97 / 150
第15章:帝国の実験場
第97話:沈黙という名の対話
しおりを挟む
俺の意識は、リバースの魂の奥深くへと潜っていく。
クラウンの時のような、鏡の迷路はない。
だが、その魂はどこまでもねじくれ、天邪鬼な罠に満ちていた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名前:リバース
状態:愉悦、冷静な分析、魂の奥底の深い悲しみ
魂の物語:
【起源】:何を言っても、その言葉を信じてもらえなかった過去。
【渇望】:言葉ではなく、その裏にある真実を誰かに理解してほしい。
【信条】:言葉は、嘘をつくためにある。真実は、常にその反対側にある。
天賦:
《天邪鬼な翻訳機》
能力概要:術者の言葉が、相手には全て正反対の意味で伝わるようになる。
「攻撃しろ」は「防御しろ」に、「逃げろ」は「向かってこい」になる。
[制約・ルール]:このルールを相手に気づかれずに、いかに利用するかが鍵。
攻略の糸口:
【論理】:彼女の力の源泉は「言葉」そのもの。言葉によるコミュニケーションを完全に放棄し、魂で対話することが唯一の攻略法。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「…………」
情報を得た俺は、静かに目を開けた。
そして、奥歯を強く噛み締める。
(……そういうことか)
全てのピースが、カチリと音を立ててはまった。
血の気が、急速に引いていく。
俺は、とんでもない勘違いをしていた。
彼女は、俺たちの魂を操っているんじゃない。
ただ、俺たちの「耳」をだましているだけなのだ。
彼女が発する言葉の全てが、俺たちの魂に届く前に正反対の意味へと翻訳されてしまう。
そして、そのルールに気づかない限り、俺たちは彼女の言葉に踊らされ続ける。
「―――さあ、フィナーレとまいりましょうか」
リバースは、俺たちの混乱が極限に達したのを見て取ると、最後の命令を下した。
その矛先は、このチームの最強の「剣」、ルナに向けられている。
「――ルナ!
そこにいる軍師を、攻撃しろ!」
『――ルナ!
そこにいる軍師を、防御しろ!』
その言葉が、ルナの魂に届いた瞬間。
彼女の動きが、ぴたりと止まった。
そして、俺の前に立ちはだかり、まるで俺を守るかのように両腕を広げたのだ。
「……な……?」
リバースの顔に、初めて驚愕の色が浮かんだ。
自分の天賦が、意図しない結果を生み出したことに。
(……今だ……!)
俺は、この一瞬の隙を見逃さなかった。
だが、どうやって仲間に伝える?
俺が「攻撃しろ」と言えば、彼らは防御するだろう。
「逃げろ」と言えば、突撃するだろう。
言葉は、もはや俺たちの武器ではない。
敵の武器だ。
ならば、俺たちがやるべきことはただ一つ。
俺は、咄嗟にルナの背中を押しのけると、自らがリバースの前へと躍り出た。
そして、両腕を大きく広げて、仲間たちに向かって叫んだ。
言葉ではない。
魂で。
(―――全員、聞くな!)
(―――喋るな!)
(―――ただ、感じろ!)
俺は、リバースの目を見つめた。
そして、無言でジンとエルゴに視線だけで合図を送る。
アイコンタクト。
前世で、俺が最も苦手としていたコミュニケーション。
だが、今の俺たちにはこれしかない。
ジンが、エルゴが、俺の意図を理解し、無言で頷く。
「……面白い」
リバースは、ふっと息を漏らすように笑った。
「どうやら、私のイタズラにも気づいてしまったようね」
だが、彼女の表情に焦りはない。
言葉を封じられた俺たちに、連携など取れるはずがないと高をくくっているのだ。
「―――だが、もう遅い!」
彼女は、再び叫んだ。
「―――全員、動くな!」
『―――全員、動け!』
その言葉が、俺たちの反撃の狼煙となった。
ルナが、ジンが、そしてエルゴが、俺の思考と完全にリンクしたかのように、一斉に動き出す。
言葉を捨てた俺たちの魂は、より深く、より強く繋がっていた。
俺たちの、本当の戦いが今、始まろうとしていた。
俺は、この沈黙の戦場で、ただ一人、静かに笑みを浮かべていた。
(……教えてやるよ、リバース)
(言葉よりも、雄弁な対話があることをな)
俺たちの、魂の対話が。
クラウンの時のような、鏡の迷路はない。
だが、その魂はどこまでもねじくれ、天邪鬼な罠に満ちていた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名前:リバース
状態:愉悦、冷静な分析、魂の奥底の深い悲しみ
魂の物語:
【起源】:何を言っても、その言葉を信じてもらえなかった過去。
【渇望】:言葉ではなく、その裏にある真実を誰かに理解してほしい。
【信条】:言葉は、嘘をつくためにある。真実は、常にその反対側にある。
天賦:
《天邪鬼な翻訳機》
能力概要:術者の言葉が、相手には全て正反対の意味で伝わるようになる。
「攻撃しろ」は「防御しろ」に、「逃げろ」は「向かってこい」になる。
[制約・ルール]:このルールを相手に気づかれずに、いかに利用するかが鍵。
攻略の糸口:
【論理】:彼女の力の源泉は「言葉」そのもの。言葉によるコミュニケーションを完全に放棄し、魂で対話することが唯一の攻略法。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「…………」
情報を得た俺は、静かに目を開けた。
そして、奥歯を強く噛み締める。
(……そういうことか)
全てのピースが、カチリと音を立ててはまった。
血の気が、急速に引いていく。
俺は、とんでもない勘違いをしていた。
彼女は、俺たちの魂を操っているんじゃない。
ただ、俺たちの「耳」をだましているだけなのだ。
彼女が発する言葉の全てが、俺たちの魂に届く前に正反対の意味へと翻訳されてしまう。
そして、そのルールに気づかない限り、俺たちは彼女の言葉に踊らされ続ける。
「―――さあ、フィナーレとまいりましょうか」
リバースは、俺たちの混乱が極限に達したのを見て取ると、最後の命令を下した。
その矛先は、このチームの最強の「剣」、ルナに向けられている。
「――ルナ!
