異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第12章:記憶の美術館と影の暗殺者

第62話:影からの申し出

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 ​『敗者の塔』の崩壊から、数時間が過ぎた。

 ​賭博都市の空が、夜の闇から朝の薄紫色へと変わり始める頃。
俺たち《アケボシ》は、解放された人々の混乱を収拾し、街の自警団に後を託してようやく一息ついていた。

​「……終わったな」
 ​
 俺の言葉に、隣に立ったルナがこくりと頷く。

彼女の琥珀色こはくいろの瞳には、戦いを終えた安堵あんどと、まだ残る疲労の色が浮かんでいた。

​「うむ。
じゃが、本当の戦いはこれからじゃな」

 ​エルゴが、その手に持つ古びた傘で地面を軽く突きながら言った。

 ​その通りだ。
俺たちの最初の戦いは終わった。
だが、これはリュウガが支配する巨大な夜に対する、ほんのささやかな抵抗の狼煙のろしに過ぎない。

 ​俺たちが今後のことを話し合おうとした、その時だった。
背後から、静かな声がかけられた。

​「――あの」

 ​振り返ると、そこに立っていたのは一人の青年だった。
塔が崩壊する混乱の中、一瞬だけ視線を交わした、あの黒髪の青年だ。

 ​年の頃は、俺と同じくらいだろうか。
その身のこなしには、一切の無駄がない。
鋭い目つきは、まるで獲物を狙う猛禽類もうきんるいのようだ。

 だが、その瞳の奥に宿るのは敵意ではなく、俺たちに対する静かな敬意の色だった。

​「……あんたは、あの時の」

​「ジン、と申します」

 ​青年は、深々と頭を下げた。

​「あなた方のおかげで、私も魂を取り戻すことができました。
そして何より、あの混乱の中、的確な指示で多くの人々を救ったあなた方の姿に……私は、光を見た」

 ​その言葉には、お世辞や社交辞令ではない、魂からの響きがあった。

​「俺は、元・神聖ロゴス帝国暗殺部隊の者です」

 ​その言葉に、ルナが咄嗟とっさに身構える。

 だが、俺はそれを手で制した。

​「リュウガのやり方に異を唱えた結果、追われる身となりこの街に流れ着きました。
そして、あのディーラーに挑み……あなた方もご存じの通り、魂を奪われ人形と化していたのです」

 ​彼の物語は、俺がこの奈落で出会ってきた者たちと、同じだった。
リュウガの仕組みから弾き出された、ただの「ゴミ」。

​「あなた方に、命と……そして何より、人としての誇りを救われた。
この恩は、万死に値します」

 ​ジンは、再び深く頭を下げた。
そして、顔を上げると俺の目をまっすぐに見つめて言った。

​「どうか、俺をあなた方の仲間に入れてはいただけないだろうか」

 ​その申し出に、俺は即答できなかった。
元、帝国暗殺部隊。
その経歴は、あまりにも危険な匂いがした。

​「俺の力は、汚れ仕事のための力です。
諜報、暗殺、そしてあらゆる裏の仕事。
あなた方が光の道を歩むというのなら、俺はその道に落ちる影の全てを始末する覚悟がある」

 ​その瞳は、本気だった。
​だが、俺はまだ彼を信じきれない。
これは、リュウガが仕掛けた新たな罠の可能性もある。

​(……悪いが、試させてもらうぞ)

 ​俺は、彼の魂の物語を、その根源から観測することを決意した。

​(帝国の暗殺者……その魂に刻まれた物語は、一体……!)

物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》――発動!

​(脳内に、冷たい情報の奔流ほんりゅうが流れ込む。)
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