異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

文字の大きさ
87 / 150
第14章:鋼鉄の都と忘れられた歌姫

​第87話:鎧の隙間

しおりを挟む
「―――今だッ!」

 俺の叫びが、嵐の中に響き渡る。
ジンとリラは、俺の指示通りに負傷したノクスを瓦礫がれきの陰へと運び、その身を守る。
そして、銀色の影が雨の中を疾走した。

「どこだ……どこにいやがる、てめえら!」

 ラスティが、やみくもに拳を振り回す。
だが、その攻撃は虚しく空を切るだけだ。

 その、死角から。
ルナが、音もなく躍り出た。
その両手には、もう武器はない。

 あるのは、獣としての、き出しの牙と爪だけ。

「―――喰らいやがれぇぇぇっっ!!」

 ガキンッ!

 ルナの爪が、ラスティの鋼鉄こうてつの鎧を切り裂こうとして、甲高い音と共に弾かれた。

 さすがに、生身の爪ではこの鎧は貫けないか。
だが、俺たちの狙いはそこじゃない。

「――ルナ!
鎧の隙間だ!
関節、喉元のどもと、兜の目の部分!
そこだけを狙え!」

 俺の指示が、嵐の轟音ごうおんを突き抜けて彼女の魂へと直接届く。
ルナは、獰猛どうもうな笑みを浮かべた。

 彼女は、ラスティの攻撃を紙一重でかわしながら、その巨体にまとわりつくように舞う。

 そして、その鋭い爪が鎧のわずかな隙間を、的確に、そして執拗しつようにえぐっていく。

 ザシュッ!

「ぐあっ!?」

 ラスティの腕の関節部から、血しぶきが上がった。

 ザクッ!

「ぎっ!?」

 今度は、膝の裏。
ラスティは、その巨体を持て余し始めていた。

 嵐によって視界と聴覚を奪われ、神出鬼没に現れる銀色の獣に、ただ一方的に切り刻まれていくだけ。

「――それだけじゃねえぞ!」

 ルナは、近くに転がっていた拳ほどの大きさの石を拾い上げた。
それは、ラスティの能力が一切通用しない、ただの石ころ。

 だが、今の彼女の手の中では、どんな名剣よりも恐ろしい凶器と化していた。

 彼女は、その石を野球のピッチャーのように振りかぶると、ラスティのかぶとの、目の部分にあるわずかな隙間めがけて全力で投げつけた。

 ゴッ!
という、鈍い音。

「ぐぎゃあああああああっっ!?」

 ラスティが、初めて本物の悲鳴を上げた。
その仮面の下で、片目が完全に潰されたのが分かった。

「……てめえ……ら……!」

 彼は、よろめきながら後ずさる。
その瞳に宿るのは、もはや傲慢ごうまんさではない。

 自らの能力が一切通用しない、未知の戦い方に対する純粋な恐怖だった。
俺たちは、容赦しない。

 ルナは、近くにあった鉄ではない瓦礫がれきの山――崩れた建物のコンクリート片などを次々と掴むと、ラスティに向かって投げつけ始めた。

 一つひとつは、致命傷にはならない。
だが、その無数の打撃が確実に彼の体力を、そして何よりもその心を折っていく。

「……や……めろ……」
ラスティの膝が、ガクリと折れた。

 彼は、その場に崩れ落ちる。
その体は、もはや満身創痍まんしんそうい
戦意は、完全に失われていた。

「…………」

 俺は、静かに彼に近づいた。
嵐は、まるで俺たちの勝利を祝うかのように、その勢いを少しずつ弱めていく。

「あんたの負けだ、ラスティ」
俺は、冷たく言い放った。

「あんたが憎んでいたのは、鉄や機械じゃない。
自分の物語が、時代に置いていかれることへの恐怖だ。
違うか?」

 俺の言葉に、ラスティは何も答えなかった。
ただ、悔しそうに歯ぎしりをするだけだった。

「――ケント!」
ルナが、俺の隣に立った。

「こいつ、どうする?
とどめを刺すか?」
俺は、首を横に振った。

「いや、その必要はない」
俺は、ラスティを見下ろした。

「こいつは、もう俺たちの敵じゃない。
ただの、過去に縛られた哀れな男だ」

 俺たちが、ラスティにとどめを刺そうかどうしようかと話し合っていた、その時だった。

 スッ、と。

 ラスティの体が、まるで陽炎かげろうのように揺らめき、その場から掻き消えるように消えていった。

「……転移か!」
ジンが、警戒の声を上げる。

 リュウガが、敗北した駒を回収したのだろう。
俺たちの前から、チェックメイトの刺客はまた一人、姿を消した。

 後に残されたのは、嵐が過ぎ去った後の静寂と、破壊された鉄の墓場だけ。

 俺たちは、疲労困憊の体を引きずるようにして、再びあの歌声が聞こえてきた方向へと目を向けた。

 歌声は、まだ続いていた。
俺たちの戦いを、ずっと見守ってくれていたかのように。

「……行くか」
俺は、仲間たちに言った。

「俺たちの、歌姫を迎えに」

 俺たちは、新たな仲間との出会いを予感しながら、鉄くずの山の頂上へと、一歩、また一歩と足を進め始めた。

 その先で、この街の本当の物語が俺たちを待っていることも知らずに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

家族と魔法と異世界ライフ!〜お父さん、転生したら無職だったよ〜

三瀬夕
ファンタジー
「俺は加藤陽介、36歳。普通のサラリーマンだ。日本のある町で、家族5人、慎ましく暮らしている。どこにでいる一般家庭…のはずだったんだけど……ある朝、玄関を開けたら、そこは異世界だった。一体、何が起きたんだ?転生?転移?てか、タイトル何これ?誰が考えたの?」 「えー、可愛いし、いいじゃん!ぴったりじゃない?私は楽しいし」 「あなたはね、魔導師だもん。異世界満喫できるじゃん。俺の職業が何か言える?」 「………無職」 「サブタイトルで傷、えぐらないでよ」 「だって、哀愁すごかったから。それに、私のことだけだと、寂しいし…」 「あれ?理沙が考えてくれたの?」 「そうだよ、一生懸命考えました」 「ありがとな……気持ちは嬉しいんだけど、タイトルで俺のキャリア終わっちゃってる気がするんだよな」 「陽介の分まで、私が頑張るね」 「いや、絶対、“職業”を手に入れてみせる」 突然、異世界に放り込まれた加藤家。 これから先、一体、何が待ち受けているのか。 無職になっちゃったお父さんとその家族が織りなす、異世界コメディー? 愛する妻、まだ幼い子どもたち…みんなの笑顔を守れるのは俺しかいない。 ──家族は俺が、守る!

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界おっさん一人飯

SILVER・BACK(アマゴリオ)
ファンタジー
 サラリーマンのおっさんが事故に遭って異世界転生。  秀でた才能もチートもないが、出世欲もなく虚栄心もない。安全第一で冒険者として過ごし生き残る日々。  それは前世からの趣味である美味しいご飯を異世界でも食べ歩くためだった。  

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...