異世界転生と『天賦（ギフト）』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる！

第15章：帝国の実験場

第93話：道化師の選択肢

　数日間の旅路の果て。
俺たちは、ついに「忘れられた神々の眠る谷」の入り口にたどり着いた。

　そこは、天を衝つくほどの巨大な岩壁に囲まれた、天然の要塞だった。
谷底からは、不気味なほどの静寂と、古代の何かが眠る気配が漂ってくる。

　俺たちが、馬車を降りて谷への侵入経路を探ろうとした、その時だった。

「―――ッ！？」

　ジンの体が、ビクリと震えた。
暗殺者としての彼の直感が、最大級の警鐘を鳴らしている。
ほぼ同時に、俺の魂もまた、異質な気配を捉えていた。

「……ケント……」
ルナが、低い声で唸うなる。
彼女もまた、獣の本能で気づいたのだろう。

　俺たちは、見られている。
それも、一人ではない。
二人だ。

「……ようこそ、おいでくださいました」

　不意に、俺たちの目の前の空間が陽炎かげろうのように揺らめいた。
そして、何もないはずの場所からすっと、二人組の男女が姿を現す。

　一人は、男。
道化師ピエロのような、派手で悪趣味な衣装。
顔には涙を描いた不気味な化粧。

　その口元には、三日月のように歪ゆがんだ、狂気的な笑みが浮かんでいた。
その魂から放たれる気配は、どこまでも軽く、掴みどころがない。

　もう一人は、女。
道化師ピエロとは対照的に、黒一色の質素なドレスをその身に纏まとい、その顔には一切の感情が浮かんでいない。
まるで、心を失った人形のようだ。

　だが、その魂の奥底からは、どこまでもねじくれた、一筋縄ではいかない物語の気配がした。

「あなた方が、噂の《アケボシ》の皆様ですかな？」
道化師ピエロの男が、芝居がかった声で甲高かんだかく言った。

「ボクたちは、しがない旅の芸人一座。この先の谷で開かれるお祭りに向かう途中でして。
いやはや、こんな場所で噂の方々にお会いできるとは、奇遇ですなぁ！」

　その言葉とは裏腹に、その瞳は全く笑っていなかった。
ただ、俺たちのことを値踏みするかのように、じろじろと観察している。

「……てめえら、何者だ」
ルナが、警戒を解かずに問いかけた。

「おやおや、怖い顔。ボクたちは、ただのしがない芸人だと言っているでしょう？」
道化師ピエロは、大げさに両手を広げてみせた。

「あなた方のような、帝国に追われる罪人様たちとは何の関係もございませんとも。
ええ、全く」

その言葉の節々ふしぶしに、隠しきれない悪意が滲にじみ出ている。
こいつら、間違いなく『チェックメイト』の刺客だ。

「……おい」
今まで沈黙を守っていた黒いドレスの女が、初めて口を開いた。

　その声は、ひどくかすれていて、まるで何年も声を発していなかったかのようだった。

「……茶番は、終わりだ。
さっさと、殺せ」

「おっと、いけないいけない」
道化師ピエロは、悪戯っぽく舌を出した。

「ボクの相方は、少しせっかちなものでして。
では、改めて自己紹介をさせていただきましょう」

　彼は、芝居がかった仕草で恭うやうやしくお辞儀をした。

「ボクの名は、クラウン。
そしてこちらが無口な相方、リバース」

「神聖ロゴス帝国皇帝リュウガ様が誇る、最強の刺客団『チェックメイト』が二人」

　その言葉と同時に、二人の魂から放たれるオーラが、その質を変えた。

　それは、もはや隠しようのない純粋な敵意と、俺たちの物語を終わらせるという明確な殺意。

「あなた方の旅は、ここで終わりです」
クラウンは、その顔に浮かべていた狂気の笑みを、ふっと哀れみに満ちたものへと変えた。

「これから、あなた方にはボクたちの最高の芸を披露いたしましょう。
魂が震えるほどの、絶望の選択をね」

　その言葉が、戦いの始まりを告げるゴングだった。

まずは、目の前の道化師ピエロ。
そのふざけた・・・物語を、俺がこじ開けてやる。

――（《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》！）

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名前：クラウン
状態：愉悦ゆえつ、知的優越感、サディスティックな好奇心
​魂の物語：
【起源】：常に「正しい選択」を強いられてきた、裕福な貴族の出身。
【渇望かつぼう】：他人が究極の選択を迫られ、苦しみ、間違える様を見たい。
【信条】：人生は、選択の連続。そして、そのほとんどは不正解だ。
​天賦ギフト：
《道化師の選択肢クラウンズ・チョイス》
能力概要：相手に二択の質問を投げかけ、どちらを選んでも相手にとって不利益な結果を強制的に発生させる。
[制約・ルール]：質問は自分にも関わる内容でなければならず、自分もその結果のいずれかを必ず受け入れなければならない。
​攻略の糸口：
【論理】：彼のゲームのルールは「二者択一」。ならば、そのどちらも「選ばない」という第三の選択肢が、ルールそのものを崩壊させる可能性がある。
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「…………」

　情報を得た俺は、静かに目を開けた。
そして、奥歯を強く噛み締める。

（……なんて、悪質な能力だ……）

　ピエロの《嘘喰いの真実ライアー・イーター》とも、ユスティーツの《三度目の正直スリーカウント・オネスト》とも違う。

　これは、相手の心を直接折りに行く、絶対的な悪意の塊。

「さあ、最初の質問です」
クラウンは、楽しそうに俺たちを見渡した。

「そこにいる、銀狼のお嬢さん」
彼の指が、ルナを指さす。

「あなたに、最初の選択権を差し上げましょう」
その瞳が、狂気的な光を放った。

「――ボクを殴りますか？
それとも、そこにいるあなたの仲間を殴りますか？」