55 / 150
第11章:敗者の塔と魂のディーラー
第55話:魂の質屋のルール
しおりを挟む
俺は、一旦観測を中断した。
直接的な観測が無理なら、別の方法で攻めるしかない。
俺は、椅子に深く座り直し、腕を組んだ。
そして、前世で幾度となく繰り返してきた、あの顔を作る。
感情の全てを消し去った、鉄壁のポーカーフェイス。
「……ディーラーさんよ」
俺は、わざと気だるそうな声で言った。
「あんたのやり方は、少し芸がないな」
「……と、おっしゃいますと?」
ディーラーの穏やかな表情が、初めてわずかに揺らいだ。
「あんたがやっていることは、ただ相手の心を読んで、その裏をかいているだけだ。
それは、ギャンブルじゃない。
ただの、一方的な作業だ。
……見ていて、退屈なんだよ」
俺の言葉は、挑発だ。
彼のプライドを、その根底から揺さぶるための。
俺が観測した断片情報によれば、彼の魂は「魂への渇望」に満ちている。
彼は、ただ勝ちたいだけじゃない。
相手の魂が希望から絶望へと堕ちる、その瞬間を最高のエンターテインメントとして楽しんでいるのだ。
その彼の美学を、俺は「退屈だ」と断じた。
「……ほう。
では、あなた様はどのようなゲームがお望みで?」
ディーラーの声が、わずかに低くなった。
怒りの色だ。
よし、食いついてきた。
「そうだな……。
俺は、結果にはあまり興味がないんだ」
俺は、大嘘をついた。
「俺が興味があるのは、その過程だ。
勝負が決まる、その瞬間。
人が、自らの『負け』を悟る、あの瞬間がたまらなく好きなんでね」
俺は、彼の言葉をそのままオウム返しにしてやった。
ディーラーの仮面の下で、その目が細められるのを感じる。
「あんたの天賦、《魂の質屋》だったか?
面白い能力だが、少しだけ疑問があってな」
「……何でしょうかな?」
「あんたの力は、いつ発動するんだ?」
俺は、核心を突いた。
「カードがめくられて、勝敗が決した瞬間か?
いや、違うな。
それじゃあ、面白くない。
あんたの美学に反する」
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
そして、テーブルに身を乗り出すようにして、ディーラーの顔を覗き込む。
「あんたの力は、敗者が自らの『敗北を認めた』瞬間に発動する。
そうだろ?」
「挑戦者が『参った』と口にした瞬間、あるいはその心が完全に折れて絶望を受け入れた瞬間。
その、魂が最も無防備になった一瞬を狙って、あんたはその最も美味い部分を奪い取るんだ。
……違うか?」
その言葉は、静まり返ったホールに響き渡った。
ディーラーは、何も答えない。
だが、その仮面の下で彼の魂が激しく揺れ動いているのを、俺は確かに感じていた。
図星だったのだ。
「面白いじゃないか、挑戦者様」
長い沈黙の後、ディーラーがようやく口を開いた。
その声は、もはや穏やかではなかった。
獲物を前にした、捕食者の声。
「……どうやらあなた様は、ただのお客様ではないらしい。
私のゲームの、本当のルールに気づいた最初の挑戦者やもしれませんな」
「だとしたら?」
「ならば、こちらもそれ相応の敬意を払わねばなりますまい」
ディーラーは、そう言うとゆっくりと立ち上がった。
その全身から、今までとは比べ物にならないほどの禍々しいオーラが放たれる。
「小細工は、もうやめにしましょう。
ここからは、私とあなた様の魂の物語を賭けた、真剣勝負とまいりましょうぞ」
俺の心理戦は、成功した。
奴の天賦の、さらなるルールを暴き出すことに。
だが同時に、俺は眠れる獅子を本気で怒らせてしまったのかもしれない。
俺たちの、本当のゲームが今、始まろうとしていた。
直接的な観測が無理なら、別の方法で攻めるしかない。
俺は、椅子に深く座り直し、腕を組んだ。
そして、前世で幾度となく繰り返してきた、あの顔を作る。
感情の全てを消し去った、鉄壁のポーカーフェイス。
「……ディーラーさんよ」
俺は、わざと気だるそうな声で言った。
「あんたのやり方は、少し芸がないな」
「……と、おっしゃいますと?」
ディーラーの穏やかな表情が、初めてわずかに揺らいだ。
「あんたがやっていることは、ただ相手の心を読んで、その裏をかいているだけだ。
それは、ギャンブルじゃない。
ただの、一方的な作業だ。
……見ていて、退屈なんだよ」
俺の言葉は、挑発だ。
彼のプライドを、その根底から揺さぶるための。
俺が観測した断片情報によれば、彼の魂は「魂への渇望」に満ちている。
彼は、ただ勝ちたいだけじゃない。
相手の魂が希望から絶望へと堕ちる、その瞬間を最高のエンターテインメントとして楽しんでいるのだ。
その彼の美学を、俺は「退屈だ」と断じた。
「……ほう。
では、あなた様はどのようなゲームがお望みで?」
ディーラーの声が、わずかに低くなった。
怒りの色だ。
よし、食いついてきた。
「そうだな……。
俺は、結果にはあまり興味がないんだ」
俺は、大嘘をついた。
「俺が興味があるのは、その過程だ。
勝負が決まる、その瞬間。
人が、自らの『負け』を悟る、あの瞬間がたまらなく好きなんでね」
俺は、彼の言葉をそのままオウム返しにしてやった。
ディーラーの仮面の下で、その目が細められるのを感じる。
「あんたの天賦、《魂の質屋》だったか?
