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第16章:囚われの叡智とキメラ
第108話:鎮魂の一撃
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俺は、最後の指示を飛ばした。
それは、チェスの定石には決して存在しない、あまりにも無謀で、俺たちだからこそ可能な最後の一手。
「――リラ!
その力を、ルナに!」
「――ええ!」
リラは、俺の意図を完全に理解していた。
彼女は、戦いの中心にいるルナに向かって、その手をかざす。
彼女の《記憶の修復師》の力が、光の糸となってルナの魂と繋がった。
「――ルナッ!」
俺は、魂で叫んだ。
「お前の《絆を力に》で、リラの力を借り受けろ!
そして、奴に叩き込むんだ!」
「――こいつに移植された、全ての生物の『痛み』の記憶を!」
「―――応ッ!」
ルナが、力強く吠える。
彼女の全身を、淡い光のオーラが包み込んだ。
だが、それは今までのどの光とも違う。
どこまでも物悲しく、そして無数の魂の叫びが聞こえてくるかのような、鎮魂の光だった。
彼女は、氷の上を滑るようにして再びキメラの懐へと潜り込む。
そして、その光をまとった爪を、再生しかけている脇腹の傷口へと再び突き立てた。
だが、それは物理的な破壊を目的とした攻撃ではなかった。
「―――ッッ!?」
キメラの動きが、ぴたりと止まった。
その巨体が、あり得ない角度でけいれんする。
その巨大な口から漏れるのは、もはや怒りの雄叫びではない。
狼狽と、混乱、そしてどうしようもないほどの深い悲しみが入り混じった、か細い呻き声だった。
リラの《記憶の修復師》の力は、キメラの魂に移植された無数の生物たちの、断末魔の記憶を呼び覚ましていたのだ。
故郷の森を焼かれた竜の怒り。
仲間を殺された巨人の悲しみ。
そして、人間に狩られた狼の、最後の絶望。
その全ての「痛み」が奔流となって、キメラの混濁した魂を内側から食い破っていく。
その動きは、完全に止まった。
ただ、小刻みに震えているだけ。
そして、俺たちの目にはっきりと見えた。
その胸の中央。
全ての魂が繋がる結び目である『核』が、無防備な状態で青白い光を放っているのを。
「―――そこだ」
俺は、静かに告げた。
その声は、もはや叫び声ではなかった。
この悲しい物語を終わらせるための、冷徹な宣告。
「―――やれ、ルナァァァァァァァァァッッ!!」
ルナは、すでに動いていた。
痛みの記憶を流し込んだ右腕とは逆の、左腕。
その爪が、夜明けの星のようにきらめく。
彼女の、渾身の一撃。
《アケボシ》の、全ての想いを乗せた一撃が。
ズブリッ!
生々しい音と共に、キメラの胸の中心にある『核』を、寸分の狂いもなく正確に貫いた。
バチッ、バチバチバチバチッ!
核から、まばゆい光が迸る。
キメラの巨体は、まるで内側から浄化されていくかのように、ゆっくりと光の粒子へと変わっていく。
「―――…………」
最後に聞こえたのは、叫び声ではなかった。
長い、長い苦痛からようやく解放されたかのような、穏やかなため息。
やがて、光は完全に消え去った。
後に残されたのは、元の姿に戻った静かな研究室と、肩で息をする俺たち《アケボシ》の仲間たちだけだった。
「……はぁ……はぁ……」
荒い呼吸を繰り返しながら、俺はガラス瓶の中にいるサラを見つめた。
彼女は、コンソールの前で静かに泣いていた。
自らが創り出してしまった悲しい怪物の、その最後の魂の解放を見届けて。
俺は、仲間たちに向き直った。
その顔には、疲労と、そして確かな自信が浮かんでいた。
「……勝ったな」
俺の言葉に、仲間たちが力強く頷いてくれる。
これは、俺たち《アケボシ》が初めて成し遂げた、本当の意味でのチームとしての勝利。
そして、この帝国の最も深い闇に、最初の亀裂を入れた瞬間だった。
それは、チェスの定石には決して存在しない、あまりにも無謀で、俺たちだからこそ可能な最後の一手。
「――リラ!
