異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第12章:記憶の美術館と影の暗殺者

第66話:昨日の嵐を呼べ

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「――この街に、『真昼の豪雨』を降らせてくれ!」

 俺の狂気にも似た叫びが、芸術都市の広場に響き渡る。

 影に縫い付けられ身動きが取れない仲間たちが、愕然がくぜんとした表情で俺を見た。

 時計塔の影から俺たちに最後の一撃を加えようとしていた暗殺者ノクスも、その動きをぴたりと止める。

「……何を、馬鹿なことを……」

 エルゴが、うめくような声を上げた。

「儂の天賦ギフトは、あくまで『過去』の天候を再現するだけじゃ……。
こんな雲一つない快晴の日に、豪雨など……」

「過去なら、あるだろう!」
俺は、叫び返した。

 ノクスが俺の意図に気づき、動き出すまでのわずかな時間。
それが、俺たちの勝負の時間だ。

「あんたは、元・帝国気象院の長官だ! 

 その人生で、一度や二度じゃない、何百、何千という雨を体験してきたはずだ!

 思い出せ、エルゴ!
その記憶の中で、最も激しく、最も暗い、太陽の光すらさえぎるほどの豪雨を!」

 俺の言葉は、彼の魂の最も深い場所に突き刺さった。

 未来を予測するという誇りを失い、過去に閉じこもっていた老賢者。
その「過去」こそが、今、俺たちの唯一の武器になる。

「……儂の……過去……」

 エルゴの瞳に、遠い日の記憶が蘇る。
それは、彼がまだ人々のために未来を読んでいた頃の、誇りに満ちた記憶。

 ノクスが、俺の意図を完全に理解した。
その仮面の下で、気配が焦りに変わる。

 彼は、俺を黙らせるために時計塔の影から飛び降りようとした。

 だが、遅かった。

「―――見えるぞ」

 エルゴは、諦観ていかんに満ちていた瞳を閉じた。
その手の中で、古びた傘がかすかな光を放ち始める。

「……あれは、儂がまだ若かった頃……。
帝国の北の山脈で遭遇した、山をも飲み込むかのような、真昼の嵐……」

 彼の声が、変わる。

 それはもはや、ただの老人の声ではなかった。
天候を読み、その全てを支配していた頃の、気象院長官としての力強い声。

「―――《昨日の天気予報(イエスタデイズ・ウェザー)》!」

 その言葉が、引き金だった。

 ゴウッ!

 俺たちを中心に、空気が陽炎かげろうのように揺らめいた。
次の瞬間、俺たちの世界は一変していた。

 さんさんと輝いていたはずの二つの太陽が、唐突とうとつに出現した分厚い暗雲に覆い隠される。
芸術都市の明るい街並みは、一瞬にして夕暮れのような薄暗さに沈んだ。

 そして。

 ザアアアアアアアアアアアアアッッ!!

 空が裂けたかのような、猛烈な雨。
真昼の豪雨が、アスファルトを叩きつけるように街に降り注ぎ始めた。

「……なっ!?」

 ノクスの気配が、初めて明らかに動揺した。
彼の力の源泉である、太陽の光が消えたのだ。

 その効果は、てきめんだった。
俺たちの体を縫い付けていた影の拘束が、急速にその力を失っていく。

 完全な金縛りから、まるで粘度ねんどの高い泥の中にいるかのような、わずかな抵抗感へと。

「……動ける……!」
ルナが、驚きの声を上げる。

「まだ重いが、さっきよりずっとマシだ!」

 ノクスの天賦ギフト、《影踏み遊戯シャドウ・タグ》。

 その絶対的なルールは、影の輪郭がはっきりしているほど強く、曖昧あいまいになるほど弱くなる。

 雨雲と豪雨が、街全体の影を曖昧あいまいにし、奴の能力を著しく弱体化させたのだ。

「ぐっ……!」

 ノクスは、初めて苦悶くもんの声を漏らした。

 彼は、近くの建物の影に飛び移ろうとする。
だが、その動きはさっきまでの神出鬼没しんしゅつきぼつぶり  が嘘のように鈍い。

 ぼやけた影では、満足に跳躍することすらできないのだ。

「――ケント!
 今のうちに!」

 ジンが、叫んだ。

「奴を叩くなら、今だ!」

「いや、まだだ!」
俺は、叫び返した。

「これだけじゃ、奴を追い詰めるには足りない!」

 そうだ。
この状況は、まだ五分。
奴の動きを鈍らせただけでは、暗殺者である奴を取り逃がす可能性が高い。
俺が仕掛けるのは、ここからだ。

(光と影のチェスは、まだ始まったばかりだぜ)
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