
あのお方の天賦ギフトは、神の領域だって噂だぜ。
未来予知だの、確率操作だの……」

​ 俺は、バーテンダーにさりげなく声をかけた。

「すまない、旦那。
一つ聞きたいんだが、その『塔』っていうのはどこにあるんだ?」

​ 俺の問いに、バーテンダーは怪訝けげんそうな顔で俺を一瞥いちべつした。

「兄ちゃん、この街は初めてかい?
『塔』を知らねえなんて、モグリもいいところだぜ」

 彼は、あきれたように親指で店の外を指し示した。

​「あの、空にそびえてる一番バカでかい建物だよ。
この街の、いや、この自由都市連合の全ての富と欲望が流れ着く場所。
超巨大カジノ、『敗者の塔』さ」

​ 俺が店の外を見ると、確かに街の中心に天をくほどの巨大な塔がそびえ立っていた。

 黒曜石でできたかのような、不気味なほどの威圧感を放つ塔。
あれが、この街の心臓部か。

​「……敗者の塔、ね。
ずいぶんと物騒ぶっそうな名前だな」

「そりゃあ、そうさ。
あの塔に入って、笑って出てきた奴はいないって意味だからな。
誰もが勝者になることを夢見て挑み、そして全てを失って敗者として出てくる。
……だから、『敗者の塔』なのさ」

​ バーテンダーは、意味深な笑みを浮かべた。

 その瞳の奥には、俺を試すような光が宿っている。
この街の人間は、誰もが腹に一物いちもつ二物にもつも抱えているようだ。
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