異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第17章:解放戦線と偽りの英雄

第111話:国境の街

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 俺たちの次なる目的地は、帝国の国境。
リュウガが支配する、偽りの理想郷の最前線。
俺たちの本当の戦場へと、ギルド《アケボシ》の歯車は今、確かに回り始めた。

◇ ◇ ◇

 秘密研究施設を後にしてから、数日が過ぎた。
俺たちは、神聖ロゴス帝国の領土を東へと進んでいた。
目指すは、自由都市連合との境界に位置する国境の街。
リュウガの支配体制を内側から切り崩すための、最初の足掛かりとなる場所だ。

 旅の空気は、以前とは比べ物にならないほど穏やかだった。
荷馬車の荷台では、仲間たちの静かな、だが温かい会話が交わされている。

「……すごい……」

 リラが、感嘆の声を漏らした。
彼女の視線の先では、エリアーナがその手に持つリュートを奏でている。

 だが、そのリュートから響き渡るのは、音楽ではない。
若草色の、生命の光そのものだ。

 エリアーナの《生命の揺り籠クレイドル・オブ・ライフ》の力が、意識のないノクスの体を優しく包み込み、その砕け散った魂の欠片かけらを少しずつ、だが確かに繋ぎ合わせていく。

「あなたの《記憶の修復師メモリー・レストアラー》の力も、素晴らしいわ」
エリアーナが、リラに微笑みかける。

「あなたが彼の魂を繋ぎ止めてくれていなければ、アタシの歌も届かなかった」

 二人の癒し手の間には、もう言葉はいらなかった。
互いの力を尊重し、一つの命を救うという共通の目的のために、その魂は静かに共鳴している。

 俺たちのチームは、ただの戦闘集団ではない。
互いの傷を癒し、互いの物語を支え合う、本当の意味での「仲間」へと変わりつつあったのだ。

 そんな穏やかな旅路の途中、俺は一つの提案をした。

「――少し、休憩しよう」
森の中に開けた場所を見つけ、俺は荷馬車を止めた。

「次の戦いに備えて、俺たちは互いの力を、そして何より俺たちの『連携』の可能性を、もっと深く知る必要がある」

 俺の言葉に、仲間たちの顔が引き締まる。
これは、ただの休息ではない。
新生《アケボシ》の、最初の合同訓練だ。

◇ ◇ ◇

「まずは、ルナとエリアーナだ」
俺は、二人の女性陣に声をかけた。

「ルナ、お前の《絆を力にソウル・リンク》で、エリアーナの力を借りてみろ」

「アタシが、エリアーナの?」
ルナは、少しだけ戸惑ったような顔をした。

 彼女の力は、あくまで戦闘のためのもの。
癒しの力と、どう繋がれというのか。

 だが、彼女は俺の言葉を信じてエリアーナの手にそっと触れた。
パチッ、と絆の光が弾け、ルナの全身を若草色のオーラが包み込む。

「……なんだか、力がみなぎってくるみてえだ」

「その爪で、あの枯れ木を斬ってみろ」
俺は、近くにあった枯れ果てた大木を指さした。

 ルナは、半信半疑のままその大木に向かって駆け出す。
そして、生命のオーラをまとった爪を、鋭く振り抜いた。

 ザシュッ!
乾いた音が響くはずだった。
だが、俺たちの目の前で信じられない光景が広がる。

 ルナの爪が触れた瞬間、枯れ木の幹から新しい若葉が芽吹き、その傷口を塞ぐようにみるみるうちに成長していくのだ。

「……なっ!?」
ルナが、一番驚いていた。

「……アタシの爪が……
木を、治した……?」

「すごいわ……」
エリアーナも、感嘆の声を漏らす。

「アタシの『命を育む』力が、あなたの『切り裂く』力と合わさって、『再生を促す』力へと変わったのね……!」

 そうだ。
これこそが、俺たち《アケボシ》の戦い方。
個々の天賦ギフトをただ足し算するだけじゃない。
物語と物語を掛け合わせることで、全く新しい可能性を生み出すのだ。

「次は、ジンとノクスだ」
俺は、意識を取り戻し、まだ少し蒼白そうはくだがその足で立つ暗殺者へと視線を移した。

「お前たち二人は、俺たちの『目』と『耳』だ。
その連携を見せてくれ」

「御意」
二つの影が、同時にうなずく。

 ジンが、音もなく森の闇へと溶けた。
ノクスもまた、近くの木の影にその身を沈める。

 次の瞬間。
森のあちこちで、二つの影が神出鬼没しんしゅつきぼつに現れては、消えた。

 ジンが作り出すわずかな物音や気配の乱れを囮にして、ノクスが《影踏み遊戯シャドウ・タグ》で影から影へと瞬時に跳躍していく。
もはや、どちらが本体でどちらが陽動か分からない。

 数分後。
俺たちの背後に、二つの影が音もなく現れた。
その手には、俺が目標として定めていた森の奥に咲く珍しい花が、確かに握られていた。

「……見事だな」
俺は、素直な賞賛の言葉を送った。

「お前たち二人なら、帝国軍のどんな包囲網も突破できるだろう」

 最後に、俺は残った二人へと向き直った。
エルゴと、サラだ。

「俺たちは、戦闘だけが能じゃない」
俺は、荷馬車の壊れかけた車輪を指さした。

「サラ、あんたの力で、この車輪のどこが壊れているのか、その設計上の欠陥を『解析』してくれ」

「……分かったわ」
サラは、少しだけはにかむようにうなずくと、その大きな眼鏡の奥の瞳で車輪をじっと見つめ始めた。

 彼女の脳内に、車輪の設計図が立体的に展開されていくのが、俺の魂には見えた。

 数秒後。

「……ここよ」
彼女は、車軸のわずかな歪みを指さした。

「ここの金属疲労が、全体のバランスを崩している原因。
あと数時間も走れば、完全に壊れていたはずよ」

「――リラ」
俺は、もう一人の仲間を呼んだ。

「今度は、あんたの番だ」
リラは、こくりとうなずくと、サラが示した車軸の歪みにそっと手を触れた。

記憶の修復師メモリー・レストアラー》――発動。

 彼女の力は、人の記憶を癒すだけではない。
物体に残された、「本来あるべきだった姿」の記憶すらも読み解き、修復することができるのだ。

ギギ、と。
わずかな金属のきしむ音と共に、歪んでいた車軸がまるで生き物のようにその形を取り戻していく。
ほんの数分で、壊れかけていた車輪は新品同様の輝きを取り戻していた。

「…………」
俺たちは、ただ呆然ぼうぜんと立ち尽くしていた。
俺たちのチームは、今やどんな困難も乗り越えられる最強の集団へと進化しつつあった。
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