異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第16章:囚われの叡智とキメラ

第110話:二人の天賦(ギフト)

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 こうして、俺たちのギルド《アケボシ》に七人目の仲間が加わった。

 最高の「頭脳」であり、この世界のあらゆる法則を読み解く天才研究員、サラが。

 だが、俺たちが新たな仲間との出会いを喜ぶ時間は、長くは続かなかった。

 俺たちの視線は、すぐに研究室の隅で倒れたままの、もう一人の仲間の元へと注がれる。

「……ノクス……!」
リラが、悲痛な声を上げた。

 ジンに背負われたノクスは、まだ意識を取り戻さない。
その呼吸は弱々しく、魂の光は今にも消えそうだ。

「リラ、もう休んで」

 エリアーナが、リラの肩にそっと手を置いた。

「あなたの力も、もう限界のはずよ」

 リラは、この数日間、寝る間も惜しんで《記憶の修復師メモリー・レストアラー》の力でノクスの魂を繋ぎ止めてきた。
その顔には、深い疲労の色が浮かんでいる。

「でも……アタシが力を止めれば、ノクスは……!」

「……見せてもらっても、いいかしら」
その時、静かな声が響いた。

 声の主は、サラだった。

 彼女は、おずおずとノクスのそばに近づくと、その大きな眼鏡の奥の瞳で、彼の状態をじっと見つめ始めた。

 その瞳は、もはやただの少女のものではない。
この世界のあらゆる事象を、数式として理解する天才科学者の目。

「……ひどい……」
彼女は、か細い声でつぶやいた。

「魂の構造そのものが、斥力せきりょくを持つエネルギーによって内側から破壊されている……。
なんて、非効率で野蛮な力なの……」

 彼女の目には、ザイムの天賦ギフトが、ただの破壊エネルギーの法則として見えているのだ。

 サラは、意を決したように俺に向き直った。

「……ケント。
アタシの力、使ってもいい……?」
その問いに、俺は力強く頷いた。

「ああ、頼む。
あんたは、もう俺たちの仲間だ」

 その言葉に、サラは少しだけはにかむように笑った。
そして、彼女はノクスに向き直ると、静かに目を閉じる。

万象解析オールシング・アナリシス》――発動!

 俺の《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》とは違う。
彼女の魂から放たれるのは、どこまでも理知的で、冷徹な分析の光。

 彼女の脳内に、ノクスの魂の状態が膨大なデータとなって流れ込んでいく。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
対象名:ノクス
状態:魂の構造的損傷(損傷率78%)、エネルギー循環の停滞
​魂の構造解析:
【損傷箇所】:ザイムの天賦ギフトによるダメージの残滓が、魂の核に寄生しエネルギー吸収を阻害。
【リラの天賦ギフト効果】:リラの《記憶の修復師メモリー・レストアラー》のエネルギーが損傷箇所を修復しようとするが、残滓さんしの持つ斥力せきりょくによって弾かれ、エネルギー効率が著しく低下している。
【エリアーナの天賦ギフト効果】:エリアーナの《生命の揺り籠クレイドル・オブ・ライフ》のエネルギーが肉体を維持しているが、魂の核まで届いていない。
​最適解の導出:
【結論】:二つの天賦ギフトの同時行使による相乗効果が必要。
【実行手順】:エリアーナの力で魂全体のエネルギー循環を活性化させ、リラの力が浸透するための「道」を作る。その道を通して、リラの力が損傷の核となっている残滓ざんしを直接中和し、修復する。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

「…………」

 サラは、静かに目を開けた。
その瞳には、確かな勝算の光が宿っている。

「……分かったわ。
彼を、救う方法」

 彼女は、リラとエリアーナに向き直った。

「あなたたち二人の力が必要よ。
それも、同時に」

「同時に……ですって?」
エリアーナが、怪訝けげんな声を上げる。

「ええ」
サラは、力強く頷いた。

「エリアーナの《生命の揺り籠クレイドル・オブ・ライフ》の力で、彼の魂全体のエネルギーの流れを活性化させるの。

 そうすれば、今までリラの力を弾いていた壁に、ほんの一瞬だけ道ができるはず。
その道を、リラの《記憶の修復師メモリー・レストアラー》の力が通って、傷の根源を直接叩くのよ」

