異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

文字の大きさ
91 / 150
第14章:鋼鉄の都と忘れられた歌姫

第91話:新たな仲間

しおりを挟む
 これは、魂と魂が向き合う、神聖しんせいな儀式。

俺は、静かに目を閉じた。


再誕の観測リボーン・サイト》――発動!


 俺の意識は、エリアーナの魂の奥深くへと潜っていく。


 俺は、彼女の魂の原風景にいた。

帝国の壮麗な宮廷音楽堂。


 彼女の歌声に、人々が涙し、笑顔になる光景。

だが、その光景は処刑場の血の赤に塗りつぶされていく。


(……見つけたぞ)


 俺は、その悲劇の傷跡のさらに奥深くへと意識を伸ばす。


 彼女の本当の願い。

その物語の、始まりの種を。


 彼女の力は、「歌で、世界を温めたい」という純粋な願いから生まれた。


 だが、仲間を失った絶望がその願いをゆがめ、帝国の音を「消す」という抵抗の力へと変えてしまったのだ。


 ならば、俺がやるべきことは一つ。

そのゆがみを正し、彼女の本来の物語へと導くこと。


(あんたの歌は、沈黙のためじゃない!)


 俺は、心の中で強く叫んだ。


(あんたの歌は、命を育むための力のはずだ!)


 俺の確信にこたえるように、エリアーナの魂の奥底で眠っていた「種」が、まばゆい光を放ち始めた。


 ゴウッ!


 俺たちの繋がった手を中心に、再び温かい光の奔流があふれ出す。


 それは、今までの誰の時とも違う、まるで春の陽だまりのように優しく、生命力に満ちた光だった。


 鉄くずの山の冷たい金属が、その光に照らされて温もりを取り戻していくかのようだ。


 やがて光はゆっくりと集まっていき、エリアーナの魂の中へとかえっていく。


 後に残されたのは、疲れ切って俺の腕に寄りかかるエリアーナと、その奇跡の光景を息をんで見守っていた仲間たちだった。


「……あ……」

エリアーナが、か細い声を漏らした。


 彼女は、信じられないといった様子で自らの両手を見つめている。


「……力が……温かい……。

歌うたびに、魂が削られていくような感覚じゃない……。

むしろ、世界が……私に応えてくれているみたい……」


 彼女は、ハッとしたようにその手に持つリュートを構えた。

そして、震える指でその弦をそっと弾く。


 ポロン、と奏でられたのは、たった一つの音。


 だが、その音色が響いた瞬間。

俺たちの足元、鉄くずの隙間に根を張っていた名もなき雑草が、目に見えるほどの速さで成長し、小さな白い花を咲かせたのだ。


「……すごい……」

リラが、感嘆の声を漏らした。


「……これは……命の、歌……」


「その力で……お願い……!」

リラが、祈るような声で叫んだ。


 その視線の先には、ジンに背負われたまま意識のないノクスがいる。


 エリアーナは、力強く頷いた。

彼女は、傷ついたノクスのそばに静かに膝をつくと、再びリュートを構える。


 そして、今度は歌うのではなく、穏やかな子守歌のようなメロディを奏で始めた。


 その音色と共に、エリアーナの全身から柔らかな若草色の光が放たれる。

光は、まるで揺り籠のように優しくノクスの体を包み込んだ。


 俺たちは、息を呑んでその光景を見守った。


 ザイムの天賦ギフトによって、ガラスのように砕け散っていたはずのノクスの魂。


 その無数の欠片かけらが、エリアーナの奏でる生命の旋律に導かれるように、ゆっくりと、だが確かに一つに繋ぎ合わされていく。


 彼の苦痛に満ちていた呼吸が、次第に穏やかな寝息へと変わっていった。


「……すごい……」

リラは、涙を流していた。


 だが、それはもう絶望の涙ではない。

失われたと思っていた希望を、ようやくその手に取り戻したことへの歓喜の涙だった。


「これが、お前の新しい物語だ。エリアーナ」

俺は、静かに告げた。


「《生命の揺り籠クレイドル・オブ・ライフ》。

それこそが、お前の本当の天賦ギフトだ」


「……生命の……揺り籠……」


 エリアーナは、力強くその言葉を繰り返した。


 その瞳には、もう迷いはなかった。

彼女は、俺に向き直ると深く、深く頭を下げた。


「ありがとうございます……!