その力を、ルナに!」
「――ええ!」
リラは、俺の意図を完全に理解していた。
彼女は、戦いの中心にいるルナに向かって、その手をかざす。
彼女の《記憶の修復師》の力が、光の糸となってルナの魂と繋がった。
「――ルナッ!」
俺は、魂で叫んだ。
「お前の《絆を力に》で、リラの力を借り受けろ!
そして、奴に叩き込むんだ!」
「――こいつに移植された、全ての生物の『痛み』の記憶を!」
「―――応ッ!」
ルナが、力強く吠える。
彼女の全身を、淡い光のオーラが包み込んだ。
だが、それは今までのどの光とも違う。
どこまでも物悲しく、そして無数の魂の叫びが聞こえてくるかのような、鎮魂の光だった。
彼女は、氷の上を滑るようにして再びキメラの懐へと潜り込む。
そして、その光をまとった爪を、再生しかけている脇腹の傷口へと再び突き立てた。
だが、それは物理的な破壊を目的とした攻撃ではなかった。
「―――ッッ!?」
キメラの動きが、ぴたりと止まった。
その巨体が、あり得ない角度でけいれんする。
その巨大な口から漏れるのは、もはや怒りの雄叫びではない。
狼狽と、混乱、そしてどうしようもないほどの深い悲しみが入り混じった、か細い呻き声だった。
リラの《記憶の修復師》の力は、キメラの魂に移植された無数の生物たちの、断末魔の記憶を呼び覚ましていたのだ。
故郷の森を焼かれた竜の怒り。
仲間を殺された巨人の悲しみ。
そして、人間に狩られた狼の、最後の絶望。
その全ての「痛み」が奔流となって、キメラの混濁した魂を内側から食い破っていく。
その動きは、完全に止まった。
ただ、小刻みに震えているだけ。
そして、俺たちの目にはっきりと見えた。
その胸の中央。
全ての魂が繋がる結び目である『核』が、無防備な状態で青白い光を放っているのを。
「―――そこだ」
俺は、静かに告げた。
その声は、もはや叫び声ではなかった。
この悲しい物語を終わらせるための、冷徹な宣告。
「―――やれ、ルナァァァァァァァァァッッ!!」
ルナは、すでに動いていた。
痛みの記憶を流し込んだ右腕とは逆の、左腕。
その爪が、夜明けの星のようにきらめく。
彼女の、渾身の一撃。
《アケボシ》の、全ての想いを乗せた一撃が。
ズブリッ!
生々しい音と共に、キメラの胸の中心にある『核』を、寸分の狂いもなく正確に貫いた。
バチッ、バチバチバチバチッ!
核から、まばゆい光が迸る。
キメラの巨体は、まるで内側から浄化されていくかのように、ゆっくりと光の粒子へと変わっていく。
「―――…………」
最後に聞こえたのは、叫び声ではなかった。
長い、長い苦痛からようやく解放されたかのような、穏やかなため息。
やがて、光は完全に消え去った。
後に残されたのは、元の姿に戻った静かな研究室と、肩で息をする俺たち《アケボシ》の仲間たちだけだった。
「……はぁ……はぁ……」
荒い呼吸を繰り返しながら、俺はガラス瓶の中にいるサラを見つめた。
彼女は、コンソールの前で静かに泣いていた。
自らが創り出してしまった悲しい怪物の、その最後の魂の解放を見届けて。
俺は、仲間たちに向き直った。
その顔には、疲労と、そして確かな自信が浮かんでいた。
「……勝ったな」
俺の言葉に、仲間たちが力強く頷いてくれる。
これは、俺たち《アケボシ》が初めて成し遂げた、本当の意味でのチームとしての勝利。
そして、この帝国の最も深い闇に、最初の亀裂を入れた瞬間だった。
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