異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第11章:敗者の塔と魂のディーラー

第55話:魂の質屋のルール

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​ 俺は、一旦観測を中断した。
直接的な観測が無理なら、別の方法で攻めるしかない。

 俺は、椅子に深く座り直し、腕を組んだ。
そして、前世で幾度となく繰り返してきた、あの顔を作る。

 感情の全てを消し去った、鉄壁のポーカーフェイス。

​「……ディーラーさんよ」

 俺は、わざと気だるそうな声で言った。

「あんたのやり方は、少し芸がないな」

​「……と、おっしゃいますと?」

 ディーラーの穏やかな表情が、初めてわずかに揺らいだ。

​「あんたがやっていることは、ただ相手の心を読んで、その裏をかいているだけだ。
それは、ギャンブルじゃない。
ただの、一方的な作業だ。
……見ていて、退屈なんだよ」

​ 俺の言葉は、挑発だ。
彼のプライドを、その根底から揺さぶるための。

 俺が観測した断片情報によれば、彼の魂は「魂への渇望かつぼう」に満ちている。
彼は、ただ勝ちたいだけじゃない。
相手の魂が希望から絶望へとちる、その瞬間を最高のエンターテインメントとして楽しんでいるのだ。

 その彼の美学を、俺は「退屈だ」と断じた。

​「……ほう。
では、あなた様はどのようなゲームがお望みで?」

 ディーラーの声が、わずかに低くなった。

 怒りの色だ。
よし、食いついてきた。

​「そうだな……。
俺は、結果にはあまり興味がないんだ」

 俺は、大嘘をついた。

「俺が興味があるのは、その過程だ。
勝負が決まる、その瞬間。
人が、自らの『負け』を悟る、あの瞬間がたまらなく好きなんでね」

​ 俺は、彼の言葉をそのままオウム返しにしてやった。
ディーラーの仮面の下で、その目が細められるのを感じる。

​「あんたの天賦ギフト、《魂の質屋ソウル・ブローカー》だったか?
面白い能力だが、少しだけ疑問があってな」

「……何でしょうかな?」

​「あんたの力は、いつ発動するんだ?」

 俺は、核心を突いた。

「カードがめくられて、勝敗が決した瞬間か?
いや、違うな。
それじゃあ、面白くない。
あんたの美学に反する」

​ 俺は、ゆっくりと立ち上がった。
そして、テーブルに身を乗り出すようにして、ディーラーの顔をのぞき込む。

​「あんたの力は、敗者が自らの『敗北を認めた』瞬間に発動する。
そうだろ?」

「挑戦者が『参った』と口にした瞬間、あるいはその心が完全に折れて絶望を受け入れた瞬間。
その、魂が最も無防備になった一瞬を狙って、あんたはその最も美味い部分を奪い取るんだ。
……違うか?」

​ その言葉は、静まり返ったホールに響き渡った。
ディーラーは、何も答えない。

 だが、その仮面の下で彼の魂が激しく揺れ動いているのを、俺は確かに感じていた。
図星だったのだ。

​「面白いじゃないか、挑戦者様」

 長い沈黙の後、ディーラーがようやく口を開いた。
その声は、もはや穏やかではなかった。
獲物を前にした、捕食者の声。

「……どうやらあなた様は、ただのお客様ではないらしい。
私のゲームの、本当のルールに気づいた最初の挑戦者やもしれませんな」

​「だとしたら?」

「ならば、こちらもそれ相応の敬意を払わねばなりますまい」

​ ディーラーは、そう言うとゆっくりと立ち上がった。
その全身から、今までとは比べ物にならないほどの禍々まがまがしいオーラが放たれる。

​「小細工は、もうやめにしましょう。
ここからは、私とあなた様の魂の物語を賭けた、真剣勝負とまいりましょうぞ」

​ 俺の心理戦は、成功した。
奴の天賦ギフトの、さらなるルールを暴き出すことに。

 だが同時に、俺は眠れる獅子を本気で怒らせてしまったのかもしれない。
俺たちの、本当のゲームが今、始まろうとしていた。
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