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第16章:囚われの叡智とキメラ
第109話:新たな仲間
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これは、俺たち《アケボシ》が初めて成し遂げた、本当の意味でのチームとしての勝利。
そして、この帝国の最も深い闇に、最初の亀裂を入れた瞬間だった。
後に残されたのは、瓦礫と化した研究室と、肩で息をする俺たちだけ。
キメラという名の悲劇が消え去ったことで、この空間を支配していた狂気の気配は嘘のように晴れていた。
俺は、仲間たちに向き直った。
その顔には、疲労と、そして確かな自信が浮かんでいた。
「……勝ったな」
俺の言葉に、仲間たちが力強く頷いてくれる。
だが、俺たちの視線はすぐに一つの場所へと注がれた。
巨大なガラス瓶の中。
コンソールの前で、一人の少女が静かに泣いていた。
天才研究員、サラ。
自らが創り出してしまった悲しい怪物の、その最後の魂の解放を見届けて。
◇ ◇ ◇
「……サラ」
俺は、ゆっくりとガラスの壁に近づいた。
彼女は、俺の呼びかけにビクリと肩を震わせ、その涙に濡れた顔を上げた。
その瞳に宿るのは、後悔と、罪悪感。
そして、どうしようもないほどの深い悲しみだった。
「アタシが……」
か細い声が、彼女の唇から漏れる。
「アタシが、あの子を創り出したのに……。
アタシが、あの子を殺した……!」
「違う」
俺は、静かに首を横に振った。
「あんたは、あの子を殺したんじゃない。
救ったんだ。
終わりのない苦しみから、解放してやったんだよ」
俺の言葉に、彼女は何も答えなかった。
ただ、その瞳から大粒の涙がとめどなく溢れ出すだけ。
「あんたがいなければ、俺たちは勝てなかった。
あんたのその力が、俺たちに道を示してくれたんだ」
俺は、ガラスの壁にそっと手を触れた。
「ありがとう、サラ。
あんたは、俺たちの恩人だ」
その、心からの感謝の言葉。
それは、彼女が今まで一度もかけられたことのなかった言葉だったのかもしれない。
リュウガは、彼女の才能をただ利用しただけ。
誰も、彼女の成し遂げたことそのものを、認めてはくれなかった。
「……う……ああ……」
彼女は、声を上げて泣き始めた。
今まで押し殺してきた、全ての感情が奔流となって彼女の魂を洗い流していく。
「……ケント」
エリアーナが、俺の隣に立った。
その瞳は、サラを深い同情の色で見つめている。
「彼女もまた、リュウガの犠牲者なのですね」
「ああ、そうだ」
俺たちは、彼女が泣き止むまでただ静かに待っていた。
やがて、しゃくり上げるような嗚咽が少しずつ収まってきた頃、俺はもう一度彼女に語りかけた。
「ここを出よう、サラ。
こんな場所は、もうお前のいるべき場所じゃない」
俺は、彼女に手を差し伸べようとして、ガラスの壁に阻まれる。
そうだ、この扉は内側からしか開かない。
「俺たちと、一緒に来てくれないか」
俺の言葉に、サラは驚いたように顔を上げた。
「……でも、アタシは……帝国に、罪を……」
「俺たちも同じだ」
俺は、不敵に笑った。
「俺たちは、帝国に追われる反逆者だ。
今さら、罪状が一つ増えたところで何も変わりゃしない」
「俺たちには、あんたの力が必要なんだ。
俺が『頭脳』なら、あんたは『第二の頭脳』だ。
いや、あんたのその《万象解析》の力は、俺の《物語の観測者》を遥かに凌ぐ、本当の『頭脳』そのものだ」
「あんたのその才能は、破壊のためじゃない。
未来を創るための力だ。
俺たちと一緒に、本当の未来を創らないか?」
俺の言葉に、サラは何も答えなかった。
ただ、その涙に濡れた瞳で俺たちの顔を一人、また一人と見つめている。
ルナが、エルゴが、ジンが、リラが、そしてエリアーナが。
誰もが、彼女に温かい眼差しを向けていた。
そこには、侮蔑も同情もない。
ただ、新たな仲間を迎え入れようとする、純粋な光だけがあった。
やがて。
彼女は、震える手でコンソールを操作した。
カシュン、と。
