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第12章:記憶の美術館と影の暗殺者
第71話:記憶の修復師
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これは、治療ではない。
魂と魂が向き合う、神聖な儀式だ。
俺は、静かに目を閉じた。
《再誕の観測》――発動!
俺の意識は、リラの魂の奥深くへと潜っていく。
もう、そこに悲しみのヴェールはない。
彼女が、自らの意志で俺を受け入れてくれたからだ。
俺は、彼女の魂の原風景にいた。
そこは、帝国記録院の巨大な書庫。
埃っぽい紙の匂いと、静寂だけが支配する場所。
彼女は、そこで一人の青年と出会った。
無口だが、その瞳の奥に優しい光を宿した暗殺者、ノクス。
二人は、互いの孤独に引かれ合い、恋に落ちた。
ささやかで、だが何よりも幸福な物語。
だが、その物語はリュウガによって無慈悲に引き裂かれる。
彼女の魂の奥底には、《思い出の栞》が生まれた瞬間の記憶が、今もなお熱い傷跡としてのたうっていた。
(……見つけたぞ)
俺は、その傷跡のさらに奥深くへと意識を伸ばす。
彼女の本当の願い。
その物語の、始まりの種を。
彼女の力は、「記憶を保存したい」という純粋な願いから生まれた。
だが、ノクスを失った絶望がその願いを歪め、他人の記憶を「奪う」という暴走を引き起こしてしまったのだ。
ならば、俺がやるべきことは一つ。
その歪みを正し、彼女の本来の物語へと導くこと。
(あんたの力は、奪うためじゃない!)
俺は、心の中で強く叫んだ。
(失われたものを取り戻し、壊れたものを『修復』するための力のはずだ!)
俺の確信にこたえるように、リラの魂の奥底で眠っていた「種」が、まばゆい光を放ち始めた。
ゴウッ!
俺たちの繋がった手を中心に、再び温かい光の奔流が溢れ出す。
それは、ルナやエルゴの時よりもずっと繊細で、知的な光。
美術館の埃っぽい空気を浄化していくかのように、ホール全体を優しく満たしていく。
やがて光はゆっくりと集まっていき、リラの魂の中へと還っていく。
後に残されたのは、 疲れ切って俺の腕に寄りかかるリラと、その奇跡の光景を息を呑んで見守っていた仲間たちだった。
「……あ……」
リラが、か細い声を漏らした。
彼女は、信じられないといった様子で自らの両手を見つめている。
「……力が……違う……。
今までとは、比べ物にならないくらい温かくて、優しい……」
彼女は、ハッとしたように傍らで傷に苦しむノクスを見つめた。
そして、震える手で彼の額にそっと触れる。
彼女の手から、修復の光がノクスの魂へと流れ込んでいく。
それは、他人の記憶を上書きするような暴力的な力ではない。
ノクスの魂に刻まれた傷そのものを、内側から優しく癒していく、慈愛に満ちた力だった。
ノクスの苦痛に満ちた表情が、ほんの少しだけ和らいだように見えた。
「……すごい……」
リラは、涙を流していた。
だが、それはもう絶望の涙ではない。
失われたと思っていた希望を、ようやくその手に取り戻したことへの歓喜の涙だった。
「これが、お前の新しい物語だ。
リラ」
俺は、静かに告げた。
「《記憶の修復師》。
それこそが、お前の本当の天賦だ」
「……記憶の……修復師……」
リラは、力強くその言葉を繰り返した。
その瞳には、もう迷いはなかった。
彼女は、俺に向き直ると深く、深く頭を下げた。
「ありがとうございます……!
あなたは、私たち二人の命の恩人です……!」
「礼を言うのは、まだ早い」
俺は、彼女の手を取りゆっくりと立ち上がらせる。
「ノクスの記憶を完全に取り戻すには、まだ時間がかかるはずだ。
そして、その悲劇を生み出した元凶は、今ものうのうと玉座に座っている」
「はい……!」
リラは、力強く頷いた。
「この力、あなたのために使わせてください!
いえ、私たちと同じように、あの男に物語を奪われた全ての人々のために!」
こうして、俺たちのギルド《アケボシ》に五人目の仲間が加わった。
最高の「情報分析役」であり、最高の「癒し手」となる、リラが。
俺たちは、この悲しい物語の舞台となった美術館を後にした。
ノクスはまだ意識が戻らないものの、リラの力によってその容態は安定している。
朝日が、芸術都市の美しい街並みを照らし始めていた。
俺たち五人は、その光の中を静かに歩く。
最高の「頭脳」である俺。
最強の「剣」であるルナ。
頼れる「道標」であるエルゴ。
全てを支える「影」であるジン。
そして、失われた物語を「修復」するリラ。
俺たちのチームは、また一つ強くなった。
だが、俺の心は晴れやかではなかった。
リュウガが、俺たちのこの動きを見過ごすはずがない。
次なる刺客は、もうすぐそこまで迫っている。
俺は、仲間たちの顔を見渡した。
その誰もが、傷つき、何かを失い、それでも前を向こうとしている。
俺は、この仲間たちを、絶対に守り抜かなければならない。
(……来るなら来い、リュウガ)
俺は、東の空を睨みつけた。
(お前の仕掛ける、次なるゲーム。
受けて立ってやる)
俺たちの本当の戦いは、まだ始まったばかりだ。
そして、その先に待つのがどれほど過酷な運命であろうと、俺たちはもう決して屈しないだろう。
夜明けの星は、もう孤独ではないのだから。
魂と魂が向き合う、神聖な儀式だ。
俺は、静かに目を閉じた。
《再誕の観測》――発動!
