異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第11章:敗者の塔と魂のディーラー

第53話:軍師、盤上へ

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「――ご『同意』、感謝いたします」

 ディーラーは、深く、うやうやしく頭を下げた。

 その瞬間、俺の《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》が、二人の間に見えない「契約」が結ばれるのを確かに捉えた。

(……『同意』……!
やはり、それが発動条件か!)

 勝負は、あっけなく決した。

 ディーラーが配った最後の一枚のカードが、バルザックの希望を無慈悲に打ち砕く。

 彼の顔から、血の気が引いていく。
その表情が、希望から驚愕きょうがくへ、そして完全な絶望へと変わっていく様を、俺はただ見ていることしかできなかった。

「……そん……な……」

 バルザックが、力なくその場に崩れ落ちようとした、その時だった。

 彼の体から、ふわりと淡い光の粒子のようなものが抜け出し、ディーラーの仮面の中へと吸い込まれていく。

 それは、あまりにも静かで、あまりにも冒涜的ぼうとくてきな光景だった。
光が完全に吸い込まれると、バルザックの瞳から急速に光が失われていった。

 ついさっきまで欲望に燃えていた瞳が、ガラス玉のようにうつろなものへと変わる。

 彼はゆっくりと立ち上がると、何の感情も見せない顔でステージの脇に控えていた他の人形たちの列に加わった。

 また一体、魂を奪われた人形が生まれた瞬間だった。

「…………」

 俺は、マスター・ディーラーに意識を集中させた。
彼の魂の物語を、その天賦ギフトの正体を、暴き出すために。

 《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》――発動!

(こいつの物語を、丸裸にしてやる――《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》!)

(脳内に、冷たい情報の奔流ほんりゅうが流れ込む。)

 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
 名前:???(マスター・ディーラー)
 状態:愉悦ゆえつ、魂への渇望かつぼう
 ​魂の物語:???
【観測不能】:強力な精神防壁により、深層観測を拒絶
 ​天賦ギフト:(断片情報)
 《魂の質屋ソウル・ブローカー
 能力概要(推測):ゲームの敗者から、その魂の最も強い「渇望かつぼう」を奪い取る。
 [制約・ルール](推測):能力の発動には、対象者の明確な「同意」が必要。
 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

「……ひどい、能力だ……」

 俺の口から、乾いた声が漏れた。

 リュウガの《天賦強奪ギフトドレイン》のように、全てを奪うのではない。
その人間の、生きる希望そのものである「渇望かつぼう」だけを、ピンポイントで抜き取るのだ。

 だからこそ、彼らは抜け殻になる。
夢も、希望も、何かを欲する心さえも失った、ただ生きているだけの人形に。

「……どうするんだ、ケント」

 ルナが、震える声で尋ねた。

「あんな奴、アタシが今すぐ……!」

「……待て」
俺は、彼女を制した。

「力押しでは、ダメだ。
この塔全体が、奴の天賦ギフトそのものなんだ。
奴のゲームのルールに乗らない限り、俺たちは奴に触れることすらできない」

「では、どうするというのじゃ?」
 エルゴが、険しい顔で問う。

「あのゲームに参加すれば、我らもまた魂を奪われる危険があるぞ」

「ああ、危険な賭けだ」
 俺は、静かに頷いた。

「だが、やるしかない」

 このゆがんだゲームを終わらせる方法は、ただ一つ。
このゲームに参加し、ディーラー自身を打ち負かすことだ。

 そのためには、まず奴の懐に潜り込み、その魂の物語を完全に観測する必要がある。

「俺が行く」

 俺は、決意を固めた。

「俺がプレイヤーとなり、奴と直接対峙する」

「無茶だ!」
「危険すぎるわい!」
二人が、同時に反対の声を上げる。

「大丈夫だ」

 俺は、二人を安心させるように、不敵に笑って見せた。

「俺には、前世でつちかった最高の武器がある。
それに、俺の魂には奴が喉から手が出るほど欲しがる、極上の『渇望かつぼう』があるはずだからな」

 そうだ。
リュウガへの、復讐心という名のどす黒い渇望かつぼうが。
これほど、奴を誘き寄せるための最高の餌はないだろう。

 俺は、二人の制止を振り切り、熱狂に沸くステージへと向かって歩き出した。
背中に、仲間たちの心配そうな視線を感じる。

 だが、俺の心は不思議なほど静かだった。
前世で、俺はいつだって安全な場所から物事を眺めているだけの傍観者ぼうかんしゃだった。

 だが、今は違う。
俺は、自らの意志でこの狂ったゲームの盤上へと上がるのだ。

 これは、ただのギャンブルじゃない。
この街にとらわれた、全ての魂を解放するための戦いだ。
そして、俺自身の物語を取り戻すための、危険な賭け。

 俺は、静かに息を吸い込んだ。
その目は、すでに獲物を見据える狩人の目をしていた。
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