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第16章:囚われの叡智とキメラ
第104話:科学者の瞳
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その通りだった。
このだだっ広い研究室の全てが、奴の武器だ。
床も、壁も、天井も、そこにある全てのものが爆弾に変わりうる。
俺たちは、完全に足場を奪われていた。
「―――GRRRAA!」
キメラは、俺たちの混乱をあざ笑うかのように、再び行動を開始した。
今度は、その巨体に似合わないほどの俊敏さで、壁際にある書架へと突進する。
そして、その背中から生えた昆虫の甲殻を、まるで盾のように展開した。
鋼鉄化した腕で書架をなぎ倒し、おびただしい数の書物を自らの周囲にばらまく。
そして、その本の一冊一冊に、竜の鉤爪が触れていく。
「……まさか……」
俺の脳裏を、最悪の光景がよぎった。
「―――全員、散開しろ!
爆弾の雨が来るぞ!」
俺の叫びと同時。
キメラは、鋼鉄化した腕で爆弾と化した無数の書物を、まるで霰弾のように俺たちに向かってばらまき始めた。
ヒュオッ、ヒュオッ、ヒュオッ!
数百、数千という爆弾の書物が、空を覆い尽くす。
それは、もはや回避できるような攻撃ではなかった。
「――エリアーナ!」
俺は、叫んだ。
「歌え!」
エリアーナは、力強く頷いた。
彼女は、恐怖を押し殺し、その手に持つリュートを奏で始める。
《生命の揺り籠》の、守りの旋律。
彼女の歌声と共に、俺たちの周囲に若草色の光のドームが出現した。
だが。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!!
光のドームに、無数の爆弾が着弾する。
すさまじい爆発が、連続して俺たちを襲った。
「―――きゃあっ!」
エリアーナの体が、衝撃に耐えきれず大きくよろめく。
歌声が、途切れた。
光のドームが、ガラスのように砕け散る。
「ぐっ……!」
俺たちは、爆風の余波をもろに食らい、床を転がった。
「……なんて、破壊力だ……」
ジンが、呻くように言った。
エリアーナの絶対防御ですら、この物量攻撃の前では意味をなさない。
俺は、この絶望的な状況の中で最後の武器を行使した。
こいつの物語を、その根源からこじ開ける。
(こいつの物語を、丸裸にしてやる――《物語の観測者》!)――発動!
俺の意識は、キメラの魂の奥深くへと潜っていく。
だが、そこにあったのは物語ではなかった。
ただ、混沌と苦痛が渦巻く、魂の坩堝だった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名前:キメラ(プロトタイプ・ゼロ)
状態:制御不能、純粋な破壊衝動、複数の魂の混濁による苦痛
魂の物語:
【起源】:リュウガの非人道的な《天賦移植》実験によって生み出された、最初の成功例であり、最大の失敗作。
【渇望】:この、終わりのない苦痛からの解放。
【衝動】:自らを創り出した、この世界そのものへの破壊衝動。
天賦:
《鋼鉄化》/《接触爆弾》/《再生能力》……その他、多数。
[制約・ルール]:複数の魂が混濁しているため、能力の組み合わせパターンは常に変動し、予測不能。
攻略の糸口:
【論理】:複数の魂が不安定に結合しているため、その結合を断ち切るほどの強力な「魂への攻撃」が有効な可能性がある。
【弱点】:[観測情報混濁] - 魂が常に変動しているため、物理的な弱点を特定することは極めて困難。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「……くそっ!」
情報を得た俺は、奥歯を強く噛み締めた。
弱点が、ない。
いや、ありすぎてないのと同じだ。
こいつの魂は、常に形を変えるアメーバのようなもの。
弱点を突いたと思っても、次の瞬間には別の魂がその弱点を補ってしまう。
「―――GRRRRAAAAA!!」
キメラは、俺たちの絶望をあざ笑うかのように、新たな攻撃の準備を始めていた。
今度は、その背中の甲殻を、無数の鋭い針のように逆立てる。
そして、その針の一本一本が、チカチカと赤い光を放ち始めた。
「……まずい……!」
俺は、息を呑んだ。
あれは、ただの針じゃない。
爆弾の針だ。
あれを、豪雨のようにばらまくつもりか。
もう、エリアーナの盾はない。
エルゴの天候操作も、この閉鎖空間では効果が薄い。
ルナとジンの攻撃は、奴の鋼鉄の皮膚には届かない。
俺たちは、完全に詰んでいた。
絶対的な、破壊の化身を前にして。
なすすべもなく、ただその死の宣告を待つだけ。
俺の脳裏に、初めて本当の「死」がよぎった。
その、絶望的な状況の中で。
俺の視界の端で、一人の少女がゆっくりと立ち上がるのが見えた。
サラだった。
彼女は、泣き崩れていたはずの床から、震える足で立ち上がった。
その瞳は、もはや絶望に濡れてはいなかった。
その瞳に宿っていたのは、科学者としての、純粋で冷徹なまでの「知的好奇心」。
目の前の、自らが創り出してしまった怪物の、その美しいまでの破壊の法則性を、彼女はただひたすらに見つめていた。
(……そうだ……)
俺の心に、最後の希望の光が灯る。
俺には、分からない。
だが、彼女になら分かるはずだ。
この怪物を生み出した、彼女になら。
俺は、最後の力を振り絞るように、彼女に向かって叫んだ。
その声は、命令ではなく、魂からの懇願だった。
「―――サラッ!」
「あんたにしか、分からないはずだ!」
「こいつを止める方法を、教えてくれ!」
このだだっ広い研究室の全てが、奴の武器だ。
床も、壁も、天井も、そこにある全てのものが爆弾に変わりうる。
俺たちは、完全に足場を奪われていた。
「―――GRRRAA!」
キメラは、俺たちの混乱をあざ笑うかのように、再び行動を開始した。
今度は、その巨体に似合わないほどの俊敏さで、壁際にある書架へと突進する。
そして、その背中から生えた昆虫の甲殻を、まるで盾のように展開した。
鋼鉄化した腕で書架をなぎ倒し、おびただしい数の書物を自らの周囲にばらまく。
そして、その本の一冊一冊に、竜の鉤爪が触れていく。
「……まさか……」
俺の脳裏を、最悪の光景がよぎった。
「―――全員、散開しろ!
