異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

文字の大きさ
104 / 150
第16章:囚われの叡智とキメラ

第104話:科学者の瞳

しおりを挟む
​ その通りだった。
このだだっ広い研究室の全てが、奴の武器だ。

 床も、壁も、天井も、そこにある全てのものが爆弾に変わりうる。
俺たちは、完全に足場を奪われていた。

​「―――GRRRAA!」

​ キメラは、俺たちの混乱をあざ笑うかのように、再び行動を開始した。
今度は、その巨体に似合わないほどの俊敏さで、壁際にある書架へと突進する。

​ そして、その背中から生えた昆虫の甲殻を、まるで盾のように展開した。
鋼鉄化した腕で書架をなぎ倒し、おびただしい数の書物を自らの周囲にばらまく。

​ そして、その本の一冊一冊に、竜の鉤爪かぎづめが触れていく。

​「……まさか……」
俺の脳裏を、最悪の光景がよぎった。

​「―――全員、散開しろ!
爆弾の雨が来るぞ!」

​ 俺の叫びと同時。
キメラは、鋼鉄化した腕で爆弾と化した無数の書物を、まるで霰弾のように俺たちに向かってばらまき始めた。

​ ヒュオッ、ヒュオッ、ヒュオッ!

​ 数百、数千という爆弾の書物が、空を覆い尽くす。
それは、もはや回避できるような攻撃ではなかった。

​「――エリアーナ!」
俺は、叫んだ。

​「歌え!」

​ エリアーナは、力強くうなずいた。
彼女は、恐怖を押し殺し、その手に持つリュートを奏で始める。

​ 《生命の揺り籠クレイドル・オブ・ライフ》の、守りの旋律。

​ 彼女の歌声と共に、俺たちの周囲に若草色の光のドームが出現した。

​ だが。

​ ドガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!!

​ 光のドームに、無数の爆弾が着弾する。
すさまじい爆発が、連続して俺たちを襲った。

​「―――きゃあっ!」
エリアーナの体が、衝撃に耐えきれず大きくよろめく。
歌声が、途切れた。

​ 光のドームが、ガラスのように砕け散る。

​「ぐっ……!」

俺たちは、爆風の余波をもろに食らい、床を転がった。

​「……なんて、破壊力だ……」
ジンが、うめくように言った。

 エリアーナの絶対防御ですら、この物量攻撃の前では意味をなさない。

​ 俺は、この絶望的な状況の中で最後の武器を行使した。
こいつの物語を、その根源からこじ開ける。

​(こいつの物語を、丸裸にしてやる――《物語の観測者》!)――発動!

​ 俺の意識は、キメラの魂の奥深くへと潜っていく。
だが、そこにあったのは物語ではなかった。

ただ、混沌カオスと苦痛が渦巻く、魂の坩堝るつぼだった。

​‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名前:キメラ(プロトタイプ・ゼロ)
状態:制御不能、純粋な破壊衝動、複数の魂の混濁による苦痛
​魂の物語:
【起源】:リュウガの非人道的な《天賦移植ギフトトランスプラント》実験によって生み出された、最初の成功例であり、最大の失敗作。
渇望かつぼう】:この、終わりのない苦痛からの解放。
【衝動】:自らを創り出した、この世界そのものへの破壊衝動。
天賦ギフト
鋼鉄化アダマンタイト・スキン》/《接触爆弾タッチ・ボム》/《再生能力リジェネレーション》……その他、多数。
[制約・ルール]:複数の魂が混濁しているため、能力の組み合わせパターンは常に変動し、予測不能。
​攻略の糸口:
【論理】:複数の魂が不安定に結合しているため、その結合を断ち切るほどの強力な「魂への攻撃」が有効な可能性がある。
【弱点】:[観測情報混濁] - 魂が常に変動しているため、物理的な弱点を特定することは極めて困難。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

