異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第16章:囚われの叡智とキメラ

第103話:制御不能の怪物

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 ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッ!!

​ 研究室全体に、けたたましい警報音が鳴り響く。
壁に取り付けられた赤いランプが、狂ったように回転し、俺たちの顔を絶望の朱色に染め上げていた。

​『――警告。警告。
最終プロトコル、フェーズ・キメラの制御に失敗。
封印チャンバー、隔壁崩壊まで、残り10秒』

​ 無機質なアナウンスが、俺たちの新たな絶望を告げる。

​「……嘘……」
床に泣き崩れていたサラが、絶望に満ちた顔で顔を上げた。

​「……あの子が……目覚めちゃう……!」

​ 彼女の言葉と同時。
研究室の最も奥、ひときわ巨大で分厚い鋼鉄の扉が、内側からすさまじい力でゆがみ始めた。

​ ミシミシと、金属が悲鳴を上げる音。

​ そして。

​ ドッゴオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!

​ けたたましい破壊音と共に、鋼鉄の扉が紙切れのように吹き飛んだ。
その向こう側の暗闇から、二つの、燃えるような赤い光が俺たちをにらみつけている。

​ ゆっくりと、その巨体が姿を現す。

​ それは、俺が今まで見てきたどんな魔物とも違う、おぞましい何かだった。

​「……な……んだ、ありゃ……」

 ルナが、低い声でうなる。
その獣としての本能が、目の前の存在の異常性を感じ取り、最大級の警鐘を鳴らしていた。

​ 巨体は、熊のようだった。
だが、その背中からは昆虫のような禍々まがまがしい甲殻が生え、右腕は岩石のようにゴツゴツとした巨人の腕、そして左腕は竜の鱗に覆われた鋭い鉤爪かぎづめとなっている。

​ 複数の生物を、無理やり一つに縫い合わせたかのような、冒涜的ぼうとくてきな姿。

 その全身からは、移植された複数の天賦ギフトが制御不能な状態で混ざり合い、黒いオーラとなって陽炎のように立ち上っていた。

​「グルルルルルルルルルッ……」

​ その喉から漏れるのは、ただの威嚇いかくではない。
複数の魂が混ざり合ったことによる、終わりのない苦痛の叫びだった。

​「……あれが……研究の……失敗作……」

​ リラが、か細い声でつぶやく。
彼女の隣では、エリアーナが息を呑んで立ち尽くしていた。

​ 研究の、失敗作。
魂の、合成獣。

​ 制御不能の怪物「キメラ」が、俺たちの前にその絶望的な姿を現した。

​「―――全員、構えろ!」

​ 俺の叫びが、合図だった。
ジンが音もなく散開し、エルゴが仲間たちを守るように前に出る。
ルナは、獣のように身を低くし、その牙をき出しにした。

​ だが、キメラの動きは俺たちの予測を遥かに超えていた。

​ ゴッ!

​ キメラは、まず自らの右腕、岩石の巨腕を近くの床に叩きつけた。
その瞬間、その腕の表面が黒光りする金属のような質感へと変化する。

​ 《鋼鉄化アダマンタイト・スキン》。

 かつて、療養施設で暴走した患者が持っていた天賦ギフトか。
​「―――GRRRRRAAAAAAAAAAAAAAA!!」

​ 雄叫びと共に、キメラはその鋼鉄の腕で近くにあった巨大な研究機材を掴み、俺たちに向かって投げつけてきた。

​ 軽自動車ほどもある鉄の塊が、砲弾のような速度で迫る。

​「くっ……!」

​ 俺たちは、とっさに左右へと飛び退いた。
研究機材は、俺たちがいた場所の床に激突し、すさまじい轟音ごうおんと共に砕け散る。

​ だが、攻撃はそれだけでは終わらなかった。

​「――気をつけろ!」
ジンが、鋭い声を上げた。

​ キメラのもう一方の腕、竜の鉤爪かぎづめを持つ左腕が、砕け散った研究機材の破片にそっと触れる。

​ その瞬間。
無数の金属片が、まるで時限爆弾のようにチカチカと赤い光を放ち始めた。

​「――まずい、伏せろ!」

​ 俺が叫び終えるのと、金属片が一斉に爆発するのはほぼ同時だった。

​ ドドドドドドドドドドドドドドッッ!!!

​ すさまじい爆音と衝撃波が、研究室全体を揺るがす。
俺たちは、かろうじて近くのコンソールの陰に身を隠し、爆風をやり過ごした。

​ 《接触爆弾タッチ・ボム》。

 触れた無機物を、強力な爆弾に変える天賦ギフト

​ 硬化能力と、爆弾化能力。
二つの異なる天賦ギフトを、完璧な連携で使いこなしている。
こいつは、ただの暴走した怪物ではない。

 複数の能力を組み合わせ、その破壊力を最大化する知能を持っている。

​「……なんて、奴だ……!」

 ルナが、瓦礫の陰から顔を出し、忌々いまいましげにつぶやく。

​「防御と攻撃を、同時にやってのけるのかよ……!」

​「うむ……」
エルゴが、険しい顔でうなずいた。

「しかも、あの爆弾化能力。
我らが近づくことすら、許さんつもりじゃ」
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