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第13章:帝国からの刺客団「チェックメイト」
第74話:三度の正直
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帝国の刺客団『チェックメイト』。
その最初の駒は、俺たちの手によって盤上から退場した。
だが、これはまだ序盤戦に過ぎないことを、俺たちは理解していた。 本当のゲームは、まだ始まったばかりだ。
◇ ◇ ◇
アトリエの床にぽっかりと空いた大穴は、俺たちの勝利の証であると同時に、この街での平穏な日々がもう訪れないことの象徴でもあった。
「……で、どうすんだよ、これ」
ルナが、腕を組んで呆れたように巨大な穴を見下ろしている。
その日のうちに、俺たちは新たな拠点を求めて芸術都市アリアの裏路地をさまよっていた。
「とりあえず、今夜の寝床を確保しないとな。
さすがに、野宿はもうごめんだ」
「うむ。
儂の《未来への羅針盤》が、この先に安全な場所があると示しておるわい」
エルゴの言葉を頼りに、俺たちは迷路のような路地裏を進んでいく。
やがてたどり着いたのは、蔦に覆われた古びた建物。
かつては、この街の歴史を収めた公立の古文書館だったらしい。
今はもう使われておらず、忘れ去られた物語たちが静かに眠る場所。
俺たちのような「はぐれ者」が身を隠すには、うってつけの場所だった。
「よし、今日からここが俺たちの新しいアジトだ」
俺たちは、埃っぽい書庫の一室を借りて、今後の対策を練り始めていた。
リラは早速、古文書に残された記憶から、この街に潜む新たな仲間候補の情報を探り始めている。
彼女の《記憶の修復師》の力は、戦闘だけでなく情報収集においても、俺たちの想像を遥かに超える可能性を秘めていた。
ジンは、物陰に溶け込むように姿を消し、周囲の警戒にあたっている。
奥の部屋では、ノクスがまだ静かに眠り続けている。 リラの力で、その魂は少しずつ癒されているようだった。
俺たちのチームは、確かに強くなっている。
だが、同時にリュウガの放つ次なる脅威もまた、すぐそこまで迫っているはずだ。
その、予感が的中したのは。 俺たちが新たな拠点で、最初の夜を迎えようとしていた、まさにその時だった。
空気が、変わった。
チェス盤の時とは違う。
もっと静かで、荘厳で、そして有無を言わさぬ絶対的な圧。
まるで、見えない法廷に引きずり込まれたかのような感覚。
書庫の中央に、音もなく一人の男が立っていた。 燕尾服の奇術師とは違う。
今度の男は、黒い法衣のようなものをその身に纏い、その顔には一切の感情が浮かんでいない。
まるで、罪を裁くためだけに存在する、生きた天秤のような男。
「――見つけましたぞ、偽りの星々よ」
その声は、どこまでも平坦で、機械的だった。
「我が名は、ユスティーツ。
神聖ロゴス帝国皇帝リュウガ様が誇る、最強の刺客団『チェックメイト』が一人。
……あなた方の物語に、真実の裁きを下すために参りました」
またか。
休む暇も、与えてくれないらしい。
「下がってろ、ケント!」
ルナが、俺の前に立ちはだかる。
ジンもまた、物陰から音もなく現れ、その手に短剣を握りしめていた。
だが、ユスティーツと名乗る男は、俺たちの警戒など意にも介さなかった。
彼は、ただ静かに俺を見つめている。 そして、その手に持っていた一冊の古びた法典を開いた。
「我が天賦、《三度目の正直》。
その法の下、あなたに三つの問いを投げかけます」
彼の声が、書庫全体に響き渡る。
それは、もはやただの声ではない。
逆らうことのできない、絶対的なルールの宣告。
「私が投げかける三つの問いに、全て真実で答えることができたなら、あなたの天賦は二十四時間、完全に封じられることになります」
「―――ッ!?」
その言葉に、仲間たちが息を呑んだ。 俺の天賦を、封じる?
それは、このチームの「頭脳」を奪うことに他ならない。
「ですが」
ユスティーツは、言葉を続けた。
「もし一つでも嘘をついたり、答えをはぐらかしたりした場合は、この能力は失敗に終わります。
その代償として、今度は私自身が丸一日、天賦を使えなくなる」
「さあ、お選びなさい。
沈黙の無能力者となるか、あるいは偽りの言葉でこの場をしのぐか。
裁きは、あなた自身の魂に委ねられましたぞ」
なんという、悪質な能力。
物理的な戦闘を完全に放棄し、相手の魂の誠実さそのものを試す、究極の心理戦。
俺が真実を答えれば、チームは司令塔を失う。
俺が嘘をつけば、目の前の男はただの人になるが、それだけで済む保証はどこにもない。
この『チェックメイト』の連中は、決して一人では動いていないはずだ。
(……だが、やるしかない)
俺は、この悪魔のゲームに乗ることを決意した。
この男の物語を、そのルールの穴を、俺の力で見つけ出す。
(真実を求める求道者か……その物語、観測させてもらうぞ!)
