異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第14章:鋼鉄の都と忘れられた歌姫

​第83話:招かれざる聴衆

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 その夜。
鉄鋼都市ヴァルハラは、不気味なほどの静寂に包まれた。

 昼間の喧騒を支えていた巨大な工場の炉の火が落とされ、響き渡っていたハンマーの音が止む。

 後に残されたのは、凍てつく風が鉄骨の間を吹き抜ける、うら寂しい音だけ。
空は、工場の煙で赤黒くよどみ、星の光一つ見えなかった。

 俺たちは、作戦通りに鉄くず置き場の近くにある、打ち捨てられたビルの屋上に身を潜めていた。

 眼下に広がるのは、鉄の墓場。
壊れた兵器の残骸が、まるで巨大な獣の骸のように月明かりに照らされ、不気味な影を落としている。

「……本当に、こんな場所から歌が聞こえるのかよ……」

 ルナが、寒そうに腕をさすりながらつぶやいた。
彼女の吐く息が、白い。

「今は、ただ待つしかない」
俺は、短く答えた。

 リラは、隣で眠るノクスの毛布をかけ直している。
その横顔には、疲労と、そしてかすかな祈りの色が浮かんでいた。

 時間は、ただ静かに過ぎていく。
遠くで、帝国兵の巡回部隊が立てる規則的な足音だけが、時折聞こえてくる。

(……本当に、聞こえるのか……?)

 俺の心にも、わずかな焦りが生まれ始めていた。
あの店主の話は、ただの都市伝説だったのかもしれない。
希望に飢えた労働者たちが見た、集団幻覚のようなものだったのかもしれない。

 俺たちが、この無駄な待ち伏せを諦めて撤収しようかと話し合い始めた、その時だった。

「…………」

 最初に気づいたのは、ルナだった。
彼女の狼の耳が、ぴくりと震える。
そして、信じられないといったように目を見開いた。

「……聞こえる……」
彼女のささやきに、俺たちは息をんだ。

 俺は、獣のように研ぎ澄ませていた聴覚に、全神経を集中させる。

 風の音に混じって、確かに聞こえてきた。
それは、歌だった。
どこまでも、どこまでも透き通るような、美しいソプラノ。

 歌詞はない。
ただ、母が子をあやす子守歌のように、優しく、そしてどうしようもなく悲しいメロディが、このてつく街の夜空に響き渡っていた。

 その歌声は、不思議な力を持っていた。
俺たちのささくれ立った心を、まるで柔らかな絹の布で包み込むかのように、優しく癒していく。

 ルナは、いつの間にか武器を握りしめていた手の力を抜き、うっとりとその音色に聴き入っている。

 エルゴは、静かに目を閉じ、その目尻から一筋の涙を流していた。

 リラは、ノクスの手を強く握りしめながら、その歌声に自らの悲しみを重ね合わせているようだった。

 そして、俺もまた。
その歌声に、前世で失ってしまった何かを思い出させられていた。
組織の歯車になる前の、まだ夢を見ていた頃の、あの青臭くも温かい感情を。

 俺は、ハッと我に返った。
そして、労働者たちの居住区画へと視線を移す。

 一つ、また一つと、建物の窓に明かりが灯っていくのが見えた。
人々が、眠りから覚め、窓辺に立ち、その歌声に耳を傾けているのだ。
彼らの魂が、この歌声に共鳴し、深い眠りから目覚めようとしている。

 この歌は、本物だ。

「……あそこだ」
俺は、声のする方向を指さした。

 鉄くずの山が、ひときわ高く積み上げられた場所。
その頂上のあたりから、歌声は聞こえてくる。

「行くぞ」
ルナが、決意を固めたように言った。

 その声は、この歌声の主を傷つける者から守るという、騎士のような響きを持っていた。

「ああ」
俺は、力強くうなずいた。

「俺たちの、新しい仲間を迎えに」
俺たちが、その希望の光へと一歩踏み出そうとした、その時だった。

 背後の暗闇から、不意に声がかけられた。
それは、歌声とは似ても似つかぬ、鉄がこすれるような、不快な声だった。

「――そこまでだ、ドブネズミども」
俺たちは、はじかれたように振り返る。

 そこに立っていたのは、帝国軍の紋章を刻んだ重装鎧を身にまとった、大柄な男だった。

 その顔には、深い傷跡が走り、その瞳には獲物を見つけたかのような残忍な光が宿っている。

「……帝国の、追手か!」
ジンが、警戒の声を上げる。

「ああ、そうだ」
男は、獰猛どうもうな笑みを浮かべた。

「俺様の名は、ラスティ。
お前たちのような、帝国の平和を乱す害虫を駆除するために遣わされた、『チェックメイト』が一人よ」

 その言葉と同時に、男はゆっくりと俺たちに向かって歩き出した。
カツン、カツン、と彼の履く鉄の靴が地面を叩く。

 そして、俺たちは信じられない光景を目にすることになる。
彼が踏みつけた地面の鉄板が、まるで数百年もの時が過ぎ去ったかのように、一瞬にして赤黒いさびに覆われ、ボロボロと崩れ落ちていったのだ。

(……まずい……!)
俺の魂が、最大級の警鐘を鳴らす。

 こいつの天賦ギフトは、今まで出会った誰よりも厄介で、そして破壊的なものだ。
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