俺の意識は、リラの魂の奥深くへと潜っていく。
もう、そこに悲しみのヴェールはない。
彼女が、自らの意志で俺を受け入れてくれたからだ。
俺は、彼女の魂の原風景にいた。
そこは、帝国記録院の巨大な書庫。
埃っぽい紙の匂いと、静寂だけが支配する場所。
彼女は、そこで一人の青年と出会った。
無口だが、その瞳の奥に優しい光を宿した暗殺者、ノクス。
二人は、互いの孤独に引かれ合い、恋に落ちた。
ささやかで、だが何よりも幸福な物語。
だが、その物語はリュウガによって無慈悲に引き裂かれる。
彼女の魂の奥底には、《思い出の栞》が生まれた瞬間の記憶が、今もなお熱い傷跡としてのたうっていた。
(……見つけたぞ)
俺は、その傷跡のさらに奥深くへと意識を伸ばす。
彼女の本当の願い。
その物語の、始まりの種を。
彼女の力は、「記憶を保存したい」という純粋な願いから生まれた。
だが、ノクスを失った絶望がその願いを歪め、他人の記憶を「奪う」という暴走を引き起こしてしまったのだ。
ならば、俺がやるべきことは一つ。
その歪みを正し、彼女の本来の物語へと導くこと。
(あんたの力は、奪うためじゃない!)
俺は、心の中で強く叫んだ。
(失われたものを取り戻し、壊れたものを『修復』するための力のはずだ!)
俺の確信にこたえるように、リラの魂の奥底で眠っていた「種」が、まばゆい光を放ち始めた。
ゴウッ!
俺たちの繋がった手を中心に、再び温かい光の奔流が溢れ出す。
それは、ルナやエルゴの時よりもずっと繊細で、知的な光。
美術館の埃っぽい空気を浄化していくかのように、ホール全体を優しく満たしていく。
やがて光はゆっくりと集まっていき、リラの魂の中へと還っていく。
後に残されたのは、 疲れ切って俺の腕に寄りかかるリラと、その奇跡の光景を息を呑んで見守っていた仲間たちだった。
「……あ……」
リラが、か細い声を漏らした。
彼女は、信じられないといった様子で自らの両手を見つめている。
「……力が……違う……。
今までとは、比べ物にならないくらい温かくて、優しい……」
彼女は、ハッとしたように傍らで傷に苦しむノクスを見つめた。
そして、震える手で彼の額にそっと触れる。
彼女の手から、修復の光がノクスの魂へと流れ込んでいく。
それは、他人の記憶を上書きするような暴力的な力ではない。
ノクスの魂に刻まれた傷そのものを、内側から優しく癒していく、慈愛に満ちた力だった。
ノクスの苦痛に満ちた表情が、ほんの少しだけ和らいだように見えた。
「……すごい……」
リラは、涙を流していた。
だが、それはもう絶望の涙ではない。
失われたと思っていた希望を、ようやくその手に取り戻したことへの歓喜の涙だった。
「これが、お前の新しい物語だ。
リラ」
俺は、静かに告げた。
「《記憶の修復師》。
それこそが、お前の本当の天賦だ」
「……記憶の……修復師……」
リラは、力強くその言葉を繰り返した。
その瞳には、もう迷いはなかった。
彼女は、俺に向き直ると深く、深く頭を下げた。
「ありがとうございます……!
あなたは、私たち二人の命の恩人です……!」
「礼を言うのは、まだ早い」
俺は、彼女の手を取りゆっくりと立ち上がらせる。
「ノクスの記憶を完全に取り戻すには、まだ時間がかかるはずだ。
そして、その悲劇を生み出した元凶は、今ものうのうと玉座に座っている」
「はい……!」
リラは、力強く頷いた。
「この力、あなたのために使わせてください!
いえ、私たちと同じように、あの男に物語を奪われた全ての人々のために!」
こうして、俺たちのギルド《アケボシ》に五人目の仲間が加わった。
最高の「情報分析役」であり、最高の「癒し手」となる、リラが。
俺たちは、この悲しい物語の舞台となった美術館を後にした。
ノクスはまだ意識が戻らないものの、リラの力によってその容態は安定している。
朝日が、芸術都市の美しい街並みを照らし始めていた。
俺たち五人は、その光の中を静かに歩く。
最高の「頭脳」である俺。
最強の「剣」であるルナ。
頼れる「道標」であるエルゴ。
全てを支える「影」であるジン。
そして、失われた物語を「修復」するリラ。
俺たちのチームは、また一つ強くなった。
だが、俺の心は晴れやかではなかった。
リュウガが、俺たちのこの動きを見過ごすはずがない。
次なる刺客は、もうすぐそこまで迫っている。
俺は、仲間たちの顔を見渡した。
その誰もが、傷つき、何かを失い、それでも前を向こうとしている。
俺は、この仲間たちを、絶対に守り抜かなければならない。
(……来るなら来い、リュウガ)
俺は、東の空を睨みつけた。
(お前の仕掛ける、次なるゲーム。
受けて立ってやる)
俺たちの本当の戦いは、まだ始まったばかりだ。
そして、その先に待つのがどれほど過酷な運命であろうと、俺たちはもう決して屈しないだろう。
夜明けの星は、もう孤独ではないのだから。
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