面白い能力だが、少しだけ疑問があってな」
「……何でしょうかな?」
「あんたの力は、いつ発動するんだ?」
俺は、核心を突いた。
「カードがめくられて、勝敗が決した瞬間か?
いや、違うな。
それじゃあ、面白くない。
あんたの美学に反する」
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
そして、テーブルに身を乗り出すようにして、ディーラーの顔を覗き込む。
「あんたの力は、敗者が自らの『敗北を認めた』瞬間に発動する。
そうだろ?」
「挑戦者が『参った』と口にした瞬間、あるいはその心が完全に折れて絶望を受け入れた瞬間。
その、魂が最も無防備になった一瞬を狙って、あんたはその最も美味い部分を奪い取るんだ。
……違うか?」
その言葉は、静まり返ったホールに響き渡った。
ディーラーは、何も答えない。
だが、その仮面の下で彼の魂が激しく揺れ動いているのを、俺は確かに感じていた。
図星だったのだ。
「面白いじゃないか、挑戦者様」
長い沈黙の後、ディーラーがようやく口を開いた。
その声は、もはや穏やかではなかった。
獲物を前にした、捕食者の声。
「……どうやらあなた様は、ただのお客様ではないらしい。
私のゲームの、本当のルールに気づいた最初の挑戦者やもしれませんな」
「だとしたら?」
「ならば、こちらもそれ相応の敬意を払わねばなりますまい」
ディーラーは、そう言うとゆっくりと立ち上がった。
その全身から、今までとは比べ物にならないほどの禍々しいオーラが放たれる。
「小細工は、もうやめにしましょう。
ここからは、私とあなた様の魂の物語を賭けた、真剣勝負とまいりましょうぞ」
俺の心理戦は、成功した。
奴の天賦の、さらなるルールを暴き出すことに。
だが同時に、俺は眠れる獅子を本気で怒らせてしまったのかもしれない。
俺たちの、本当のゲームが今、始まろうとしていた。
20
あなたにおすすめの小説
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
家族と魔法と異世界ライフ!〜お父さん、転生したら無職だったよ〜
三瀬夕
ファンタジー
「俺は加藤陽介、36歳。普通のサラリーマンだ。日本のある町で、家族5人、慎ましく暮らしている。どこにでいる一般家庭…のはずだったんだけど……ある朝、玄関を開けたら、そこは異世界だった。一体、何が起きたんだ?転生?転移?てか、タイトル何これ?誰が考えたの?」
「えー、可愛いし、いいじゃん!ぴったりじゃない?私は楽しいし」
「あなたはね、魔導師だもん。異世界満喫できるじゃん。俺の職業が何か言える?」
「………無職」
「サブタイトルで傷、えぐらないでよ」
「だって、哀愁すごかったから。それに、私のことだけだと、寂しいし…」
「あれ?理沙が考えてくれたの?」
「そうだよ、一生懸命考えました」
「ありがとな……気持ちは嬉しいんだけど、タイトルで俺のキャリア終わっちゃってる気がするんだよな」
「陽介の分まで、私が頑張るね」
「いや、絶対、“職業”を手に入れてみせる」
突然、異世界に放り込まれた加藤家。
これから先、一体、何が待ち受けているのか。
無職になっちゃったお父さんとその家族が織りなす、異世界コメディー?
愛する妻、まだ幼い子どもたち…みんなの笑顔を守れるのは俺しかいない。
──家族は俺が、守る!
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
「元」面倒くさがりの異世界無双
空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。
「カイ=マールス」と。
よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
異世界おっさん一人飯
SILVER・BACK(アマゴリオ)
ファンタジー
サラリーマンのおっさんが事故に遭って異世界転生。
秀でた才能もチートもないが、出世欲もなく虚栄心もない。安全第一で冒険者として過ごし生き残る日々。
それは前世からの趣味である美味しいご飯を異世界でも食べ歩くためだった。
推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる
ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。
彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。
だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。
結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。
そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた!
主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。
ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる