異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第10章:賭博都市と嘘喰いの道化師

第47話:魂なき敗者たち

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​ 酒場で一通りの情報を集めた俺は、一度外の空気を吸うために広場へと出た。

 頭の中は、集めた情報でごちゃごちゃになっていた。

 謎のディーラー。
敗者の塔。
そして、誰も勝てないという神がかり的なギャンブルの腕。

​(……天賦ギフトを使っているのは、間違いないだろうな)

 だが、どんな能力なんだ?
この街では、イカサマは当たり前のはずだ。
それなのに、なぜそのディーラーだけが絶対的な勝者として君臨できている?

​ 俺が、そんなことを考えながら歩いていた、その時だった。
目の前を通り過ぎていく、奇妙な一団に俺は目を奪われた。

 身なりは、貴族か大商人か、非常に裕福そうな者たちばかりだった。
だが、その顔には何の表情もなかった。

 瞳には、一切の光がない。
まるで、魂を抜き取られた操り人形のように、うつろな足取りでどこかへ向かって歩いている。

 その異様な光景は、俺の脳裏にあのまわしい記憶を呼び覚ました。

​(……この感じ……。
奈落の谷で見た、リュウガに心を奪われた兵士たちと、同じ……!)

​ 俺は、ぞっとした。
そして、彼らが皆一様にある方向へと向かっていることに気づく。

 その先にあるのは。
黒曜石の巨大な塔。
『敗者の塔』だ。

​ 俺は、人混みにまぎれながら彼らの後を追った。
そして、彼らの中の一人、ひときわやつれた顔をした若い男に意識を集中させる。

 もはや、ためらいはない。

​(ケントの思考:お前の物語に、何があった――《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》!)

(脳内に、冷たい情報の奔流ほんりゅうが流れ込む。)

​‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名前:???
状態:魂の一部欠損けっそん。思考能力の著しい低下。
​魂の物語:
【過去】:裕福な商人の息子。ギャンブルが好きだった。
【悲劇】:『敗者の塔』で、謎のディーラーに全財産を賭けた勝負を挑み、敗北した。
【渇望】:[空白]
【信条】:[空白]
天賦ギフト:[観測不能]
​攻略の糸口:
【魂】:彼の魂の欠片かけらは、契約に基づき『敗者の塔』の最上階に保管されている。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

​「……なんだ、これは……」
俺は、思わず声を漏らした。

 魂が、欠けている。
リュウガの《天賦強奪ギフトドレイン》のように、根こそぎ奪われているのではない。

 まるでパズルのピースが一つだけ抜き取られたかのように、彼の魂の最も重要な部分――「渇望かつぼう」や「信条」といった、その人間をその人間たらしめる物語が、ごっそりと消え去っていたのだ。

​ その結果、彼は意思のない人形と化した。
ただ、生かされているだけの抜け殻に。

​(……魂を、賭け金に……)

​ 酒場で聞いた、ただの与太話よたばなしだと思っていた噂。
それが、おぞましい真実となって俺の目の前に突きつけられた。

​◇ ◇ ◇

​ 宿に戻った俺を待っていたのは、同じように険しい顔をしたルナとエルゴだった。
どうやら、二人も同じ情報にたどり着いたらしい。

​「おい、ケント、聞いたか!?」

 ルナが、興奮したようにまくし立てる。

「街のチンピラどもが、噂してたぜ。
『敗者の塔』でディーラーに負けた奴は、魂を賭け金にされるってな!」

​「商人たちの間でも、その話で持ちきりじゃ」

 エルゴも、重々しく口を開いた。

「最近、急に人格が変わってしまった同業者が何人もおるらしい。
皆、ディーラーに全財産を賭けて挑み、そして負けた者たちだという話じゃ」

​ 三人が集めた情報が、一つの恐ろしい結論を導き出す。

 この街の支配者である謎のディーラーは、敗者から金や財産だけでなく、その魂の一部を奪い取るのだ。

 そして、魂を奪われた者たちは意思のない人形と化し、ディーラーの忠実な奴隷となる。

​(……リュウガの《天賦強奪ギフトドレイン》とは違う……。
だが、これもまた人の魂をもてあそぶ、悪魔の所業……!)

​「どうするんだ、ケント?」

 ルナが、俺の顔を覗き込む。

「こんなヤツ、放っておけないだろ!」

​「うむ。じゃが、相手は神出鬼没しんしゅつきぼつ
下手に動けば、我らも奴の罠にはまるやもしれん」
エルゴが、冷静に釘を刺す。

​ その通りだ。
このディーラーは、ただのイカサマ師ではない。
天賦ギフトを使って、人の魂に干渉するほどの力を持つ危険な存在だ。
俺たちは、慎重に行動しなければならない。

 まずは、奴の正体と能力を完全に把握することが先決だ。
俺たちが仲間を探すためには、この街の歪んだ支配を終わらせる必要があるのかもしれない。

​ 俺が、今後の対策を口にしようとした、その時だった。

​ ドンッ!!

​ 宿の古びた扉が、まるで巨人に蹴破られたかのようにけたたましい音を立てて吹き飛んだ。

​「―――ッ!?」

​ 俺たちは、とっさに身構える。
破壊された扉の向こう側。
夕暮れの逆光を背に、一人の男が立っていた。

 道化師ピエロのような、派手で悪趣味な衣装。
顔には、涙を描いた不気味な化粧。
そしてその口元には、三日月のようにゆがんだ、狂気的な笑みが浮かんでいた。

​ その男の姿を認めた瞬間、俺の魂が警鐘けいしょうを鳴らした。

 間違いない。
こいつは、この街の人間じゃない。
俺が、よく知っている匂い。
あの、偽りの理想郷の匂いだ。

​「やあやあ!
見ーつけた!」

​ 道化師ピエロは、芝居がかった声で甲高かんだかく叫んだ。

​「リュウガ様が、わざわざゴミ箱に捨ててやったっていうのに、まだ生きていたんだねぇ!」

 その瞳が、俺たち三人を順番にめるように見つめる。

「とっておきのゴミクズの皆さんじゃないか!」

​ 帝国の、追手。
最悪のタイミングで、最悪の敵が現れた。
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