異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第11章:敗者の塔と魂のディーラー

第56話:盗まれた才能

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​ 俺の心理戦は、成功した。
奴の天賦ギフトの、さらなるルールを暴き出すことに。

 だが同時に、俺は眠れる獅子を本気で怒らせてしまったのかもしれない。
俺たちの、本当のゲームが今、始まろうとしていた。

​◇ ◇ ◇

​「小細工は、もうやめにしましょう。
ここからは、私とあなた様の魂の物語を賭けた、真剣勝負とまいりましょうぞ」

​ マスター・ディーラーの声は、もはや穏やかではなかった。
その声に宿るのは、獲物を前にした捕食者の、き出しの闘争心。

彼がまとうオーラが、質を変えた。
今までのような遊戯の空気は消え失せ、代わりに肌を刺すような冷たい殺意がホール全体を支配する。

​ 観客たちは、その異様な変化に息を呑んでいた。
誰もが、このゲームがただの余興ではない、魂と魂の殺し合いなのだということを肌で感じ取っていた。

​「……ケント……」

 観客席のルナが、心配そうに俺の名をつぶやくのがルナの天賦ギフトを通じて聞こえる。

 大丈夫だ、と俺は心の中で答えた。
むしろ、望むところだ。
奴が本気になればなるほど、その魂の物語もまた、その仮面の下から姿を現すはずだからだ。

​「では、ゲームを続けましょうか」

 ディーラーは、黒檀こくたんのテーブルに新しいカードの山を置いた。

「ルールは先ほどと同じ、『ハイ&ロー』。
ですが、ここからは本気でいかせていただきます」

​ 彼はそう言うと、一枚のカードをめくった。

 数字は、『2』。

 最低の数字だ。
次にめくるカードは、ほぼ間違いなくこれより『高い(ハイ)』だろう。
あまりにも、分かりやすい誘い。

​「さあ、挑戦者様。お選びください」

 ディーラーは、穏やかな笑みを浮かべて俺を促す。
だが、俺はその誘いには乗らなかった。

 俺の《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》が、彼の魂の表面で渦巻く新たな力の気配を捉えていたからだ。

 それは、彼自身の力ではない。
彼が今まで奪ってきた、誰かの物語の欠片かけら

​(……こいつ、何かを隠している)

​ 俺は、あえて言った。

「――ローだ」

​ その言葉に、ホール全体がどよめいた。
『2』より低いカードなど、残りの山札に『A(エース)』の一枚しかない。
確率論で言えば、あまりにも愚かな選択。

 だが、俺は賭けたのだ。
こいつが、ただの確率論では動いていないという可能性に。

​「……ほう」

 ディーラーの仮面の下で、その目が面白そうに細められたのが分かった。

「ロー、でございますか。
実に、面白いご選択だ」

 彼は、ゆっくりと次のカードをめくった。
そこに現れた数字は。

『A(エース)』だった。

​「なっ……!?」

「馬鹿な……ありえない確率だぞ!」

 観客席から、驚愕きょうがくの声が上がる。
俺は、静かに息を吐いた。

 やはりな。

​「……見事です、挑戦者様」

 ディーラーは、少しも動揺した様子を見せずに拍手を送ってきた。

「ですが、今の勝負、あなた様はただの運で勝ったわけではございませんな。
……私の『癖』を、お見抜きになられたか」

​「癖?」

「ええ。
私はどうやら、心理的に追い詰められると無意識のうちに最も確率の低い選択肢を選んでしまう、という悪い癖があるようでして」

 彼は、白々しらじらしく言った。
だが、俺はだまされない。
今の勝負は、ただのジャブ。
俺の出方を探るための、巧妙な罠だ。

​ ゲームは、続行された。

 ディーラーがめくるカード。
俺が、ハイかローかを選択する。
その単純な繰り返しの裏で、俺たちの魂は激しく火花を散らしていた。

​ 俺は、観測を続ける。
彼の魂を覆う、鏡の迷路のような精神防壁。
そのわずかな揺らぎから、彼の思考の断片を読み取ろうと試みる。

 だが、その壁はあまりにも強固だった。
俺の意識が深層に近づこうとするたびに、俺自身の復讐心が反射してきて思考を乱される。

​(くそっ……!
これでは、奴の物語が読めない……!)

​ 焦りが、生まれる。
その一瞬の焦りを、ディーラーは見逃さなかった。

 彼の全身から放たれるオーラが、再びその質を変える。

​「――おや、どうなさいましたかな?
少し、集中力が切れてきたご様子」

 ディーラーの口元が、三日月のようにゆがんだ。

「ならば、ここからは少しだけ『ハンデ』を差し上げましょう」

 彼はそう言うと、すっと目を閉じた。
その瞬間、彼の魂から二つの、全く異なる質のオーラが立ち上った。

 それは、彼自身の魂のものではない。
彼が今までに奪ってきた、誰かの物語の欠片かけら
彼が、その才能を行使し始めたのだ。

​ 最初に立ち上ったのは、どこまでも理知的で、冷徹な計算のオーラ。
次に放たれたのは、一度見たものを決して忘れないという、完璧な記憶のオーラ。

​「……!」

 俺は、息を呑んだ。

 「百年に一人の記憶力」と「絶対的な計算能力」。

 ギャンブルにおいて、これほど凶悪な組み合わせがあるだろうか。
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