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第14章:鋼鉄の都と忘れられた歌姫
第91話:新たな仲間
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これは、魂と魂が向き合う、神聖な儀式。
俺は、静かに目を閉じた。
《再誕の観測》――発動!
俺の意識は、エリアーナの魂の奥深くへと潜っていく。
俺は、彼女の魂の原風景にいた。
帝国の壮麗な宮廷音楽堂。
彼女の歌声に、人々が涙し、笑顔になる光景。
だが、その光景は処刑場の血の赤に塗りつぶされていく。
(……見つけたぞ)
俺は、その悲劇の傷跡のさらに奥深くへと意識を伸ばす。
彼女の本当の願い。
その物語の、始まりの種を。
彼女の力は、「歌で、世界を温めたい」という純粋な願いから生まれた。
だが、仲間を失った絶望がその願いを歪め、帝国の音を「消す」という抵抗の力へと変えてしまったのだ。
ならば、俺がやるべきことは一つ。
その歪みを正し、彼女の本来の物語へと導くこと。
(あんたの歌は、沈黙のためじゃない!)
俺は、心の中で強く叫んだ。
(あんたの歌は、命を育むための力のはずだ!)
俺の確信にこたえるように、エリアーナの魂の奥底で眠っていた「種」が、まばゆい光を放ち始めた。
ゴウッ!
俺たちの繋がった手を中心に、再び温かい光の奔流が溢れ出す。
それは、今までの誰の時とも違う、まるで春の陽だまりのように優しく、生命力に満ちた光だった。
鉄くずの山の冷たい金属が、その光に照らされて温もりを取り戻していくかのようだ。
やがて光はゆっくりと集まっていき、エリアーナの魂の中へと還っていく。
後に残されたのは、疲れ切って俺の腕に寄りかかるエリアーナと、その奇跡の光景を息を呑んで見守っていた仲間たちだった。
「……あ……」
エリアーナが、か細い声を漏らした。
彼女は、信じられないといった様子で自らの両手を見つめている。
「……力が……温かい……。
歌うたびに、魂が削られていくような感覚じゃない……。
むしろ、世界が……私に応えてくれているみたい……」
彼女は、ハッとしたようにその手に持つリュートを構えた。
そして、震える指でその弦をそっと弾く。
ポロン、と奏でられたのは、たった一つの音。
だが、その音色が響いた瞬間。
俺たちの足元、鉄くずの隙間に根を張っていた名もなき雑草が、目に見えるほどの速さで成長し、小さな白い花を咲かせたのだ。
「……すごい……」
リラが、感嘆の声を漏らした。
「……これは……命の、歌……」
「その力で……お願い……!」
リラが、祈るような声で叫んだ。
その視線の先には、ジンに背負われたまま意識のないノクスがいる。
エリアーナは、力強く頷いた。
彼女は、傷ついたノクスのそばに静かに膝をつくと、再びリュートを構える。
そして、今度は歌うのではなく、穏やかな子守歌のようなメロディを奏で始めた。
その音色と共に、エリアーナの全身から柔らかな若草色の光が放たれる。
光は、まるで揺り籠のように優しくノクスの体を包み込んだ。
俺たちは、息を呑んでその光景を見守った。
ザイムの天賦によって、ガラスのように砕け散っていたはずのノクスの魂。
その無数の欠片が、エリアーナの奏でる生命の旋律に導かれるように、ゆっくりと、だが確かに一つに繋ぎ合わされていく。
彼の苦痛に満ちていた呼吸が、次第に穏やかな寝息へと変わっていった。
「……すごい……」
リラは、涙を流していた。
だが、それはもう絶望の涙ではない。
失われたと思っていた希望を、ようやくその手に取り戻したことへの歓喜の涙だった。
「これが、お前の新しい物語だ。エリアーナ」
俺は、静かに告げた。
「《生命の揺り籠》。
それこそが、お前の本当の天賦だ」
「……生命の……揺り籠……」
エリアーナは、力強くその言葉を繰り返した。
その瞳には、もう迷いはなかった。
彼女は、俺に向き直ると深く、深く頭を下げた。
「ありがとうございます……!