 その、あまりにも的確で論理的な説明に、俺たちは息を呑んだ。

 彼女は、天賦ギフトという名の奇跡を、科学の領域へと引きずり下ろしたのだ。
これこそが、俺たちの新しい「頭脳」の力。

「……やってみるわ」
リラが、決意を固めたように言った。
エリアーナもまた、力強く頷く。

 二人は、ノクスの両脇に静かに膝をついた。
エリアーナが、リュートを奏で始める。
若草色の、生命の光がノクスの体を包み込む。

「――サラ、指示を」
俺は、静かに言った。

 この複雑なオペの指揮官は、俺じゃない。
彼女だ。

「ええ」
サラは、頷いた。

「エリアーナ、もう少し魂の周波数を上げて!
彼の魂の鼓動と、あなたの歌を同調させるの!」

 エリアーナの奏でるメロディが、その音色をわずかに変える。
ノクスの魂が、その歌声に呼応するように微かに脈打った。

「――リラ、今よ!
そのエネルギーの流れに乗せて、あなたの力を注ぎ込むの!」

 リラが、ノクスの額にそっと手を置いた。
彼女の《記憶の修復師メモリー・レストアラー》の力が、エリアーナが作った光の道を通って、寸分の狂いもなくノクスの魂の核へと流れ込んでいく。

 その瞬間。
二つの光が混ざり合い、今まで見たこともないような、エメラルドグリーンに輝く温かい光が生まれた。

 光は、ノクスの魂に寄生していたどす黒い残滓を、まるで陽光が朝霧を晴らすかのように浄化していく。

「……う……」
ノクスの唇から、初めてうめき声が漏れた。
その指が、ぴくりと動く。

 そして、ゆっくりと。
彼のまぶたが、開かれた。

「……ここは……」
かすれた声が、静まり返った研究室に響き渡った。

「ノクスッ!」
リラが、彼の胸に飛び込んだ。

その瞳からは、歓喜の涙がとめどなくあふれ出している。

 俺たちは、勝ったのだ。
帝国最強の刺客団に、そして何より、死という絶対的な運命に。

◇ ◇ ◇

 数時間後。
俺たちは、秘密研究施設を後にして、再び旅路についていた。

 意識を取り戻したノクスは、まだ衰弱してはいるものの、その足で確かに立っている。

 彼は、俺たちの前に静かに膝をつくと、深く、深く頭を下げた。

「……この命、あなた方に救われた」
その声は、まだ弱々しかったが、確かな意志の力が宿っていた。

「この命、これよりは《アケボシ》のために。
あなた方の、物語のために使わせてほしい」

 俺は、彼の前に膝をつくと、その視線を合わせた。

「ようこそ、《アケボシ》へ。
お前も、今日から俺たちの仲間だ」

 こうして、俺たちのギルドに八人目の仲間が加わった。
無口だが、その魂に熱い忠誠を誓う暗殺者、ノクスが。

「ノクス、お前とジンは、これから俺たちの『目』と『耳』になってくれ」
俺は、新たな役割を告げた。

「お前たちの力を合わせれば、帝国軍のどんな動きも事前に察知できるはずだ。
最高の偵察部隊として、俺たちを勝利に導いてくれ」

「――御意」
ノクスとジンが、同時に頷く。
二つの影が、一つになった瞬間だった。

 俺たちのチームは、今、完成した。
最高の「頭脳」と最強の「剣」。
頼れる「道標」と全てを支える「影」。
失われた物語を「修復」する者と、命を「育む」歌声。
そして、その全てを率いる、俺。

 俺は、仲間たちの顔を見渡した。
その誰もが、傷つき、何かを失い、それでも前を向いている。

「――行くぞ」
俺は、宣言した。

「俺たちの、本当の戦場へ」

 俺たちの次なる目的地は、帝国の国境。
リュウガの支配の、最前線だ。
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