そこにいる軍師を、攻撃しろ!」
『――ルナ!
そこにいる軍師を、防御しろ!』
その言葉が、ルナの魂に届いた瞬間。
彼女の動きが、ぴたりと止まった。
そして、俺の前に立ちはだかり、まるで俺を守るかのように両腕を広げたのだ。
「……な……?」
リバースの顔に、初めて驚愕の色が浮かんだ。
自分の天賦が、意図しない結果を生み出したことに。
(……今だ……!)
俺は、この一瞬の隙を見逃さなかった。
だが、どうやって仲間に伝える?
俺が「攻撃しろ」と言えば、彼らは防御するだろう。
「逃げろ」と言えば、突撃するだろう。
言葉は、もはや俺たちの武器ではない。
敵の武器だ。
ならば、俺たちがやるべきことはただ一つ。
俺は、咄嗟にルナの背中を押しのけると、自らがリバースの前へと躍り出た。
そして、両腕を大きく広げて、仲間たちに向かって叫んだ。
言葉ではない。
魂で。
(―――全員、聞くな!)
(―――喋るな!)
(―――ただ、感じろ!)
俺は、リバースの目を見つめた。
そして、無言でジンとエルゴに視線だけで合図を送る。
アイコンタクト。
前世で、俺が最も苦手としていたコミュニケーション。
だが、今の俺たちにはこれしかない。
ジンが、エルゴが、俺の意図を理解し、無言で頷く。
「……面白い」
リバースは、ふっと息を漏らすように笑った。
「どうやら、私のイタズラにも気づいてしまったようね」
だが、彼女の表情に焦りはない。
言葉を封じられた俺たちに、連携など取れるはずがないと高をくくっているのだ。
「―――だが、もう遅い!」
彼女は、再び叫んだ。
「―――全員、動くな!」
『―――全員、動け!』
その言葉が、俺たちの反撃の狼煙となった。
ルナが、ジンが、そしてエルゴが、俺の思考と完全にリンクしたかのように、一斉に動き出す。
言葉を捨てた俺たちの魂は、より深く、より強く繋がっていた。
俺たちの、本当の戦いが今、始まろうとしていた。
俺は、この沈黙の戦場で、ただ一人、静かに笑みを浮かべていた。
(……教えてやるよ、リバース)
(言葉よりも、雄弁な対話があることをな)
俺たちの、魂の対話が。
20
あなたにおすすめの小説
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
家族と魔法と異世界ライフ!〜お父さん、転生したら無職だったよ〜
三瀬夕
ファンタジー
「俺は加藤陽介、36歳。普通のサラリーマンだ。日本のある町で、家族5人、慎ましく暮らしている。どこにでいる一般家庭…のはずだったんだけど……ある朝、玄関を開けたら、そこは異世界だった。一体、何が起きたんだ?転生?転移?てか、タイトル何これ?誰が考えたの?」
「えー、可愛いし、いいじゃん!ぴったりじゃない?私は楽しいし」
「あなたはね、魔導師だもん。異世界満喫できるじゃん。俺の職業が何か言える?」
「………無職」
「サブタイトルで傷、えぐらないでよ」
「だって、哀愁すごかったから。それに、私のことだけだと、寂しいし…」
「あれ?理沙が考えてくれたの?」
「そうだよ、一生懸命考えました」
「ありがとな……気持ちは嬉しいんだけど、タイトルで俺のキャリア終わっちゃってる気がするんだよな」
「陽介の分まで、私が頑張るね」
「いや、絶対、“職業”を手に入れてみせる」
突然、異世界に放り込まれた加藤家。
これから先、一体、何が待ち受けているのか。
無職になっちゃったお父さんとその家族が織りなす、異世界コメディー?
愛する妻、まだ幼い子どもたち…みんなの笑顔を守れるのは俺しかいない。
──家族は俺が、守る!
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
「元」面倒くさがりの異世界無双
空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。
「カイ=マールス」と。
よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
異世界おっさん一人飯
SILVER・BACK(アマゴリオ)
ファンタジー
サラリーマンのおっさんが事故に遭って異世界転生。
秀でた才能もチートもないが、出世欲もなく虚栄心もない。安全第一で冒険者として過ごし生き残る日々。
それは前世からの趣味である美味しいご飯を異世界でも食べ歩くためだった。
推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる
ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。
彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。
だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。
結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。
そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた!
主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。
ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる