異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第14章:鋼鉄の都と忘れられた歌姫

第82話:沈黙のオーケストラ

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「……みんな、言ってる。
その歌を聴くと、ほんの少しだけ……
何かを、思い出すような気がするんだと」

「……忘れてしまっていた、温かい何かをな」

 店主のささやきは、てつくような静寂に満ちた酒場の中で、あまりにも大きく響いた。

 それは、この感情を失った街に灯った、たった一つの希望の光。
俺は、その光を見逃さなかった。

◇ ◇ ◇

 宿に戻った俺たちは、テーブルを囲んで重い沈黙の中にいた。

 窓の外からは、鋼鉄都市ヴァルハラの無機質な夜景が見える。
巨大な工場のシルエットが、瘴気しょうきを吐き出す竜のように黒々と横たわっていた。

「……歌、ねぇ」

 最初に沈黙を破ったのは、ルナだった。
彼女は、腕を組みながら懐疑的かいぎてきな表情を浮かべている。

「そんなもんが、本当にあの鉄クズみてえな連中の心を動かせるのかよ。
それに、アタシたちの目的はノクスを救うための『伝説の素材』を探すことだろ? 
歌なんか探してる暇はないはずだ」

 ルナの言うことは、もっともだった。
俺たちの時間は、限られている。
リラの疲労は日に日に色濃くなり、ノクスの魂の灯火は今にも消えそうだ。
だが。

「……いや」
俺は、静かに首を横に振った。

「俺たちの最優先事項は、変更だ」

 俺の言葉に、仲間たちが怪訝けげんな顔でこちらを向く。

「まず、この歌声の主を探し出す。
それが、この街を攻略するための、そしてノクスを救うための最短ルートだと俺の魂が告げている」

「ケント……?」
リラが、心配そうに俺の名を呼んだ。

 俺は、自分の胸に手を当てた。
物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》が、あの店主の言葉を聞いた瞬間からずっと、奇妙な反応を示しているのだ。

 それは、新たな天賦ギフト持ちに出会った時の反応とは違う。
もっと巨大で、深遠な「物語」の始まりを予感させる、魂の共鳴。

「考えてもみろ」
俺は、仲間たちに語り始めた。

「この街の人間は、帝国によって感情を抑制されている。
俺が観測した限り、彼らの魂は深い眠りについている状態だ。
そんな彼らの心を、ほんの少しでも動かすことができる歌声。
……それが、ただの歌であるはずがない」

「……天賦ギフト……ということか?」

 ジンが、低い声で言った。

「ああ。
それも、リュウガの精神支配にすら干渉かんしょうしうるほどの、極めて特殊で強力な天賦ギフトだ」

 俺は、立ち上がった。
そして、窓の外に広がる、魂のない街を見下ろす。

「この歌声の主は、帝国にとって最も不都合な存在だ。
リュウガが築き上げた、感情を不要とする仕組みを根底から揺るがす、危険因子。
……つまり、俺たち《アケボシ》にとって、これ以上ないほどの最高の『仲間』となり得る可能性がある」

 俺の言葉に、仲間たちの顔色が変わった。
特に、リラの瞳に強い光が宿る。

 彼女の《記憶の修復師》の力もまた、人の心に働きかける力。
彼女は、この街の住民たちの眠れる魂に、誰よりも強い共感を覚えていたのだろう。

「それに、この歌が本当に人々の心を癒す力を持っているのなら……」

 俺は、奥の部屋で眠るノクスへと視線を移した。

「ノクスの、砕け散った魂を修復する手がかりにもなるかもしれない」

 その一言が、決定打だった。

 ルナの瞳から、懐疑かいぎの色が消える。
代わりに宿ったのは、仲間を救うためのたけるような決意の炎。

「……分かった。
あんたがそう言うなら、アタシは信じる」

 彼女は、力強くうなずいた。

「で、どうするんだ?
その歌とやらが聞こえるのは、夜中なんだろ?」

「ああ。
それまで、俺たちは息を潜めて待つ」

 俺は、再び地図を広げた。

 店主が言っていた、「鉄くず置き場」。
それは、街の北西の端に位置する広大な区画だった。
廃棄された兵器や、使い古された工場の部品が、巨大な山のようになっている場所。

「夜になったら、この鉄くず置き場が見渡せる、この廃ビルに潜んで待機する。
歌声が聞こえたら、すぐにその発生源を特定し、接触を試みる」

 俺たちの新たなミッションが、決まった。

 それは、伝説の素材を探す旅から、忘れられた歌姫を探す旅へと、その姿を変えようとしていた。
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