異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第15章:帝国の実験場

第97話:沈黙という名の対話

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 俺の意識は、リバースの魂の奥深くへと潜っていく。

 クラウンの時のような、鏡の迷路はない。
だが、その魂はどこまでもねじくれ、天邪鬼あまのじゃくな罠に満ちていた。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名前:リバース
状態:愉悦ゆえつ、冷静な分析、魂の奥底の深い悲しみ
​魂の物語:
【起源】:何を言っても、その言葉を信じてもらえなかった過去。
渇望かつぼう】:言葉ではなく、その裏にある真実を誰かに理解してほしい。
【信条】:言葉は、嘘をつくためにある。真実は、常にその反対側にある。
天賦ギフト
天邪鬼な翻訳機リバース・トランスレーター
能力概要:術者の言葉が、相手には全て正反対の意味で伝わるようになる。
「攻撃しろ」は「防御しろ」に、「逃げろ」は「向かってこい」になる。 

[制約・ルール]:このルールを相手に気づかれずに、いかに利用するかが鍵。 


​攻略の糸口:
【論理】:彼女の力の源泉は「言葉」そのもの。言葉によるコミュニケーションを完全に放棄し、魂で対話することが唯一の攻略法。 


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

「…………」

 情報を得た俺は、静かに目を開けた。
そして、奥歯を強く噛み締める。

(……そういうことか)

 全てのピースが、カチリと音を立ててはまった。
血の気が、急速に引いていく。
俺は、とんでもない勘違いをしていた。

 彼女は、俺たちの魂を操っているんじゃない。
ただ、俺たちの「耳」をだましているだけなのだ。

 彼女が発する言葉の全てが、俺たちの魂に届く前に正反対の意味へと翻訳されてしまう。

 そして、そのルールに気づかない限り、俺たちは彼女の言葉に踊らされ続ける。

「―――さあ、フィナーレとまいりましょうか」

 リバースは、俺たちの混乱が極限に達したのを見て取ると、最後の命令を下した。

 その矛先は、このチームの最強の「剣」、ルナに向けられている。

「――ルナ!
そこにいる軍師を、攻撃しろ!」

『――ルナ!
そこにいる軍師を、防御しろ!』

 その言葉が、ルナの魂に届いた瞬間。
彼女の動きが、ぴたりと止まった。

 そして、俺の前に立ちはだかり、まるで俺を守るかのように両腕を広げたのだ。

「……な……?」
リバースの顔に、初めて驚愕きょうがくの色が浮かんだ。

 自分の天賦ギフトが、意図しない結果を生み出したことに。

(……今だ……!)

 俺は、この一瞬のすきを見逃さなかった。

 だが、どうやって仲間に伝える?

 俺が「攻撃しろ」と言えば、彼らは防御するだろう。
「逃げろ」と言えば、突撃するだろう。
言葉は、もはや俺たちの武器ではない。
敵の武器だ。

 ならば、俺たちがやるべきことはただ一つ。

 俺は、咄嗟とっさにルナの背中を押しのけると、自らがリバースの前へと躍り出た。

 そして、両腕を大きく広げて、仲間たちに向かって叫んだ。

 言葉ではない。
魂で。

(―――全員、聞くな!)

(―――喋るな!)

(―――ただ、感じろ!)

 俺は、リバースの目を見つめた。
そして、無言でジンとエルゴに視線だけで合図を送る。

 アイコンタクト。
前世で、俺が最も苦手としていたコミュニケーション。
だが、今の俺たちにはこれしかない。

 ジンが、エルゴが、俺の意図を理解し、無言で頷く。

「……面白い」
リバースは、ふっと息を漏らすように笑った。

「どうやら、私のイタズラにも気づいてしまったようね」

 だが、彼女の表情に焦りはない。
言葉を封じられた俺たちに、連携など取れるはずがないと高をくくっているのだ。

「―――だが、もう遅い!」
彼女は、再び叫んだ。

「―――全員、動くな!」

『―――全員、動け!』

 その言葉が、俺たちの反撃の狼煙のろしとなった。

 ルナが、ジンが、そしてエルゴが、俺の思考と完全にリンクしたかのように、一斉に動き出す。

 言葉を捨てた俺たちの魂は、より深く、より強く繋がっていた。
俺たちの、本当の戦いが今、始まろうとしていた。

 俺は、この沈黙の戦場で、ただ一人、静かに笑みを浮かべていた。

(……教えてやるよ、リバース)

(言葉よりも、雄弁な対話があることをな)

 俺たちの、魂の対話が。
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