あなたは、アタシと……そして、アタシの仲間たちの魂を救ってくれた恩人です……!」


「礼を言うのは、まだ早い」

俺は、彼女の手を取りゆっくりと立ち上がらせる。


「ノクスの魂はまだ不安定だ。

それに、あんたの仲間たちの無念を晴らす戦いは、まだ始まったばかりなんだからな」


「はい……!」

エリアーナは、力強く頷いた。


「この力、あなたのために使わせてください!

いえ、私たちと同じように、あの男に物語を奪われた全ての人々のために!」


 こうして、俺たちのギルド《アケボシ》に六人目の仲間が加わった。

最高の「支援役」であり、最高の「癒し手」となる、エリアーナが。


「――エリアーナ」

俺は、新たな仲間に向き直った。


「一つ、聞きたいことがある。

あんたの仲間たちは、なぜ帝国に処刑されたんだ?

ただ、歌を歌ったから、というだけじゃないはずだ」


 俺の問いに、エリアーナの表情が険しくなる。

彼女は、しばらく黙り込んだ後、意を決したように口を開いた。


「……あの子たちは、見つけてしまったんです。

リュウガが、帝国の奥深くで進めている、神をも恐れぬ実験の存在を」


「実験……?」


「ええ」

エリアーナは、声をひそめた。


「リュウガは、人の天賦ギフトを奪うだけじゃない。

奪った力を、自らの駒である兵士たちに『移植』している、と」


「――《天賦移植ギフトトランスプラント》」


 その言葉に、俺たちは息を呑んだ。


 あの道化師ピエロも、不死身のザイムも。

彼らの力は、元々は誰かの大切な物語だったのかもしれない。


「そのための、秘密の研究施設が帝国領内のどこかにあるはずです。

あの子たちは、その場所を突き止めようとして……消された」


 エリアーナの瞳に、再び憎しみの炎が宿る。

だが、それはもうただの絶望ではない。

仲間たちの無念を晴らすという、明確な目的を持った炎だった。


 俺は、仲間たちの顔を見渡した。

もう、次にやるべきことは決まっていた。


「……行くぞ」

俺は、宣言した。


「俺たちの、次なる目的地へ」


「その、帝国の実験場とやらを、俺たちの手でぶっ潰しに行く」


 俺の言葉に、仲間たちが力強く頷いてくれる。

俺たちの新たな旅は、帝国が隠す最も深い闇の核心へと迫っていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

家族と魔法と異世界ライフ!〜お父さん、転生したら無職だったよ〜

三瀬夕
ファンタジー
「俺は加藤陽介、36歳。普通のサラリーマンだ。日本のある町で、家族5人、慎ましく暮らしている。どこにでいる一般家庭…のはずだったんだけど……ある朝、玄関を開けたら、そこは異世界だった。一体、何が起きたんだ?転生?転移?てか、タイトル何これ?誰が考えたの?」 「えー、可愛いし、いいじゃん!ぴったりじゃない?私は楽しいし」 「あなたはね、魔導師だもん。異世界満喫できるじゃん。俺の職業が何か言える?」 「………無職」 「サブタイトルで傷、えぐらないでよ」 「だって、哀愁すごかったから。それに、私のことだけだと、寂しいし…」 「あれ?理沙が考えてくれたの?」 「そうだよ、一生懸命考えました」 「ありがとな……気持ちは嬉しいんだけど、タイトルで俺のキャリア終わっちゃってる気がするんだよな」 「陽介の分まで、私が頑張るね」 「いや、絶対、“職業”を手に入れてみせる」 突然、異世界に放り込まれた加藤家。 これから先、一体、何が待ち受けているのか。 無職になっちゃったお父さんとその家族が織りなす、異世界コメディー? 愛する妻、まだ幼い子どもたち…みんなの笑顔を守れるのは俺しかいない。 ──家族は俺が、守る!

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界おっさん一人飯

SILVER・BACK(アマゴリオ)
ファンタジー
 サラリーマンのおっさんが事故に遭って異世界転生。  秀でた才能もチートもないが、出世欲もなく虚栄心もない。安全第一で冒険者として過ごし生き残る日々。  それは前世からの趣味である美味しいご飯を異世界でも食べ歩くためだった。  

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...