あなたは、アタシと……そして、アタシの仲間たちの魂を救ってくれた恩人です……!」
「礼を言うのは、まだ早い」
俺は、彼女の手を取りゆっくりと立ち上がらせる。
「ノクスの魂はまだ不安定だ。
それに、あんたの仲間たちの無念を晴らす戦いは、まだ始まったばかりなんだからな」
「はい……!」
エリアーナは、力強く頷いた。
「この力、あなたのために使わせてください!
いえ、私たちと同じように、あの男に物語を奪われた全ての人々のために!」
こうして、俺たちのギルド《アケボシ》に六人目の仲間が加わった。
最高の「支援役」であり、最高の「癒し手」となる、エリアーナが。
「――エリアーナ」
俺は、新たな仲間に向き直った。
「一つ、聞きたいことがある。
あんたの仲間たちは、なぜ帝国に処刑されたんだ?
ただ、歌を歌ったから、というだけじゃないはずだ」
俺の問いに、エリアーナの表情が険しくなる。
彼女は、しばらく黙り込んだ後、意を決したように口を開いた。
「……あの子たちは、見つけてしまったんです。
リュウガが、帝国の奥深くで進めている、神をも恐れぬ実験の存在を」
「実験……?」
「ええ」
エリアーナは、声をひそめた。
「リュウガは、人の天賦を奪うだけじゃない。
奪った力を、自らの駒である兵士たちに『移植』している、と」
「――《天賦移植》」
その言葉に、俺たちは息を呑んだ。
あの道化師も、不死身のザイムも。
彼らの力は、元々は誰かの大切な物語だったのかもしれない。
「そのための、秘密の研究施設が帝国領内のどこかにあるはずです。
あの子たちは、その場所を突き止めようとして……消された」
エリアーナの瞳に、再び憎しみの炎が宿る。
だが、それはもうただの絶望ではない。
仲間たちの無念を晴らすという、明確な目的を持った炎だった。
俺は、仲間たちの顔を見渡した。
もう、次にやるべきことは決まっていた。
「……行くぞ」
俺は、宣言した。
「俺たちの、次なる目的地へ」
「その、帝国の実験場とやらを、俺たちの手でぶっ潰しに行く」
俺の言葉に、仲間たちが力強く頷いてくれる。
俺たちの新たな旅は、帝国が隠す最も深い闇の核心へと迫っていく。
俺は、静かに目を閉じた。
《再誕の観測》――発動!
俺の意識は、エリアーナの魂の奥深くへと潜っていく。
俺は、彼女の魂の原風景にいた。
帝国の壮麗な宮廷音楽堂。
彼女の歌声に、人々が涙し、笑顔になる光景。
だが、その光景は処刑場の血の赤に塗りつぶされていく。
(……見つけたぞ)
俺は、その悲劇の傷跡のさらに奥深くへと意識を伸ばす。
彼女の本当の願い。
その物語の、始まりの種を。
彼女の力は、「歌で、世界を温めたい」という純粋な願いから生まれた。
だが、仲間を失った絶望がその願いを歪め、帝国の音を「消す」という抵抗の力へと変えてしまったのだ。
ならば、俺がやるべきことは一つ。
その歪みを正し、彼女の本来の物語へと導くこと。
(あんたの歌は、沈黙のためじゃない!)
俺は、心の中で強く叫んだ。
(あんたの歌は、命を育むための力のはずだ!)
俺の確信にこたえるように、エリアーナの魂の奥底で眠っていた「種」が、まばゆい光を放ち始めた。
ゴウッ!
