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第11章:敗者の塔と魂のディーラー
第57話:盤上の乱入者
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ディーラーは、目を開けた。
その瞳は、もはや人間のものではなかった。
全ての確率を支配し、全ての未来を見通す神の目をしていた。
彼は、シャッフルされたカードの山を、ただ一瞥しただけだった。
だが、それだけで十分だったのだ。
彼の「百年に一人の記憶力」が、五十二枚全てのカードの順番を完全に記憶した。
そして、「絶対的な計算能力」が、その並びから導き出される全ての確率を瞬時に計算し尽くす。
もはや、これはギャンブルではない。
答えの分かりきった、ただの確認作業だ。
「さあ、続けましょうか」
ディーラーの声は、もはや何の感情も宿していなかった。
彼が、一枚のカードをめくる。
『K(キング)』。
「……ローだ」
俺は、苦し紛れに答える。
「残念でしたな。答えは『A(エース)』。私の勝ちです」
ディーラーは、淡々と告げた。
まるで、未来の歴史書を読み上げるかのように。
次のカードは、『3』。
「……ハイだ」
「残念。
答えは『2』。私の勝ちです」
次のカードは、『10』。
「…………」
俺は、もう答えることができなかった。
無駄だ。
俺がどちらを選ぼうと、彼はその裏をかく未来を知っている。
俺は、完全に詰んでいた。
「どうなさいましたかな、挑戦者様?」
ディーラーは、心底楽しそうに問いかけた。
「あなた様の得意な心理戦は、もう終わりですかな?
絶対的な『数字』の前では、人の心など無力なのですよ」
俺は、奥歯を強く噛み締めた。
額から、冷や汗が流れる。
これが、彼の本当の力。
他人の才能を奪い、自らの武器として自在に行使する、魂喰らいの悪魔。
「さあ、最後の勝負とまいりましょうか」
ディーラーは、一枚のカードをテーブルに伏せた。
「この一枚が、ハイかローか。
それさえ当てれば、あなた様の勝ちです。
ですが、もし外せば……」
彼は、俺の魂をじっと見つめた。
その視線は、もはや俺の復讐心を喰らうことを隠そうともしない、剥き出しの渇望に満ちている。
「あなた様の、その美しい『復讐心』、私が美味しく頂戴いたします」
観客席で、ルナとエルゴが息を呑むのが分かった。
俺は、絶体絶命の窮地に立たされていた。
どちらを選んでも、待っているのは敗北だけ。
そして、魂の喪失。
リュウガへの復讐を誓ったこの物語が、こんな場所でこんな男に喰われて、終わるのか。
(……ふざけるな……)
俺の心の中で、どす黒い炎が再び燃え上がった。
俺は、まだ負けていない。
敗北を、認めていない。
こいつの天賦のルール――「敗北を認めた瞬間に魂が徴収される」。
その核心だけが、俺の最後の砦だった。
俺が「参った」と言わない限り、この勝負はまだ終わらない。
俺が、最後の抵抗を試みようと口を開いた、その時だった。
「―――そこまでだッ!!」
凛とした、少女の声がホールに響き渡った。
声の主は、ルナだった。
彼女は観客席から飛び出すと、用心棒たちの制止を振り切り、獣のような速さでステージへと駆け上がってきた。
そして、俺とディーラーの間に割って入るように、その身を躍らせる。
「……なっ!?」
ディーラーが、初めて狼狽の声を上げた。
彼の完璧なゲーム盤が、想定外の乱入者によってひっくり返されたのだ。
「……ルナ……!