​「……くそっ!」
情報を得た俺は、奥歯を強く噛み締めた。

​ 弱点が、ない。
いや、ありすぎてないのと同じだ。

 こいつの魂は、常に形を変えるアメーバのようなもの。
弱点を突いたと思っても、次の瞬間には別の魂がその弱点を補ってしまう。

​「―――GRRRRAAAAA!!」

​ キメラは、俺たちの絶望をあざ笑うかのように、新たな攻撃の準備を始めていた。
今度は、その背中の甲殻を、無数の鋭い針のように逆立てる。

​ そして、その針の一本一本が、チカチカと赤い光を放ち始めた。

​「……まずい……!」
俺は、息を呑んだ。

​ あれは、ただの針じゃない。
爆弾の針だ。
あれを、豪雨のようにばらまくつもりか。

​ もう、エリアーナの盾はない。
エルゴの天候操作も、この閉鎖空間では効果が薄い。
ルナとジンの攻撃は、奴の鋼鉄の皮膚には届かない。

​ 俺たちは、完全に詰んでいた。
絶対的な、破壊の化身を前にして。
なすすべもなく、ただその死の宣告を待つだけ。

​ 俺の脳裏に、初めて本当の「死」がよぎった。

​ その、絶望的な状況の中で。
俺の視界の端で、一人の少女がゆっくりと立ち上がるのが見えた。

​ サラだった。
彼女は、泣き崩れていたはずの床から、震える足で立ち上がった。
その瞳は、もはや絶望に濡れてはいなかった。

​ その瞳に宿っていたのは、科学者としての、純粋で冷徹なまでの「知的好奇心」。

 目の前の、自らが創り出してしまった怪物の、その美しいまでの破壊の法則性を、彼女はただひたすらに見つめていた。

​(……そうだ……)

​ 俺の心に、最後の希望の光が灯る。
俺には、分からない。
だが、彼女になら分かるはずだ。

​ この怪物を生み出した、彼女になら。
​ 俺は、最後の力を振り絞るように、彼女に向かって叫んだ。

 その声は、命令ではなく、魂からの懇願こんがんだった。

​「―――サラッ!」

​「あんたにしか、分からないはずだ!」

「こいつを止める方法を、教えてくれ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

家族と魔法と異世界ライフ!〜お父さん、転生したら無職だったよ〜

三瀬夕
ファンタジー
「俺は加藤陽介、36歳。普通のサラリーマンだ。日本のある町で、家族5人、慎ましく暮らしている。どこにでいる一般家庭…のはずだったんだけど……ある朝、玄関を開けたら、そこは異世界だった。一体、何が起きたんだ?転生?転移?てか、タイトル何これ?誰が考えたの?」 「えー、可愛いし、いいじゃん!ぴったりじゃない?私は楽しいし」 「あなたはね、魔導師だもん。異世界満喫できるじゃん。俺の職業が何か言える?」 「………無職」 「サブタイトルで傷、えぐらないでよ」 「だって、哀愁すごかったから。それに、私のことだけだと、寂しいし…」 「あれ?理沙が考えてくれたの?」 「そうだよ、一生懸命考えました」 「ありがとな……気持ちは嬉しいんだけど、タイトルで俺のキャリア終わっちゃってる気がするんだよな」 「陽介の分まで、私が頑張るね」 「いや、絶対、“職業”を手に入れてみせる」 突然、異世界に放り込まれた加藤家。 これから先、一体、何が待ち受けているのか。 無職になっちゃったお父さんとその家族が織りなす、異世界コメディー? 愛する妻、まだ幼い子どもたち…みんなの笑顔を守れるのは俺しかいない。 ──家族は俺が、守る!

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界おっさん一人飯

SILVER・BACK(アマゴリオ)
ファンタジー
 サラリーマンのおっさんが事故に遭って異世界転生。  秀でた才能もチートもないが、出世欲もなく虚栄心もない。安全第一で冒険者として過ごし生き残る日々。  それは前世からの趣味である美味しいご飯を異世界でも食べ歩くためだった。  

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...