俺たちの繋がった手を中心に、再び温かい光の奔流が溢れ出す。
それは、今までの誰の時とも違う、まるで春の陽だまりのように優しく、生命力に満ちた光だった。
鉄くずの山の冷たい金属が、その光に照らされて温もりを取り戻していくかのようだ。
やがて光はゆっくりと集まっていき、エリアーナの魂の中へと還っていく。
後に残されたのは、疲れ切って俺の腕に寄りかかるエリアーナと、その奇跡の光景を息を呑んで見守っていた仲間たちだった。
「……あ……」
エリアーナが、か細い声を漏らした。
彼女は、信じられないといった様子で自らの両手を見つめている。
「……力が……温かい……。
歌うたびに、魂が削られていくような感覚じゃない……。
むしろ、世界が……私に応えてくれているみたい……」
彼女は、ハッとしたようにその手に持つリュートを構えた。
そして、震える指でその弦をそっと弾く。
ポロン、と奏でられたのは、たった一つの音。
だが、その音色が響いた瞬間。
俺たちの足元、鉄くずの隙間に根を張っていた名もなき雑草が、目に見えるほどの速さで成長し、小さな白い花を咲かせたのだ。
「……すごい……」
リラが、感嘆の声を漏らした。
「……これは……命の、歌……」
「その力で……お願い……!」
リラが、祈るような声で叫んだ。
その視線の先には、ジンに背負われたまま意識のないノクスがいる。
エリアーナは、力強く頷いた。
彼女は、傷ついたノクスのそばに静かに膝をつくと、再びリュートを構える。
そして、今度は歌うのではなく、穏やかな子守歌のようなメロディを奏で始めた。
その音色と共に、エリアーナの全身から柔らかな若草色の光が放たれる。
光は、まるで揺り籠のように優しくノクスの体を包み込んだ。
俺たちは、息を呑んでその光景を見守った。
ザイムの天賦によって、ガラスのように砕け散っていたはずのノクスの魂。
その無数の欠片が、エリアーナの奏でる生命の旋律に導かれるように、ゆっくりと、だが確かに一つに繋ぎ合わされていく。
彼の苦痛に満ちていた呼吸が、次第に穏やかな寝息へと変わっていった。
「……すごい……」
リラは、涙を流していた。
だが、それはもう絶望の涙ではない。
失われたと思っていた希望を、ようやくその手に取り戻したことへの歓喜の涙だった。
「これが、お前の新しい物語だ。エリアーナ」
俺は、静かに告げた。
「《生命の揺り籠》。
それこそが、お前の本当の天賦だ」
「……生命の……揺り籠……」
エリアーナは、力強くその言葉を繰り返した。
その瞳には、もう迷いはなかった。
彼女は、俺に向き直ると深く、深く頭を下げた。
「ありがとうございます……!
あなたは、アタシと……そして、アタシの仲間たちの魂を救ってくれた恩人です……!」
「礼を言うのは、まだ早い」
俺は、彼女の手を取りゆっくりと立ち上がらせる。
「ノクスの魂はまだ不安定だ。
それに、あんたの仲間たちの無念を晴らす戦いは、まだ始まったばかりなんだからな」
「はい……!」
エリアーナは、力強く頷いた。
「この力、あなたのために使わせてください!
いえ、私たちと同じように、あの男に物語を奪われた全ての人々のために!」
こうして、俺たちのギルド《アケボシ》に六人目の仲間が加わった。
最高の「支援役」であり、最高の「癒し手」となる、エリアーナが。
「――エリアーナ」
俺は、新たな仲間に向き直った。
「一つ、聞きたいことがある。
あんたの仲間たちは、なぜ帝国に処刑されたんだ?
ただ、歌を歌ったから、というだけじゃないはずだ」
俺の問いに、エリアーナの表情が険しくなる。
彼女は、しばらく黙り込んだ後、意を決したように口を開いた。
「……あの子たちは、見つけてしまったんです。
リュウガが、帝国の奥深くで進めている、神をも恐れぬ実験の存在を」
「実験……?」
「ええ」
エリアーナは、声をひそめた。
「リュウガは、人の天賦を奪うだけじゃない。
奪った力を、自らの駒である兵士たちに『移植』している、と」
「――《天賦移植》」
その言葉に、俺たちは息を呑んだ。
あの道化師も、不死身のザイムも。
彼らの力は、元々は誰かの大切な物語だったのかもしれない。
「そのための、秘密の研究施設が帝国領内のどこかにあるはずです。
あの子たちは、その場所を突き止めようとして……消された」
エリアーナの瞳に、再び憎しみの炎が宿る。
だが、それはもうただの絶望ではない。
仲間たちの無念を晴らすという、明確な目的を持った炎だった。
俺は、仲間たちの顔を見渡した。
もう、次にやるべきことは決まっていた。
「……行くぞ」
俺は、宣言した。
「俺たちの、次なる目的地へ」
「その、帝国の実験場とやらを、俺たちの手でぶっ潰しに行く」
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