異世界転生と『天賦（ギフト）』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる！

第12章：記憶の美術館と影の暗殺者

第70話：差し伸べられた手

「俺たちが本当に戦うべき相手は、この悲劇を生み出した元凶……
あんたたちから全てを奪った、あの男のはずだ」

　俺の言葉は、静まり返った美術館のホールに響き渡った。
それは、ただの正論ではない。
同じ痛みを抱える者としての、魂からの叫びだった。

　リラは、涙に濡れた琥珀色こはくいろの瞳で俺の顔をじっと見つめていた。

　その瞳に宿るのは、俺への警戒心と、そして藁わらにもすがるような、かすかな希望の光。

「……あなたに、何が分かるっていうの……！」

　彼女は、震える声で絞しぼり出した。

「あの男は、神様みたいなものなのよ……！
人の心も、運命も、全部思い通りにしてしまう……！
私たちみたいなゴミに、何ができるっていうの！」

　その絶望は、俺もよく知っていた。
リュウガという存在が放つ、抗あらがいようのない絶対的な力の前に、希望を失うあの感覚を。

「ああ、一人じゃ何もできないだろうな」
俺は、静かに頷いた。

「だが、俺たちはもう一人じゃない」

　俺は、背後に立つ仲間たちを振り返った。
最強の「剣」である、ルナ。
頼れる「道標」である、エルゴ。
全てを支える「影」である、ジン。

　彼らは皆、リュウガによって物語を歪ゆがめられた犠牲者だ。

「俺たちは、リュウガが捨てたゴミだ。
だが、ゴミだって集まれば嵐を起こせる。
俺たちは、そのためにここにいる」

　俺は、再びリラに向き直った。

「あんたのやり方は、間違っている。
他人の幸福な記憶を盗んで、それをノクスに上書きしたところで、彼の魂は決して救われない。
それは、破れた絵画を、他の絵画の切れ端で繕うようなものだ。
元の絵の美しさは、永遠に戻ってこない」

　この芸術都市で生きてきた彼女だからこそ、その例えの意味は痛いほど分かったはずだ。

　リラの顔が、さらに苦痛に歪ゆがむ。

「じゃあ……
じゃあ、どうしろって言うのよ！
アタシには、もうこれしか……！」

「道はある」
俺は、力強く言い切った。

「あんたの物語を、本当の意味で取り戻すための道がな」

　俺は、ゆっくりと立ち上がった。
そして、ルナやエルゴを救った時と同じように、静かに彼女に手を差し伸べる。

「俺に、あんたの魂を『観測』させてくれ」

　その言葉に、リラはビクリと肩を震わせた。
他人の魂に干渉することが、どれほど危険な行為か彼女も理解しているのだろう。

「俺の力は、リュウガのように奪う力じゃない。
壊れてしまった物語の残骸から、新たな物語の『種』を見つけ出し、再び芽吹かせる手助けをする力だ」

「俺は、あんたの魂に眠る本当の願いを、見つけ出してやる。
ノクスを救うための、本当の力をな」

　それは、あまりにも不確かで、根拠のない約束だったかもしれない。
だが、俺の瞳に宿る光に嘘はなかった。

　リラは、俺の顔と差し出された手を、何度も見比べた。
その瞳の奥で、絶望と希望が激しく揺れ動いている。

　やがて。

「…………」

　彼女は、全ての覚悟を決めたように、ゆっくりと頷いた。

　そして、震える手で俺の手に、そっとその手を重ねた。

「……お願い……します……」
か細い声が、彼女の唇から漏もれる。

「……あの人を……ノクスを、救えるなら……アタシは、なんだってする……！」

「ああ、約束する」
俺は、力強く頷いた。

「あんたの物語は、俺が必ず救ってみせる」