異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第12章:記憶の美術館と影の暗殺者

​第69話:思い出の栞

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‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名前:リラ
状態:深い悲しみ、絶望、ノクスへの強い愛情
​魂の物語:
【起源】:元・帝国記録院の職員。恋人(ノクス)と共に帝国の非道を知り、脱走した過去。
【喪失】:追手に捕らえられた恋人(ノクス)が、その全ての記憶を奪われたこと。
渇望かつぼう】:恋人の失われた記憶を取り戻したい。そのために、他者の「幸福な記憶」を集めている。
天賦ギフト
思い出の栞メモリー・ブックマーク
能力概要:触れた物体に残された過去の記憶を「しおり」として挟み、別の物体にその記憶を追体験させることができる。
[制約・ルール]:記憶を「しおり」として抜き取るには、その記憶と深く関連した物体に触れる必要がある。
​攻略の糸口:
【精神】:彼女の行動原理は全て恋人への愛。彼を傷つけることは、彼女の心を折ることに繋がる。
【論理】:彼女の行為は善意からくる暴走。対話による説得の余地がある。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

「…………」

 俺は、静かに観測を終えた。
そして、全てのピースがカチリと音を立ててはまった。

 血の気が、引いていく。
俺は、とんでもない勘違いをしていた。

 この街の記憶喪失事件は、帝国の仕業なんかじゃない。
目の前にいる、このリラという女が犯人だ。

 そして、暗殺者ノクスは帝国の追手などではない。
彼女の、恋人だったのだ。

「……どうした、ケント?」
俺の異変に気づいたルナが、心配そうに声をかけてくる。

「……やめろ、ルナ」
俺は、低い声で言った。

「こいつらは、敵じゃない」

「はぁ?
何言ってんだよ!
こいつは、帝国から来た暗殺者なんだろ!?」

「違うんだ」
俺は、かぶりを振った。

「……こいつらも、俺たちと同じなんだよ。
リュウガに、全てを奪われた犠牲者だ」

 俺の言葉に、リラの肩がビクリと震えた。
その瞳が、信じられないものを見るかのように大きく見開かれる。

「……なぜ……あなたが、それを……」

「俺の天賦ギフトは、あらゆる物語を観測する力だ」

 俺は、静かに言った。

「あんたの物語も、視させてもらった。
あんたは元・帝国記録院の職員で、そこのノクスはあんたの恋人だった。
違うか?」

 リラは、何も答えなかった。
だが、その沈黙が何よりも雄弁な肯定だった。

「あんたたちは、帝国の何かを知ってしまった。
だから、二人で逃げた。
だが追手に捕まり、ノクスはあんたに関する記憶の全てを、リュウガに奪われた」

 俺の言葉は、彼女の魂の傷口を容赦なくえぐっていく。
リラの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

「彼は、心を失った。
ただ、あんたを守るという最後の命令だけを魂に刻み付けられた、抜け殻になった。
……だから、あんたはこの街で記憶を集めていた。
街の人々の『幸福な記憶』を盗んで、それをノクスに与えれば、いつか彼の記憶が戻るかもしれないと信じて」

「……もう、やめて……」
リラは、その場に泣き崩れた。
彼女の口から、嗚咽おえつが漏れる。

「……そうよ……アタシが、やったの……。
街の人たちから、記憶を盗んだのは……!」

 彼女は、近くに落ちていた一枚の古い絵皿を、震える手で拾い上げた。
そして、その絵皿にそっと触れる。

思い出の栞メモリー・ブックマーク》――発動。

 絵皿から、ふわりと淡い光の粒子が立ち上った。
その光は、俺たちの目の前でスクリーンとなり、ある光景を映し出す。

 それは、ずっと昔のこの街の祝祭の日の記憶。
若い夫婦が、この絵皿に盛られたご馳走を、幸せそうに分け合っている温かい記憶だった。

「……物体には、記憶が宿る……」
リラは、涙ながらに語り始めた。

「アタシの力は、その記憶を『しおり』のように抜き取って、他の誰かに見せることができる……」

「アタシは……ただ……」

 彼女は、背後で傷に苦しむノクスを、愛おしそうに見つめた。

「……彼に、もう一度笑ってほしかっただけなの……!
アタシと過ごした、幸せだった頃の記憶を、取り戻してほしかっただけなのよ……!」

 その悲痛な叫びが、がらんとした美術館のホールに虚しく響き渡った。

 なんという、悲しい物語だろうか。
彼女は、愛する者を救うために罪を犯した。
他人の幸せな記憶を奪うことで、自分の幸せを取り戻そうとしていたのだ。

 彼女がやっていることは、リュウガがやっていることと本質的には何も変わらない。
善意から始まった、魂への冒涜ぼうとく

 ルナとジンは、武器を下ろしていた。
その表情は、敵意ではなく深い同情の色に変わっている。
エルゴもまた、その手に持つ傘を杖代わりに、静かにその光景を見つめていた。

 俺は、ゆっくりと一歩前に出た。
そして、泣き崩れるリラに向かって、静かに語りかける。

 それは、軍師としてでも、復讐者としてでもない。
ただ、同じ痛みを抱える一人の人間としての、魂からの言葉だった。

「……あんたの気持ちは、分かる。
だが、そのやり方は間違っている」

 俺は、かつて自分がそうだったように、彼女たちの前に静かに膝をついた。

「俺たちは、あんたたちを裁きに来たんじゃない。
俺たちが戦うべき相手は、あんたたちじゃないんだ」

 俺は、リラの涙に濡れた瞳を、まっすぐに見つめ返した。

「俺たちが本当に戦うべき相手は、この悲劇を生み出した元凶……
あんたたちから全てを奪った、あの男のはずだ」
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