爆弾の雨が来るぞ!」
俺の叫びと同時。
キメラは、鋼鉄化した腕で爆弾と化した無数の書物を、まるで霰弾のように俺たちに向かってばらまき始めた。
ヒュオッ、ヒュオッ、ヒュオッ!
数百、数千という爆弾の書物が、空を覆い尽くす。
それは、もはや回避できるような攻撃ではなかった。
「――エリアーナ!」
俺は、叫んだ。
「歌え!」
エリアーナは、力強く頷いた。
彼女は、恐怖を押し殺し、その手に持つリュートを奏で始める。
《生命の揺り籠》の、守りの旋律。
彼女の歌声と共に、俺たちの周囲に若草色の光のドームが出現した。
だが。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!!
光のドームに、無数の爆弾が着弾する。
すさまじい爆発が、連続して俺たちを襲った。
「―――きゃあっ!」
エリアーナの体が、衝撃に耐えきれず大きくよろめく。
歌声が、途切れた。
光のドームが、ガラスのように砕け散る。
「ぐっ……!」
俺たちは、爆風の余波をもろに食らい、床を転がった。
「……なんて、破壊力だ……」
ジンが、呻くように言った。
エリアーナの絶対防御ですら、この物量攻撃の前では意味をなさない。
俺は、この絶望的な状況の中で最後の武器を行使した。
こいつの物語を、その根源からこじ開ける。
(こいつの物語を、丸裸にしてやる――《物語の観測者》!)――発動!
俺の意識は、キメラの魂の奥深くへと潜っていく。
だが、そこにあったのは物語ではなかった。
ただ、混沌と苦痛が渦巻く、魂の坩堝だった。
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名前:キメラ(プロトタイプ・ゼロ)
状態:制御不能、純粋な破壊衝動、複数の魂の混濁による苦痛
魂の物語:
【起源】:リュウガの非人道的な《天賦移植》実験によって生み出された、最初の成功例であり、最大の失敗作。
【渇望】:この、終わりのない苦痛からの解放。
【衝動】:自らを創り出した、この世界そのものへの破壊衝動。
天賦:
《鋼鉄化》/《接触爆弾》/《再生能力》……その他、多数。
[制約・ルール]:複数の魂が混濁しているため、能力の組み合わせパターンは常に変動し、予測不能。
攻略の糸口:
【論理】:複数の魂が不安定に結合しているため、その結合を断ち切るほどの強力な「魂への攻撃」が有効な可能性がある。
【弱点】:[観測情報混濁] - 魂が常に変動しているため、物理的な弱点を特定することは極めて困難。
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「……くそっ!」
情報を得た俺は、奥歯を強く噛み締めた。
弱点が、ない。
いや、ありすぎてないのと同じだ。
こいつの魂は、常に形を変えるアメーバのようなもの。
弱点を突いたと思っても、次の瞬間には別の魂がその弱点を補ってしまう。
「―――GRRRRAAAAA!!」
キメラは、俺たちの絶望をあざ笑うかのように、新たな攻撃の準備を始めていた。
今度は、その背中の甲殻を、無数の鋭い針のように逆立てる。
そして、その針の一本一本が、チカチカと赤い光を放ち始めた。
「……まずい……!」
俺は、息を呑んだ。
あれは、ただの針じゃない。
爆弾の針だ。
あれを、豪雨のようにばらまくつもりか。
もう、エリアーナの盾はない。
エルゴの天候操作も、この閉鎖空間では効果が薄い。
ルナとジンの攻撃は、奴の鋼鉄の皮膚には届かない。
俺たちは、完全に詰んでいた。
絶対的な、破壊の化身を前にして。
なすすべもなく、ただその死の宣告を待つだけ。
俺の脳裏に、初めて本当の「死」がよぎった。
その、絶望的な状況の中で。
俺の視界の端で、一人の少女がゆっくりと立ち上がるのが見えた。
サラだった。
彼女は、泣き崩れていたはずの床から、震える足で立ち上がった。
その瞳は、もはや絶望に濡れてはいなかった。
その瞳に宿っていたのは、科学者としての、純粋で冷徹なまでの「知的好奇心」。
目の前の、自らが創り出してしまった怪物の、その美しいまでの破壊の法則性を、彼女はただひたすらに見つめていた。
(……そうだ……)
俺の心に、最後の希望の光が灯る。
俺には、分からない。
だが、彼女になら分かるはずだ。
この怪物を生み出した、彼女になら。
俺は、最後の力を振り絞るように、彼女に向かって叫んだ。
その声は、命令ではなく、魂からの懇願だった。
「―――サラッ!」
「あんたにしか、分からないはずだ!」
「こいつを止める方法を、教えてくれ!」
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