軽い機械音と共に、俺たちを隔てていたガラスの扉が、静かに開かれた。
一人の天才が、長い、長い孤独の牢獄から、自らの意志で一歩踏み出した瞬間だった。
そして、この帝国の最も深い闇に、最初の亀裂を入れた瞬間だった。
後に残されたのは、瓦礫と化した研究室と、肩で息をする俺たちだけ。
キメラという名の悲劇が消え去ったことで、この空間を支配していた狂気の気配は嘘のように晴れていた。
俺は、仲間たちに向き直った。
その顔には、疲労と、そして確かな自信が浮かんでいた。
「……勝ったな」
俺の言葉に、仲間たちが力強く頷いてくれる。
だが、俺たちの視線はすぐに一つの場所へと注がれた。
巨大なガラス瓶の中。
コンソールの前で、一人の少女が静かに泣いていた。
天才研究員、サラ。
自らが創り出してしまった悲しい怪物の、その最後の魂の解放を見届けて。
◇ ◇ ◇
「……サラ」
俺は、ゆっくりとガラスの壁に近づいた。
彼女は、俺の呼びかけにビクリと肩を震わせ、その涙に濡れた顔を上げた。
その瞳に宿るのは、後悔と、罪悪感。
そして、どうしようもないほどの深い悲しみだった。
「アタシが……」
か細い声が、彼女の唇から漏れる。
「アタシが、あの子を創り出したのに……。
アタシが、あの子を殺した……!」
「違う」
俺は、静かに首を横に振った。
「あんたは、あの子を殺したんじゃない。
救ったんだ。
終わりのない苦しみから、解放してやったんだよ」
俺の言葉に、彼女は何も答えなかった。
ただ、その瞳から大粒の涙がとめどなく溢れ出すだけ。
「あんたがいなければ、俺たちは勝てなかった。
あんたのその力が、俺たちに道を示してくれたんだ」
俺は、ガラスの壁にそっと手を触れた。
「ありがとう、サラ。
あんたは、俺たちの恩人だ」
その、心からの感謝の言葉。
それは、彼女が今まで一度もかけられたことのなかった言葉だったのかもしれない。
リュウガは、彼女の才能をただ利用しただけ。
誰も、彼女の成し遂げたことそのものを、認めてはくれなかった。
「……う……ああ……」
彼女は、声を上げて泣き始めた。
今まで押し殺してきた、全ての感情が奔流となって彼女の魂を洗い流していく。
「……ケント」
エリアーナが、俺の隣に立った。
その瞳は、サラを深い同情の色で見つめている。
「彼女もまた、リュウガの犠牲者なのですね」
「ああ、そうだ」
俺たちは、彼女が泣き止むまでただ静かに待っていた。
やがて、しゃくり上げるような嗚咽が少しずつ収まってきた頃、俺はもう一度彼女に語りかけた。
「ここを出よう、サラ。
こんな場所は、もうお前のいるべき場所じゃない」
俺は、彼女に手を差し伸べようとして、ガラスの壁に阻まれる。
そうだ、この扉は内側からしか開かない。
「俺たちと、一緒に来てくれないか」
俺の言葉に、サラは驚いたように顔を上げた。
「……でも、アタシは……帝国に、罪を……」
「俺たちも同じだ」
俺は、不敵に笑った。
「俺たちは、帝国に追われる反逆者だ。
今さら、罪状が一つ増えたところで何も変わりゃしない」
「俺たちには、あんたの力が必要なんだ。
俺が『頭脳』なら、あんたは『第二の頭脳』だ。
いや、あんたのその《万象解析》の力は、俺の《物語の観測者》を遥かに凌ぐ、本当の『頭脳』そのものだ」
「あんたのその才能は、破壊のためじゃない。
未来を創るための力だ。
俺たちと一緒に、本当の未来を創らないか?」
俺の言葉に、サラは何も答えなかった。
ただ、その涙に濡れた瞳で俺たちの顔を一人、また一人と見つめている。
ルナが、エルゴが、ジンが、リラが、そしてエリアーナが。
誰もが、彼女に温かい眼差しを向けていた。
そこには、侮蔑も同情もない。
ただ、新たな仲間を迎え入れようとする、純粋な光だけがあった。
やがて。
彼女は、震える手でコンソールを操作した。
カシュン、と。
軽い機械音と共に、俺たちを隔てていたガラスの扉が、静かに開かれた。
一人の天才が、長い、長い孤独の牢獄から、自らの意志で一歩踏み出した瞬間だった。
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