よせ、来るな!」
俺は、叫んだ。
彼女がここにいれば、彼女もまたこの悪魔のゲームに巻き込まれてしまう。
だが、ルナは俺の制止を振り切った。
「うるさい!」
彼女は、俺を鋭く睨みつけた。
その琥珀色の瞳には、涙が浮かんでいる。
だが、それは悲しみの涙ではない。
大切な仲間が貶められたことへの、激しい怒りの涙だった。
「……アタシの仲間を、コケにするのも大概にしろよ、この仮面ヤローが!」
ルナは、ディーラーに向かって牙を剥いた。
その全身から、淡い光のオーラが立ち上っている。
《絆を力に》が、彼女の意志で発動していた。
「……ほう」
ディーラーは、一瞬の狼狽からすぐに立ち直ると、今度はルナを興味深そうに観察し始めた。
その視線は、俺の復讐心とは全く違う、新たな輝きを見つけた鑑定家の目をしていた。
「……これは、これは……。
復讐心という名の、どす黒く美しい『個』の輝きも素晴らしいですが……」
彼は、うっとりとした声で言った。
「仲間との『絆』という名の、温かく力強い『群』の輝き。
なんと、なんと素晴らしい!
どちらも、私のコレクションに加えるにふさわしい逸品ですな!」
その言葉に、俺はぞっとした。
こいつ、ルナと俺の魂を、両方とも喰らうつもりか。
「……ゲームは中断のようですね」
ディーラーは、芝居がかった仕草で肩をすくめた。
「よろしいでしょう。
この無粋な乱入は、あなた方の絆の強さの証明と見なしましょう。
ならば、こちらもそれ相応の舞台をご用意するのが、ホストとしての礼儀というもの」
彼は、ゆっくりと両手を広げた。
その声は、ホール全体に響き渡る。
「―――これより、最終ゲームを執り行います!」
「挑戦者は、そちらの三人、チーム《アケボシ》の皆様!」
「そして賭けるは、あなた方三人の魂の全て!」
その言葉に、ホールは水を打ったように静まり返った。
そして、次の瞬間、今日一番の熱狂的な歓声が爆発した。
ディーラーは、俺たちに向かって深く、恭しく頭を下げた。
その仮面の下で、蛇のように冷たい笑みが浮かんでいるのが、俺にははっきりと見えた。
「さあ、始めましょうか。
あなた方の絆が本物か、それともただのもろい幻想か。
この私とのチーム戦で、証明していただきますぞ」
その瞳は、もはや人間のものではなかった。
全ての確率を支配し、全ての未来を見通す神の目をしていた。
彼は、シャッフルされたカードの山を、ただ一瞥しただけだった。
だが、それだけで十分だったのだ。
彼の「百年に一人の記憶力」が、五十二枚全てのカードの順番を完全に記憶した。
そして、「絶対的な計算能力」が、その並びから導き出される全ての確率を瞬時に計算し尽くす。
もはや、これはギャンブルではない。
答えの分かりきった、ただの確認作業だ。
「さあ、続けましょうか」
ディーラーの声は、もはや何の感情も宿していなかった。
彼が、一枚のカードをめくる。
『K(キング)』。
「……ローだ」
俺は、苦し紛れに答える。
「残念でしたな。答えは『A(エース)』。私の勝ちです」
ディーラーは、淡々と告げた。
まるで、未来の歴史書を読み上げるかのように。
次のカードは、『3』。
「……ハイだ」
「残念。
答えは『2』。私の勝ちです」
次のカードは、『10』。
「…………」
俺は、もう答えることができなかった。
無駄だ。
俺がどちらを選ぼうと、彼はその裏をかく未来を知っている。
俺は、完全に詰んでいた。
「どうなさいましたかな、挑戦者様?」
ディーラーは、心底楽しそうに問いかけた。
「あなた様の得意な心理戦は、もう終わりですかな?
