異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

文字の大きさ
102 / 150
第16章:囚われの叡智とキメラ

第102話:凍てついた魂の解放

しおりを挟む
 俺の意識は、ガラスの壁を通り抜け、彼女の魂の奥深くへと潜っていく。

 彼女の魂は、ルナのように固い氷壁に閉ざされているわけではなかった。
だが、もっと別の、異様な状態だった。

 まるで、凍結されているかのようだった。
全ての感情が、記憶が、物語が、絶対零度の氷の中に封じ込められている。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名前:サラ
状態:魂の凍結、深い絶望、罪悪感
​魂の物語:
【起源】:ただ、この世界の真理を知りたかっただけの、純粋な知的好奇心。
【絶望】:リュウガによってその才能を見出され、家族を人質に取られる形で、非人道的な実験に加担させられたこと。
【防御】:自らが犯す罪の重さに耐えきれず、自らの意志で心を閉ざし、感情のない「機械」となることを選んだ。
天賦ギフト
《万象解析(オールシング・アナリシス)》
能力概要:この世界のあらゆる事象、物質、エネルギーの法則性を瞬時に解析し、その構造を数式として理解することができる。
[制約・ルール]:解析対象への、純粋な「知りたい」という欲求がなければ、能力の精度は著しく低下する。
​攻略の糸口:
【精神】:彼女の魂の核は、「純粋な知的好奇心」。
彼女の罪を責めるのではなく、彼女の才能が本来持つべきだった「未来を創るための力」としての可能性を提示することが、その氷を溶かす鍵となる。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

「…………」

 俺は、静かに観測を終えた。
そして、全てのピースがカチリと音を立ててはまった。

 血の気が、引いていく。
彼女は、加害者などではない。
彼女もまた、リュウガが生み出した、最も悲しい犠牲者の一人だったのだ。

 家族を人質に取られ、自らの才能を最もおぞましい形で利用される。
その絶望の果てに、彼女は自ら心を殺すことを選んだ。
そうしなければ、正気ではいられなかったのだろう。

「……あんたが、サラか」
俺は、静かに語りかけた。

 その名に、彼女の肩がほんのわずかに震えた。
もう、誰も呼ぶことのなかったはずの、自分の名前。

「俺は、あんたを責めに来たんじゃない」
俺は、ガラスの壁にそっと手を触れた。

「俺は、あんたの力を解放しに来たんだ」

「……解放……?」
彼女の唇から、初めて感情のこもった言葉が漏れた。

 それは、純粋な疑問。

「俺の《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》が、告げている。
あんたの力、《万象解析オールシング・アナリシス》は、こんな人の魂をもてあぶためにある力じゃないはずだ」

 俺の言葉は、彼女の魂の奥底、凍てついた氷の核へと静かに響いていく。

「あんたの力は、この世界の誰も知らない真理を解き明かし、新しい未来を創るための力だったはずだ。
病に苦しむ人々を救うための、新しい魔法を生み出す力だったのかもしれない。
飢えに苦しむ人々を救うための、新しい作物を生み出す力だったのかもしれない」

「……やめて……」
 彼女は、耳を塞ぐように頭を振った。
凍てついた魂の氷に、ひびが入っていく。

「あんたが本当に知りたかったのは、魂の定着率なんかじゃない。
この世界の、美しい法則性だったはずだ。
そうだろ、サラ?」

 俺の言葉は、もはや問いかけではなかった。
彼女の失われた物語を、俺が代わりに紡いでいるのだ。

「あんたのその才能は、破壊のためじゃない。
未来を創るための力だ!」

 俺が、そう叫んだ瞬間。

 パリンッ!

 彼女の魂を覆っていた氷が、砕け散る音がした。
サラのうつろだった瞳に、急速に光が戻っていく。

 知性の光、絶望の光、そして後悔の光が渦を巻き、その瞳から大粒の涙がとめどなくあふれ出した。

「……あ……ああ……あああああああああああああああああああっっ!!」

 彼女は、その場に泣き崩れた。
今まで押し殺してきた、全ての感情が奔流ほんりゅうとなって彼女の魂を洗い流していく。
俺たちは、ただ黙ってその光景を見つめていた。

 一人の天才が、長い、長い悪夢から目覚める瞬間を。

 その、時だった。

 ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッ!!

 研究室全体に、けたたましい警報音が鳴り響いた。
壁に取り付けられた赤いランプが、狂ったように回転を始める。

『――警告。警告。
最終プロトコル、フェーズ・キメラの制御に失敗。
封印チャンバー、隔壁崩壊まで、残り10秒』

 無機質なアナウンスが、俺たちの新たな絶望を告げる。

「……キメラ……?」
ルナが、いぶかしげにつぶやく。

「……嘘……」
床に泣き崩れていたサラが、絶望に満ちた顔で顔を上げた。

「……あの子が……目覚めちゃう……!」

 彼女の言葉と同時。
研究室の最も奥、ひときわ巨大で分厚い鋼鉄の扉が、内側からすさまじい力で歪み始めた。

 ミシミシと、金属が悲鳴を上げる音。

 そして。

 ドッゴオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!

 けたたましい破壊音と共に、鋼鉄の扉が紙切れのように吹き飛んだ。
その向こう側の暗闇から、二つの、燃えるような赤い光が俺たちをにらみつけている。

 ゆっくりと、その巨体が姿を現す。
それは、俺が今まで見てきたどんな魔物とも違う、おぞましい何かだった。

 複数の生物を、無理やり一つに縫い合わせたかのような、冒涜的ぼうとくてきな姿。

 研究の、失敗作。
魂の、合成獣。

 制御不能の怪物「キメラ」が、俺たちの前にその絶望的な姿を現した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

家族と魔法と異世界ライフ!〜お父さん、転生したら無職だったよ〜

三瀬夕
ファンタジー
「俺は加藤陽介、36歳。普通のサラリーマンだ。日本のある町で、家族5人、慎ましく暮らしている。どこにでいる一般家庭…のはずだったんだけど……ある朝、玄関を開けたら、そこは異世界だった。一体、何が起きたんだ?転生?転移?てか、タイトル何これ?誰が考えたの?」 「えー、可愛いし、いいじゃん!ぴったりじゃない?私は楽しいし」 「あなたはね、魔導師だもん。異世界満喫できるじゃん。俺の職業が何か言える?」 「………無職」 「サブタイトルで傷、えぐらないでよ」 「だって、哀愁すごかったから。それに、私のことだけだと、寂しいし…」 「あれ?理沙が考えてくれたの?」 「そうだよ、一生懸命考えました」 「ありがとな……気持ちは嬉しいんだけど、タイトルで俺のキャリア終わっちゃってる気がするんだよな」 「陽介の分まで、私が頑張るね」 「いや、絶対、“職業”を手に入れてみせる」 突然、異世界に放り込まれた加藤家。 これから先、一体、何が待ち受けているのか。 無職になっちゃったお父さんとその家族が織りなす、異世界コメディー? 愛する妻、まだ幼い子どもたち…みんなの笑顔を守れるのは俺しかいない。 ──家族は俺が、守る!

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界おっさん一人飯

SILVER・BACK(アマゴリオ)
ファンタジー
 サラリーマンのおっさんが事故に遭って異世界転生。  秀でた才能もチートもないが、出世欲もなく虚栄心もない。安全第一で冒険者として過ごし生き残る日々。  それは前世からの趣味である美味しいご飯を異世界でも食べ歩くためだった。  

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...