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第13章:帝国からの刺客団「チェックメイト」
第76話:終わりの延滞料金
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帝国の刺客団『チェックメイト』。
その二番目の駒は、俺たちの絆と、リラの天賦の応用という奇策の前に、盤上から退場した。
だが、俺たちの耳にはもう、次なる駒の足音が聞こえてきているような気がしていた。
◇ ◇ ◇
古文書館の埃っぽい書庫に、呻き声が響く。
俺たちの前に膝をつかされているのは、道化師と裁判官に続く三人目の刺客、ユスティーツだ。
彼の天賦、《三度目の正直》は失敗の代償として、丸一日の間その力を封じられている。
もはや、ただの男だ。
「……言え。
『チェックメイト』とは何だ。
メンバーは何人いる?
次の刺客は誰で、どんな能力だ?」
俺の冷たい問いに、ジンが短剣をその喉元に突きつけながら無言の圧力をかける。
だが、ユスティーツはただ虚ろな目で俺たちを見返すだけだった。
「……無駄だ。
我ら『チェックメイト』は、互いの情報を一切知らない。
それが、リュウガ様が定めた絶対のルール。
我らはただ、自らの物語を遂行するためだけに存在する駒に過ぎない」
その瞳に嘘はなかった。
リュウガの用意周到さは、俺の想像を常に超えてくる。
仲間同士ですら情報を遮断し、裏切りのリスクを徹底的に排除しているのだ。
「だが、一つだけ教えてやろう」
ユスティーツは、初めてその口元に嘲笑のような笑みを浮かべた。
「次に来る男は、我らの中でも本物の『怪物』だ。
お前たちの物理的な攻撃は、奴には一切通用しない。
……お前たちの物語は、ここで終わりだ」
その言葉が、不吉な予言となって書庫の空気を重くした、その時だった。
ドッゴオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!
予兆は、なかった。
古文書館の分厚い石の壁が、内側から爆発したかのようにけたたましい破壊音と共に吹き飛んだ。
爆風と粉塵が、俺たちを襲う。
「―――ッ!?」
「きゃあ!」
俺たちは、とっさに身を伏せた。
粉塵が晴れた後、そこにぽっかりと空いた巨大な穴。
その向こう側、二つの月明かりを背にして、一人の大男が立っていた。
身の丈は、二メートルを優に超えるだろうか。
その体は、岩塊のように盛り上がった筋肉の鎧で覆われている。
傷だらけの顔には、全てをあざ笑うかのような獰猛な笑みが浮かんでいた。
その男の魂から放たれる気配は、今まで対峙してきた誰とも違う。
それは、痛みや死を超越したかのような、純粋で狂気的なまでの破壊衝動だった。
「―――見つけたぜェ、アケボシの連中とやらァ!」
腹の底から響くような、だみ声。
男は、俺たちを一瞥すると、興味なさそうに捕虜であるユスティーツへと視線を移した。
「なんだァ、ユスティーツ。
お前、もう負けたのか?
使えねえ野郎だぜ、真実だの正義だの、小難しいことばっかり言ってるからだよ」
男はそう言うと、ユスティーツの胸を巨大な足で無造作に踏みつけた。
ゴッ、という鈍い音。
ユスティーツは短い悲鳴を上げて気を失った。
「仲間割れか?」
ルナが、低い声で唸る。
「仲間?
はんっ、笑わせるな」
男は、心底おかしいといった様子で腹を抱えて笑った。
「あんな頭でっかち、仲間じゃねえ。
リュウガ様が用意した、ただの『前座』だ。
俺様を楽しませるためのな!」
「てめえ……!」
ルナの怒りが、沸点に達した。
銀色の影が、床を蹴る。
その速さは、もはや俺の動体視力でも捉えるのが難しいほどだ。
一直線に、男の懐へと潜り込むと、ルナの黒曜石の短剣がその脇腹を深々とえぐった。
致命傷。
常人なら、即死の一撃のはずだった。
だが。
「―――ひゃっはははははははははははっ!!」
男は、血を噴き出しながら狂ったように笑い出した。
「いいぞ、嬢ちゃん!
いい一撃だ!
その痛み、その深さ!
最高だぜェ!」
彼は、自らの脇腹に突き刺さった短剣を、まるで邪魔な小枝でも引き抜くかのようにあっさりと抜き放つ。
そして、その傷口を恍惚とした表情で眺めた。
信じられない光景が、俺たちの目の前で起こる。
パックリと開いたはずの傷口が、ゆっくりと、だが確実に再生していくのだ。
「……不死身……か?」
エルゴが、震える声で呟いた。
「不死身なんてもんじゃねえ!
俺様の天賦は、もっと最高にイカれてるのさ!」
男は、高らかに宣言した。
「我が名はザイム!
チェックメイトが一人!
その天賦は、《終わりの延滞料金》!