絶対的な『数字』の前では、人の心など無力なのですよ」
俺は、奥歯を強く噛み締めた。
額から、冷や汗が流れる。
これが、彼の本当の力。
他人の才能を奪い、自らの武器として自在に行使する、魂喰らいの悪魔。
「さあ、最後の勝負とまいりましょうか」
ディーラーは、一枚のカードをテーブルに伏せた。
「この一枚が、ハイかローか。
それさえ当てれば、あなた様の勝ちです。
ですが、もし外せば……」
彼は、俺の魂をじっと見つめた。
その視線は、もはや俺の復讐心を喰らうことを隠そうともしない、剥き出しの渇望に満ちている。
「あなた様の、その美しい『復讐心』、私が美味しく頂戴いたします」
観客席で、ルナとエルゴが息を呑むのが分かった。
俺は、絶体絶命の窮地に立たされていた。
どちらを選んでも、待っているのは敗北だけ。
そして、魂の喪失。
リュウガへの復讐を誓ったこの物語が、こんな場所でこんな男に喰われて、終わるのか。
(……ふざけるな……)
俺の心の中で、どす黒い炎が再び燃え上がった。
俺は、まだ負けていない。
敗北を、認めていない。
こいつの天賦のルール――「敗北を認めた瞬間に魂が徴収される」。
その核心だけが、俺の最後の砦だった。
俺が「参った」と言わない限り、この勝負はまだ終わらない。
俺が、最後の抵抗を試みようと口を開いた、その時だった。
「―――そこまでだッ!!」
凛とした、少女の声がホールに響き渡った。
声の主は、ルナだった。
彼女は観客席から飛び出すと、用心棒たちの制止を振り切り、獣のような速さでステージへと駆け上がってきた。
そして、俺とディーラーの間に割って入るように、その身を躍らせる。
「……なっ!?」
ディーラーが、初めて狼狽の声を上げた。
彼の完璧なゲーム盤が、想定外の乱入者によってひっくり返されたのだ。
「……ルナ……!
よせ、来るな!」
俺は、叫んだ。
彼女がここにいれば、彼女もまたこの悪魔のゲームに巻き込まれてしまう。
だが、ルナは俺の制止を振り切った。
「うるさい!」
彼女は、俺を鋭く睨みつけた。
その琥珀色の瞳には、涙が浮かんでいる。
だが、それは悲しみの涙ではない。
大切な仲間が貶められたことへの、激しい怒りの涙だった。
「……アタシの仲間を、コケにするのも大概にしろよ、この仮面ヤローが!」
ルナは、ディーラーに向かって牙を剥いた。
その全身から、淡い光のオーラが立ち上っている。
《絆を力に》が、彼女の意志で発動していた。
「……ほう」
ディーラーは、一瞬の狼狽からすぐに立ち直ると、今度はルナを興味深そうに観察し始めた。
その視線は、俺の復讐心とは全く違う、新たな輝きを見つけた鑑定家の目をしていた。
「……これは、これは……。
復讐心という名の、どす黒く美しい『個』の輝きも素晴らしいですが……」
彼は、うっとりとした声で言った。
「仲間との『絆』という名の、温かく力強い『群』の輝き。
なんと、なんと素晴らしい!
どちらも、私のコレクションに加えるにふさわしい逸品ですな!」
その言葉に、俺はぞっとした。
こいつ、ルナと俺の魂を、両方とも喰らうつもりか。
「……ゲームは中断のようですね」
ディーラーは、芝居がかった仕草で肩をすくめた。
「よろしいでしょう。
この無粋な乱入は、あなた方の絆の強さの証明と見なしましょう。
ならば、こちらもそれ相応の舞台をご用意するのが、ホストとしての礼儀というもの」
彼は、ゆっくりと両手を広げた。
その声は、ホール全体に響き渡る。
「―――これより、最終ゲームを執り行います!」
「挑戦者は、そちらの三人、チーム《アケボシ》の皆様!」
「そして賭けるは、あなた方三人の魂の全て!」
その言葉に、ホールは水を打ったように静まり返った。
そして、次の瞬間、今日一番の熱狂的な歓声が爆発した。
ディーラーは、俺たちに向かって深く、恭しく頭を下げた。
その仮面の下で、蛇のように冷たい笑みが浮かんでいるのが、俺にははっきりと見えた。
「さあ、始めましょうか。
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この私とのチーム戦で、証明していただきますぞ」
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