異世界転生と『天賦（ギフト）』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる！

第15章：帝国の実験場

第95話：言葉遊戯

「……ふざけているのか……？」
クラウンの顔から、笑みが消えた。

「選べ！
選ばなければ、このゲームは始まらないじゃないか！」
彼が、叫んだその時だった。

　空気が、変わった。
俺たちを縛り付けていた、見えないルールの鎖が緩むのを感じる。

　クラウンの天賦ギフトが、その前提条件を失って揺らぎ始めたのだ。

（……今だ！）
俺は、心の中で叫んだ。

「―――ケント！」
ルナが、俺の思考を読み取ったかのように叫び返す。

　俺たちの魂は、再び繋がった。
彼女の《絆を力にソウル・リンク》が、俺の思考と彼女の肉体を完全に一つにする。

「―――ジン！」
俺は、もう一人の仲間へと指示を飛ばす。

「奴の背後を取れ！」

「承知」
ジンは、音もなく影の中から躍り出た。

　クラウンは、完全にパニックに陥おちいっていた。
自らの絶対的なルールが崩壊していく、その現実に。

「な……なんで……！
なぜ、選ばない！
ルールを破るなんて、許されない！」

　彼の魂の物語――常に「正しい選択」を強いられてきた過去。
その彼にとって、ルールから逸脱するという行為は理解の範疇はんちゅうを超えていたのだ。

　彼の自信が揺らぎ、天賦ギフトの力が急速に弱まっていく。

　その、一瞬の隙すき。
俺たちにとっては、十分すぎる時間だった。

　銀色の影が、床を蹴った。
黒い影が、闇に溶けた。

　ルナが正面から、ジンが背後から。
二つの刃が、クラウンの動きを完全に封じ込める。

　ルナの爪が、その喉元のどもとに。
ジンの鋼の短剣が、その背中に。

「……う……そ……だ……」
クラウンは、力なくその場に膝をついた。

　自らが信奉しんぽうする「選択」そのものに、裏切られたのだ。
彼の物語が、崩壊した瞬間だった。

「……さて、と」
俺は、絶望に打ちひしがれる男の前にゆっくりと膝をついた。

「今度は、こっちが質問する番だ。
『チェックメイト』について、お前が知っている『真実』を、全て話してもらおうか」

　帝国の刺客団『チェックメイト』。
その狂った駒の一つは、俺たちの絆と沈黙という名の奇策の前に、盤上から退場した。

　俺が、気を失ったクラウンを縛り上げようと一歩踏み出した、その時だった。

「――素晴らしいわね」

　今まで沈黙を守っていた、もう一人の追手。
黒いドレスの女、リバースが初めて感情のこもった声を出した。

　その声は、ひどくかすれてはいたが、どこか楽しんでいるような響きがあった。

「まさか、クラウンのゲームを破る者が現れるなんて。
リュウガ様も、お喜びになるでしょう」

　彼女は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
その顔には、相変わらず何の表情も浮かんでいない。

　だが、その魂から放たれる気配は、クラウンとは比較にならないほどねじくれていて、そして予測不能だった。

「私の天賦ギフトは、クラウンほど派手じゃないの」
彼女は、自嘲じちょうするように言った。

「ただ、少しだけ言葉のイタズラをするだけ」

　彼女は、俺たちに向かってゆっくりと両手を広げた。
その仕草は、まるで降参を示しているかのようだ。

　そして、彼女は言った。
あまりにも、穏やかに。
この場の誰にも、その言葉の本当の意味が理解できない、悪魔のささやきを。

「――だから、お願い。
私を、攻撃しないで」