異世界転生と『天賦（ギフト）』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる！

第10章：賭博都市と嘘喰いの道化師

​第45話：眠れる羊亭の賭け

​「まずは、宿を探そう。
話はそれからだ」

​　俺たちは、路地裏にある安宿を見つけ出した。
『眠れる羊亭』という、なんとも気の抜けた名前の宿だ。

　だが、その主人である羊の獣人のお婆さんは、見た目とは裏腹に鋭い目つきをしていた。

​「泊まりたいのかい？
うちは高いよ。
一泊、銀貨三枚だ」

「……生憎、持ち合わせがない」

「じゃあ、帰んな」

​　俺が食い下がろうとすると、お婆さんは一枚のカードをカウンターに叩きつけた。

​「……だが、あんたに運があるなら話は別さ。
このカードより、高い数字のカードを引けたら、今夜はタダで泊めてやる。
だが、負けたら……あんたたちのそのなめした皮の鎧、置いてってもらうよ」

​　この街では、何事もギャンブルで決まるらしい。
俺は、ふっと笑みを浮かべた。

　上等だ。

​「……その勝負、受けた」

​　お婆さんが、山札から一枚のカードを引く。

『８』。
なかなかの数字だ。

​「さあ、あんたの番だよ」

　俺は、ゆっくりと山札に手を伸ばした。
そして、カードを引く直前、俺は《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》の力を、目の前のお婆さんに向けた。

​（ケントの思考：あんたの物語、少しだけ覗のぞかせてもらうぞ！）

​　彼女の魂は、長年の勝負師としての経験と、この街で生き抜いてきたしたたかさに満ちている。

　だが、その奥底に。

【信条】：弱い者からは、搾しぼり取らない。見込みのある若者には、少しだけ夢を見せてやる。

　そんな、物語の一節いっせつを俺は見つけた。

​　俺は、カードを引いた。
そして、そのカードの数字を誰にも見せず、カウンターに伏せる。

　そして、言った。
前世で、何度も使った営業トーク。

​「……お婆さん。
俺たちは、ただの旅人じゃない。
俺たちは、この街の頂点に立つために来た」

​　俺の言葉に、お婆さんの目がピクリと動いた。

​「この街を牛耳っているっていう、謎のディーラー。
そいつに、俺たちは会いに来たんだ。
あんたがここで俺たちを泊めれば、この街の新しい伝説の始まりを、特等席で見ることになるかもしれないぜ？」

​　俺は、賭けたのだ。
彼女の魂の奥底にある、退屈な日常を壊してくれるかもしれないという、かすかな期待に。

​　お婆さんは、しばらく黙って俺の顔をじっと見つめていた。

　そして、やがて。

「……ふん、面白いことを言うじゃないか、小僧」

　彼女は、初めてその口元に笑みを浮かべた。

「……いいだろう。
そのカード、見せな。
あんたの運が、本物かどうか、この目で見届けてやるよ」

​　俺は、カードをゆっくりとひっくり返した。
そこに書かれていた数字は。

『９』だった。

​「……ふっ、やるじゃないか」

　お婆さんは、肩をすくめた。

「約束だ。
今夜は、一番いい部屋を使いな。
……ただし、朝までにこの街から逃げ出すような腰抜けじゃないことを祈るよ」

​　その夜。
俺たちは、久しぶりに屋根のある場所で眠ることができた。

　部屋の窓から見える、怪あやしいネオンの光を見つめながら、俺は仲間たちに告げた。

​「この街には、何かがある。
俺の《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》が、巨大で歪んだ物語の気配を感じ取っている」

​「……あの、ディーラーとかいう奴のことか？」
　ルナが、尋ねる。

​「ああ。まずは、この街を牛耳ぎゅうじっているっていう、そいつの正体を探ることから始めよう」

​　俺たちの新たな戦いは、この欲望渦巻よくぼううずまく不夜城ふやじょうから始まる。
その先に、どんな絶望が待っているのかも知らずに。

　俺たちは、カオスな街の喧騒をBGMに、静かに次の一手を練り始めていた。