異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第16章:囚われの叡智とキメラ

第106話:魂の設計図と致命的な欠陥

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 俺が、そう叫んだ瞬間。
サラの魂を覆っていた罪悪感の嵐が、嘘のように晴れていった。

 彼女のうつろだった瞳に、急速に光が戻っていく。
だが、それはもうただの絶望の光ではない。

 科学者としての、探究者としての、どこまでも純粋で、そして冷徹なまでの知性の光だった。

 彼女は、ゆっくりと顔を上げた。
そして、目の前で暴れ狂うキメラを、初めてまっすぐに見つめた。

 その瞳は、もはや自らが創り出した「失敗作」を恐れる目ではない。
目の前にある、最高に興味深い「解析対象」を見る目に変わっていた。

「……そうよ……」

 彼女の唇から、生まれ変わったかのように力強い声がれた。

「……なんて、美しいの……」

「……え……?」
俺は、思わず聞き返した。

 美しい?
あの、おぞましい怪物が?

「見て……ケント……」
サラは、うっとりとした表情でキメラを指さした。

「あの、複数の天賦ギフト渾然一体こんぜんいったいとなって渦巻くエネルギーの流れ……。
鋼鉄化アダマンタイト・スキン》の防御特性と、《接触爆弾タッチ・ボム》の攻撃特性が、なんて完璧な相互補完関係を築いているのかしら……!」

 彼女の目には、キメラの破壊活動が、もはやただの暴力には見えていなかった。
それは、解析すべき美しい数式。
解き明かすべき、至高のパズル。

 彼女の《万象解析オールシング・アナリシス》は、その本能に従ってすでに目の前の現象の解析を開始していたのだ。

 彼女は、まるで別人になったかのようにガラスの壁の内側にある巨大なコンソールへと駆け寄った。

 そして、そのやつれた指が、凄まじい速度でキーボードの上を踊り始める。

 カチャカチャカチャカチャッ!

 研究室の壁一面に設置された巨大なモニターに、俺には理解できない数式やグラフが、滝のように流れ始めた。

「……すごい……」
リラが、呆然ぼうぜんつぶやく。

 サラは、たった一人でこの絶望的な状況を、自らの研究室へと変えてしまったのだ。

「―――GRRRRAA!」

 キメラは、そんな俺たちの変化など意にも介さず、再びその鋼鉄化した腕で近くにあった書架しょかを掴み、俺たちに向かって投げつけてきた。

「―――危ない!」

 だが、俺たちが身構えるより早く、サラの冷静な声が響いた。

「――大丈夫よ、分析通りなら」

 彼女の言葉と同時。
キメラが投げつけた書架は、俺たちの数メートル手前で不自然に軌道を変え、あらぬ方向の壁に激突した。

「……なっ……!?」
ルナが、驚愕きょうがくの声を上げる。

「……今のは……」

「キメラの体内で、複数の魂が主導権を争っているのよ」
サラは、モニターから目を離さずに言った。

「岩石の巨人の魂が持つ『投擲とうてき』の軌道計算と、竜の魂が持つ『破壊衝動』のベクトルに、コンマ0.3秒のズレが生じている。
その結果、コントロールが乱れたのよ」

 彼女には、見えているのだ。
この混沌カオスの塊の中に隠された、完璧な法則性が。

 彼女の《万象解析オールシング・アナリシス》は、今やこの空間で起きる全ての事象を、その根源から読み解き、数式化し、そして未来すらも予測し始めていた。

 ズドドドッ!という爆発音は、彼女にとっては解析可能な「周波数」となり。
ゴウッ!というオーラは、「エネルギー流量」として数値化されていく。

 彼女は、この戦場の神となったのだ。

「……見えてきたわ……」
サラは、恍惚こうこつとした表情でつぶやいた。

「この子の、魂の設計図が……。
そして、その設計図に存在する、たった一つの致命的な『欠陥』が……!」

 彼女の指の動きが、さらに加速する。
モニターの中央に、キメラの魂の構造図らしきものが立体的に表示された。
無数の魂が、まるで糸玉のように複雑に絡み合っている。

「……《鋼鉄化アダマンタイト・スキン》と、傷を治すための《再生能力リジェネレーション》……」
彼女は、早口でまくし立てた。

「この二つの能力は、同じ生命エネルギーを源にしている。
つまり、二つの能力を同時に最大出力で使えば……エネルギー供給に、ほんのわずかなラグが生じるはずよ!」

 彼女は、立体図のある一点を指さした。
そこは、全ての魂が繋がる、結び目のような場所だった。

「その、コンマ数秒にも満たない時間だけ!」

「魂の結合が最も不安定になる『核』が、完全に無防備な状態で露出する!」

 彼女は、ついに見つけ出したのだ。
この制御不能の怪物を、完全に沈黙させるための、ただ一つの弱点を。

 サラは、ゆっくりとこちらを振り返った。
その瞳に宿るのは、もはや罪悪感ではない。
自らの才能で、この絶望を覆せるという絶対的な自信の光だった。

「……見つけたわ、ケント」

 彼女は、初めて俺の名前を呼んだ。

「あの子を、この終わりのない苦痛から解放してあげられる……。
たった、一つの方法をね」

 その言葉を聞いた俺は、不敵に笑った。
そして、絶望の淵にいる仲間たちに向かって、高らかに宣言する。

「―――よし、全員聞け!」

「これより、新生《アケボシ》の総力戦を開始する!」

 俺の言葉に、仲間たちの瞳に再び闘志の炎が宿った。
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