《物語の観測者》――発動!
その最初の駒は、俺たちの手によって盤上から退場した。
だが、これはまだ序盤戦に過ぎないことを、俺たちは理解していた。 本当のゲームは、まだ始まったばかりだ。
◇ ◇ ◇
アトリエの床にぽっかりと空いた大穴は、俺たちの勝利の証であると同時に、この街での平穏な日々がもう訪れないことの象徴でもあった。
「……で、どうすんだよ、これ」
ルナが、腕を組んで呆れたように巨大な穴を見下ろしている。
その日のうちに、俺たちは新たな拠点を求めて芸術都市アリアの裏路地をさまよっていた。
「とりあえず、今夜の寝床を確保しないとな。
さすがに、野宿はもうごめんだ」
「うむ。
儂の《未来への羅針盤》が、この先に安全な場所があると示しておるわい」
エルゴの言葉を頼りに、俺たちは迷路のような路地裏を進んでいく。
やがてたどり着いたのは、蔦に覆われた古びた建物。
かつては、この街の歴史を収めた公立の古文書館だったらしい。
今はもう使われておらず、忘れ去られた物語たちが静かに眠る場所。
俺たちのような「はぐれ者」が身を隠すには、うってつけの場所だった。
「よし、今日からここが俺たちの新しいアジトだ」
俺たちは、埃っぽい書庫の一室を借りて、今後の対策を練り始めていた。
リラは早速、古文書に残された記憶から、この街に潜む新たな仲間候補の情報を探り始めている。
彼女の《記憶の修復師》の力は、戦闘だけでなく情報収集においても、俺たちの想像を遥かに超える可能性を秘めていた。
ジンは、物陰に溶け込むように姿を消し、周囲の警戒にあたっている。
奥の部屋では、ノクスがまだ静かに眠り続けている。 リラの力で、その魂は少しずつ癒されているようだった。
俺たちのチームは、確かに強くなっている。
だが、同時にリュウガの放つ次なる脅威もまた、すぐそこまで迫っているはずだ。
その、予感が的中したのは。 俺たちが新たな拠点で、最初の夜を迎えようとしていた、まさにその時だった。
空気が、変わった。
チェス盤の時とは違う。
もっと静かで、荘厳で、そして有無を言わさぬ絶対的な圧。
まるで、見えない法廷に引きずり込まれたかのような感覚。
書庫の中央に、音もなく一人の男が立っていた。 燕尾服の奇術師とは違う。
今度の男は、黒い法衣のようなものをその身に纏い、その顔には一切の感情が浮かんでいない。
まるで、罪を裁くためだけに存在する、生きた天秤のような男。
「――見つけましたぞ、偽りの星々よ」
その声は、どこまでも平坦で、機械的だった。
「我が名は、ユスティーツ。
神聖ロゴス帝国皇帝リュウガ様が誇る、最強の刺客団『チェックメイト』が一人。
……あなた方の物語に、真実の裁きを下すために参りました」
またか。
休む暇も、与えてくれないらしい。
「下がってろ、ケント!」
ルナが、俺の前に立ちはだかる。
ジンもまた、物陰から音もなく現れ、その手に短剣を握りしめていた。
だが、ユスティーツと名乗る男は、俺たちの警戒など意にも介さなかった。
彼は、ただ静かに俺を見つめている。 そして、その手に持っていた一冊の古びた法典を開いた。
「我が天賦、《三度目の正直》。
その法の下、あなたに三つの問いを投げかけます」
彼の声が、書庫全体に響き渡る。
それは、もはやただの声ではない。
逆らうことのできない、絶対的なルールの宣告。
「私が投げかける三つの問いに、全て真実で答えることができたなら、あなたの天賦は二十四時間、完全に封じられることになります」
「―――ッ!?」
その言葉に、仲間たちが息を呑んだ。 俺の天賦を、封じる?
それは、このチームの「頭脳」を奪うことに他ならない。
「ですが」
ユスティーツは、言葉を続けた。
「もし一つでも嘘をついたり、答えをはぐらかしたりした場合は、この能力は失敗に終わります。
その代償として、今度は私自身が丸一日、天賦を使えなくなる」
「さあ、お選びなさい。
沈黙の無能力者となるか、あるいは偽りの言葉でこの場をしのぐか。
裁きは、あなた自身の魂に委ねられましたぞ」
なんという、悪質な能力。
物理的な戦闘を完全に放棄し、相手の魂の誠実さそのものを試す、究極の心理戦。
俺が真実を答えれば、チームは司令塔を失う。
俺が嘘をつけば、目の前の男はただの人になるが、それだけで済む保証はどこにもない。
この『チェックメイト』の連中は、決して一人では動いていないはずだ。
(……だが、やるしかない)
俺は、この悪魔のゲームに乗ることを決意した。
この男の物語を、そのルールの穴を、俺の力で見つけ出す。
(真実を求める求道者か……その物語、観測させてもらうぞ!)
《物語の観測者》――発動!
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