お前たちが俺様に与えたダメージは、全部『借金』としてここに蓄積される!」
彼は、自らの心臓のあたりを拳で力強く叩いた。
その全身から、不気味なオーラが立ち上り始める。
それは、先ほどルナが与えたダメージがエネルギーとなって渦巻いているかのようだった。
「そして、その借金は……利子をつけて、お前たちの誰かに『返済』してやることができるのさァ!」
その二番目の駒は、俺たちの絆と、リラの天賦の応用という奇策の前に、盤上から退場した。
だが、俺たちの耳にはもう、次なる駒の足音が聞こえてきているような気がしていた。
◇ ◇ ◇
古文書館の埃っぽい書庫に、呻き声が響く。
俺たちの前に膝をつかされているのは、道化師と裁判官に続く三人目の刺客、ユスティーツだ。
彼の天賦、《三度目の正直》は失敗の代償として、丸一日の間その力を封じられている。
もはや、ただの男だ。
「……言え。
『チェックメイト』とは何だ。
メンバーは何人いる?
次の刺客は誰で、どんな能力だ?」
俺の冷たい問いに、ジンが短剣をその喉元に突きつけながら無言の圧力をかける。
だが、ユスティーツはただ虚ろな目で俺たちを見返すだけだった。
「……無駄だ。
我ら『チェックメイト』は、互いの情報を一切知らない。
それが、リュウガ様が定めた絶対のルール。
我らはただ、自らの物語を遂行するためだけに存在する駒に過ぎない」
その瞳に嘘はなかった。
リュウガの用意周到さは、俺の想像を常に超えてくる。
仲間同士ですら情報を遮断し、裏切りのリスクを徹底的に排除しているのだ。
「だが、一つだけ教えてやろう」
ユスティーツは、初めてその口元に嘲笑のような笑みを浮かべた。
「次に来る男は、我らの中でも本物の『怪物』だ。
お前たちの物理的な攻撃は、奴には一切通用しない。
……お前たちの物語は、ここで終わりだ」
その言葉が、不吉な予言となって書庫の空気を重くした、その時だった。
ドッゴオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!
予兆は、なかった。
古文書館の分厚い石の壁が、内側から爆発したかのようにけたたましい破壊音と共に吹き飛んだ。
爆風と粉塵が、俺たちを襲う。
「―――ッ!?」
「きゃあ!」
俺たちは、とっさに身を伏せた。
粉塵が晴れた後、そこにぽっかりと空いた巨大な穴。
その向こう側、二つの月明かりを背にして、一人の大男が立っていた。
身の丈は、二メートルを優に超えるだろうか。
その体は、岩塊のように盛り上がった筋肉の鎧で覆われている。
傷だらけの顔には、全てをあざ笑うかのような獰猛な笑みが浮かんでいた。
その男の魂から放たれる気配は、今まで対峙してきた誰とも違う。
それは、痛みや死を超越したかのような、純粋で狂気的なまでの破壊衝動だった。
「―――見つけたぜェ、アケボシの連中とやらァ!」
腹の底から響くような、だみ声。
男は、俺たちを一瞥すると、興味なさそうに捕虜であるユスティーツへと視線を移した。
「なんだァ、ユスティーツ。
お前、もう負けたのか?
使えねえ野郎だぜ、真実だの正義だの、小難しいことばっかり言ってるからだよ」
男はそう言うと、ユスティーツの胸を巨大な足で無造作に踏みつけた。
ゴッ、という鈍い音。
ユスティーツは短い悲鳴を上げて気を失った。
「仲間割れか?」
ルナが、低い声で唸る。
「仲間?
はんっ、笑わせるな」
男は、心底おかしいといった様子で腹を抱えて笑った。
「あんな頭でっかち、仲間じゃねえ。
リュウガ様が用意した、ただの『前座』だ。
俺様を楽しませるためのな!」
「てめえ……!」
ルナの怒りが、沸点に達した。
銀色の影が、床を蹴る。
その速さは、もはや俺の動体視力でも捉えるのが難しいほどだ。
一直線に、男の懐へと潜り込むと、ルナの黒曜石の短剣がその脇腹を深々とえぐった。
致命傷。
常人なら、即死の一撃のはずだった。
だが。
「―――ひゃっはははははははははははっ!!」
男は、血を噴き出しながら狂ったように笑い出した。
「いいぞ、嬢ちゃん!
いい一撃だ!
その痛み、その深さ!
最高だぜェ!」
彼は、自らの脇腹に突き刺さった短剣を、まるで邪魔な小枝でも引き抜くかのようにあっさりと抜き放つ。
そして、その傷口を恍惚とした表情で眺めた。
信じられない光景が、俺たちの目の前で起こる。
パックリと開いたはずの傷口が、ゆっくりと、だが確実に再生していくのだ。
「……不死身……か?」
エルゴが、震える声で呟いた。
「不死身なんてもんじゃねえ!
俺様の天賦は、もっと最高にイカれてるのさ!」
男は、高らかに宣言した。
「我が名はザイム!
チェックメイトが一人!
その天賦は、《終わりの延滞料金》!
お前たちが俺様に与えたダメージは、全部『借金』としてここに蓄積される!」
彼は、自らの心臓のあたりを拳で力強く叩いた。
その全身から、不気味なオーラが立ち上り始める。
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