異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第14章:鋼鉄の都と忘れられた歌姫

第86話:非金属の戦い

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(……そうだ)

(まだ、手はある)

(金属ではない、武器。金属ではない、攻撃)

(それを作り出せる力が、俺たちにはあるじゃないか)

 俺の瞳に、再び逆転への光が宿る。
絶望的な状況のただ中で、遠くから聞こえてくるあの美しい歌声が、俺の思考に一つの天啓を与えてくれた。

 ラスティの天賦ギフト、《赤錆の聖痕スティグマ・オブ・ラスト》。

 その能力は、絶対的だ。
だが、その絶対性は『金属』というあまりにも限定的な土俵の上でしか成立しない。

 ならば、俺たちがやるべきことは一つ。
奴の土俵から、降りることだ。

 いや、違う。
奴の土俵そのものを、俺たちの手で水浸しにしてひっくり返してやればいい。

「―――全員、聞け!」

 俺は、瓦礫がれきの陰で息を切らしている仲間たちに向かって、心の中で叫んだ。

 もはや、言葉を交わす余裕はない。
だが、俺たちの魂は繋がっている。
俺の思考が、風のように仲間たちの魂へと流れ込んでいく。

(奴の能力は、金属にしか効かない!
ならば、俺たちは金属ではない武器で戦う!)

 その思考を受け取ったルナが、いぶかしげな表情を浮かべたのが分かった。

(武器なんて、どこにあるって言うんだよ!
アタシの剣は、もう……!)

(作るんだよ、ルナ!)
俺は、力強く言い返した。

(この場にある、最強の非金属物質でな。
――つまり、自然そのものでだ!)

 俺は、隣で息を整えているエルゴに視線を送った。
彼の瞳に、俺の意図が正確に伝わる。

「エルゴ殿!」
俺は、叫んだ。

「あんたの力が必要だ!
あんたの《未来への羅針盤フューチャー・コンパス》で、この場の気象を最も効率的に乱す『可能性』を読み解いてくれ!」

「……なるほどな」

 エルゴは、全てを理解したように静かにうなずいた。

「面白い趣向じゃわい。
儂の力が、再び未来をこじ開けるというのか」

 彼の瞳に、かつての帝国気象院長官としての誇りの光が宿る。
彼は、その手に持つ古びた傘を天に掲げ、静かに目を閉じた。

「――ルナ!」
俺は、最強の剣へと指示を飛ばす。

「お前の出番だ!
エルゴ殿に触れろ!
そして、その力を《絆を力にソウル・リンク》で借り受け、お前がこの場の天候を支配するんだ!」

「……アタシが……天気を……?」

 ルナは一瞬だけ戸惑ったが、すぐにその琥珀色こはくいろの瞳に獰猛な光を宿した。

 不可能を可能にする。
それこそが、俺たち《アケボシ》の戦い方だ。

 彼女は、力強くうなずくとエルゴの肩にそっとその手を置いた。

絆を力にソウル・リンク》――発動。

 パチッ、と絆の光が弾け、エルゴの魂から放たれる未来予測の力がルナの魂へと流れ込んでいく。

「ひゃっははは!
もう逃げ場はねえぞ、ネズミども!」

 瓦礫がれきの山の上で、ラスティが勝利を確信したように高笑いを上げた。

 だが、その笑みが凍りつくのに、そう時間はかからなかった。

 ゴウウウウウウウウウウッッ!

 空気が、変わった。
てつくような鋼鉄都市の空気が、湿り気を帯びた生暖かい風へと急激に変化する。

 鉛色の空に、どこからともなく黒い雲が渦を巻き始めた。

「……なんだァ……?」

 ラスティが、怪訝けげんな声を上げる。

「天気が……変わる……だと……?」

 その変化の中心にいるのは、ルナだった。
彼女の全身を、淡い光のオーラが包み込んでいる。

 エルゴから借り受けた《未来への羅針盤フューチャー・コンパス》の力が、彼女の中で獣の本能と融合し、この場の気象を支配する絶対的な力へと昇華されていた。

「―――見えるぞ、ケント」

 ルナが、俺にだけ聞こえるようにつぶやいた。

「風の流れが、雲の動きが、この先の未来が……!
全て、手に取るように!」

 彼女は、天に向かってその手を掲げた。
まるで、オーケストラの指揮者のように。

「―――来たれ、嵐!」

 ザアアアアアアアアアアアアアッッ!!

 彼女の言葉が、引き金だった。
空が裂けたかのような、猛烈な豪雨。
そして、鉄骨をきしませるほどの、荒れ狂う突風。

 局地的な嵐が、この鉄の墓場だけをピンポイントで襲ったのだ。

「ぐっ……おぉっ……!?」

 ラスティの巨体が、風にあおられてよろめいた。
彼の視界は、滝のように降り注ぐ雨によって完全に白く染め上げられている。

 耳には、轟音ごおうんと化した風の音だけが響き渡り、俺たちの気配を完全にとらえられなくなっていた。
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