異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第16章:囚われの叡智とキメラ

第100話:コンマ三秒の勝機

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「―――ケント!」
 ルナの悲鳴が、響き渡った。

 彼女は、無重力空間での三次元的な戦闘に体力を消耗し、動きが鈍り始めていた。
その一瞬のすきを、鏡から飛び出してきた兵士は見逃さなかった。

 電磁警棒が、ルナの脇腹を強かに打ち据える。

「ぐ……ぁっ……!」
銀色の影が、床に叩きつけられた。

「ルナッ!」

 俺は、駆け寄ろうとする。
だが、その進路を断つように、新たな無重力の円が床に描かれた。

(くそっ……!
このままじゃ、ジリ貧だ……!)

 軍師である俺の頭脳が、機能しない。
分析すべき情報が、あまりにも不完全すぎる。

 仲間たちが、一人、また一人と傷ついていく。
俺は、ただそれを見ていることしかできないのか。

「―――ケントよ!」
 その時、エルゴの力強い声が響いた。

「儂を、信じろ!」
 彼は、古びた傘を天に掲げた。

「儂の《未来への羅針盤フューチャー・コンパス》が、奴らの次の一手を読んでおるわ!」

 そうだ。
俺には、仲間がいる。

「――エリアーナ!」
俺は、叫んだ。

「エルゴの予測に合わせて、歌え!
奴らの奇襲経路を、お前の力で塞ぐんだ!」

「――ジン!」
「奴らを分断しろ!
絶対に、二人を同時に相手にするな!」

 俺たちの、反撃が始まった。
エルゴが未来を読み、エリアーナが道を塞ぎ、ジンが敵を分断する。

 俺は、その間にただ一点に意識を集中させた。
二つの天賦ギフトが発動する、その瞬間の魂の揺らぎに。

 そして、ついに見つけた。
観測情報にあった、コンマ数秒のタイムラグ。

《境界線の内と外》が発動し、物理法則が書き換わる。

 その、コンマ三秒後。
《第四の壁の覗き穴》が起動し、奇襲が始まる。

 その、わずかコンマ三秒。
それが、俺たちの唯一の勝機。

「―――全員、聞け!」
俺は、魂で叫んだ。

「奴らの、本当の弱点を見つけたぞ!」

 俺は、エリアーナの奏でる戦いの歌に、俺だけの指揮を重ねた。
それは、仲間たちにだけ伝わる、反撃の合図。

 ジンが、囮となって鏡の前に立つ。
予想通り、床に無重力の円が描かれた。

 その、コンマ三秒後。
鏡から、警備兵が飛び出してくる。

 だが、その先にはもうジンはいない。
待ち構えていたのは、最強の牙。

「―――喰らいやがれぇぇぇっっ!!」
ルナの爪が、無防備な兵士の体を深々と引き裂いた。

「ぐ……ぁっ……!?」
初めて、奴らに有効打が入った。

 連携が、崩れた。
相棒がやられたことに動揺したのか、《境界線の内と外》の能力者の動きが、わずかに乱れる。

 その一瞬のすきを、俺たちが見逃すはずがなかった。

「―――今だッ!」

 俺たちの、総攻撃が始まった。
分断され、連携を失った彼らはもはや、ただの魂のない人形に過ぎない。

 数分後。
二人の警備兵は、完全に沈黙し床に転がっていた。

「……はぁ……はぁ……」
俺たちは、肩で息をしながら、ようやく訪れた静寂の中にいた。

 勝った。
だが、その代償もまた大きかった。
仲間たちは、皆深手を負っている。

「……先を、急ごう」
 俺は、仲間たちに言った。

「こんなのが、まだうじゃうじゃいるかもしれない」

 俺たちは、傷ついた体を引きずりながら、施設の奥へと続く不気味な白い廊下を、再び歩き始めた。

 この施設の本当の絶望は、まだ始まったばかりだということも知らずに。
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