異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第13章:帝国からの刺客団「チェックメイト」

​第77話:怒りの代償

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 ​なんだ、その能力は。
攻撃すればするほど、敵を利するだけだとでもいうのか。

 俺は、すぐに仲間に指示を飛ばした。

​「待て、ルナ! 攻撃するな!」

「ジン、エルゴ殿、リラ! 
奴を拘束しろ! 傷つけるな!」

 ​だが、遅かった。
ザイムと名乗る男の巨体が、俺たちに向かって突進してくる。
その動きは巨体に似合わず、恐ろしく素早い。

 ​俺は、この絶望的な状況の中で最後の武器を行使した。

(不死身の怪物……その物語、こじ開けてやる――《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》!)

​‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名前:ザイム
状態:狂喜、痛みへの渇望かつぼう
​魂の物語:
【起源】:常に借金に追われ、破滅の淵を歩いてきた人生。
【信条】:痛みこそが、生きている実感。借金は、いつか誰かに押し付ければいい。
【忠誠】:自らの存在そのものを肯定し、最高の舞台を与えてくれるリュウガを「最高の債権者」として崇拝すうはいしている。
天賦ギフト
終わりの延滞料金オーバーデュー・ペナルティ
能力概要:自分が受けたダメージを「借金」として蓄積し、任意のタイミングで他者にそのダメージを「返済」として押し付けることができる。
[制約・ルール]:蓄積した「借金」は、術者自身の魂に絶えず負荷をかけ続ける。
​攻略の糸口:
【論理】:ダメージを与えること自体が敵の思う壺。攻撃ではない手段で無力化する必要がある。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

​「―――くそっ!」
情報を得た俺は、奥歯を噛み締めた。

 やはり、攻撃は悪手あくしゅだ。
だが、拘束しようにもこいつの馬鹿力の前では、ジンの体術もエルゴの奇策も通用しない。

​「どうした、どうしたァ! 
手が止まってるぜェ!」

 ザイムは、俺たちの混乱をあざ笑うかのように挑発を続けた。
その矛先は、明らかにルナに向けられていた。

「お嬢ちゃんの爪、気に入ったぜ! 
もっとだ! 
もっと俺様に傷をつけろ! 
その分だけ、お前らの誰かが最高の地獄を見ることになるんだからよォ!」

​その下劣げれつな挑発に、ルナの理性が焼き切れた。

「……てめえ……」
彼女の全身から、怒りのオーラが立ち上る。

「……後悔させてやる……! 
アタシの仲間を、侮辱したこと……!」

​「待て、ルナ! 
罠だ!」
俺の制止の声も、もはや彼女の耳には届いていなかった。

 銀色の影が、再びザイムへと襲いかかる。

今度は、手加減なし。
殺意を込めた、本気の一撃。

​ガッ!

ザンッ!

ドゴォッ!

 ​阿修羅あしゅらと化したルナの猛攻が、ザイムの巨体を一方的に打ち据える。

 腕が折れ、足が砕かれ、その体はもはや原型を留めないほどに切り刻まれていく。

 だが、ザイムは笑っていた。
血の泡を吹きながら、心の底から嬉しそうに。

​「ひゃっはは!
 最高だ! たまんねえ! 
もっと、もっとだ!」

 ​ルナの攻撃が激しくなればなるほど、ザイムの体からあふれ出す不気味なオーラは、その濃度を増していく。
それは、もはや一人の人間が蓄えられるエネルギー量をとっくに超えていた。

 書庫の古文書が風もないのに舞い上がり、俺たちの肌がビリビリと痛むほどだ。

​「……そろそろ、頃合いかァ……」

 ザイムは、肉塊のようになりながらも満足そうにつぶやいた。
その体は、傷だらけだが魂は今、最強の力を手にしている。

​「……嬢ちゃん、ありがとよ。
お前のおかげで、最高の『元手』が貯まったぜ」

 彼は、ゆっくりと顔を上げた。
その狂気に満ちた瞳が、この場で最も戦闘能力の低い、だが最も重要な駒を正確に捉える。

 俺だ。

​「さあ、返済の時間だぜェ、軍師サマァ!」

「お前が、この借金の『連帯保証人』だ!」

 ザイムが、血まみれの指を俺に向けた。

彼の全身に蓄積された、ルナの全攻撃分の莫大ばくだいなダメージ。
それが、漆黒のエネルギーの塊となって凝縮されていく。

 あれを食らえば、俺の体など一瞬で塵と化すだろう。

​「―――受け取りやがれェ!
《終わりの延滞料金(オーバーデュー・ペナルティ)》!」

 ​漆黒の奔流ほんりゅうが、俺に向かって放たれた。

 ルナが駆け寄ろうとするが、もう間に合わない。
エルゴも、ジンも、リラも、ただ息を呑んでその光景を見守ることしかできない。

​(……ここまで、か……)

 ​俺の脳裏に、初めて本当の「死」がよぎった。
これは、避けられない。
これは、防げない。

 俺たちの物語は、この理不尽な「借金」によって、今まさに終わろうとしていた。
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