111 / 150
第17章:解放戦線と偽りの英雄
第111話:国境の街
しおりを挟む
俺たちの次なる目的地は、帝国の国境。
リュウガが支配する、偽りの理想郷の最前線。
俺たちの本当の戦場へと、ギルド《アケボシ》の歯車は今、確かに回り始めた。
◇ ◇ ◇
秘密研究施設を後にしてから、数日が過ぎた。
俺たちは、神聖ロゴス帝国の領土を東へと進んでいた。
目指すは、自由都市連合との境界に位置する国境の街。
リュウガの支配体制を内側から切り崩すための、最初の足掛かりとなる場所だ。
旅の空気は、以前とは比べ物にならないほど穏やかだった。
荷馬車の荷台では、仲間たちの静かな、だが温かい会話が交わされている。
「……すごい……」
リラが、感嘆の声を漏らした。
彼女の視線の先では、エリアーナがその手に持つリュートを奏でている。
だが、そのリュートから響き渡るのは、音楽ではない。
若草色の、生命の光そのものだ。
エリアーナの《生命の揺り籠》の力が、意識のないノクスの体を優しく包み込み、その砕け散った魂の欠片を少しずつ、だが確かに繋ぎ合わせていく。
「あなたの《記憶の修復師》の力も、素晴らしいわ」
エリアーナが、リラに微笑みかける。
「あなたが彼の魂を繋ぎ止めてくれていなければ、アタシの歌も届かなかった」
二人の癒し手の間には、もう言葉はいらなかった。
互いの力を尊重し、一つの命を救うという共通の目的のために、その魂は静かに共鳴している。
俺たちのチームは、ただの戦闘集団ではない。
互いの傷を癒し、互いの物語を支え合う、本当の意味での「仲間」へと変わりつつあったのだ。
そんな穏やかな旅路の途中、俺は一つの提案をした。
「――少し、休憩しよう」
森の中に開けた場所を見つけ、俺は荷馬車を止めた。
「次の戦いに備えて、俺たちは互いの力を、そして何より俺たちの『連携』の可能性を、もっと深く知る必要がある」
俺の言葉に、仲間たちの顔が引き締まる。
これは、ただの休息ではない。
新生《アケボシ》の、最初の合同訓練だ。
◇ ◇ ◇
「まずは、ルナとエリアーナだ」
俺は、二人の女性陣に声をかけた。
「ルナ、お前の《絆を力に》で、エリアーナの力を借りてみろ」
「アタシが、エリアーナの?」
ルナは、少しだけ戸惑ったような顔をした。
彼女の力は、あくまで戦闘のためのもの。
癒しの力と、どう繋がれというのか。
だが、彼女は俺の言葉を信じてエリアーナの手にそっと触れた。
パチッ、と絆の光が弾け、ルナの全身を若草色のオーラが包み込む。
「……なんだか、力がみなぎってくるみてえだ」
「その爪で、あの枯れ木を斬ってみろ」
俺は、近くにあった枯れ果てた大木を指さした。
ルナは、半信半疑のままその大木に向かって駆け出す。
そして、生命のオーラをまとった爪を、鋭く振り抜いた。
ザシュッ!
乾いた音が響くはずだった。
だが、俺たちの目の前で信じられない光景が広がる。
ルナの爪が触れた瞬間、枯れ木の幹から新しい若葉が芽吹き、その傷口を塞ぐようにみるみるうちに成長していくのだ。
「……なっ!?」
ルナが、一番驚いていた。
「……アタシの爪が……
木を、治した……?」
「すごいわ……」
エリアーナも、感嘆の声を漏らす。
「アタシの『命を育む』力が、あなたの『切り裂く』力と合わさって、『再生を促す』力へと変わったのね……!」
そうだ。
これこそが、俺たち《アケボシ》の戦い方。
個々の天賦をただ足し算するだけじゃない。
物語と物語を掛け合わせることで、全く新しい可能性を生み出すのだ。
「次は、ジンとノクスだ」
俺は、意識を取り戻し、まだ少し蒼白だがその足で立つ暗殺者へと視線を移した。
「お前たち二人は、俺たちの『目』と『耳』だ。
その連携を見せてくれ」
「御意」
二つの影が、同時に頷く。
ジンが、音もなく森の闇へと溶けた。
ノクスもまた、近くの木の影にその身を沈める。
次の瞬間。
森のあちこちで、二つの影が神出鬼没に現れては、消えた。
ジンが作り出すわずかな物音や気配の乱れを囮にして、ノクスが《影踏み遊戯》で影から影へと瞬時に跳躍していく。
もはや、どちらが本体でどちらが陽動か分からない。
数分後。
俺たちの背後に、二つの影が音もなく現れた。
その手には、俺が目標として定めていた森の奥に咲く珍しい花が、確かに握られていた。
「……見事だな」
俺は、素直な賞賛の言葉を送った。
「お前たち二人なら、帝国軍のどんな包囲網も突破できるだろう」
最後に、俺は残った二人へと向き直った。
エルゴと、サラだ。
「俺たちは、戦闘だけが能じゃない」
俺は、荷馬車の壊れかけた車輪を指さした。
「サラ、あんたの力で、この車輪のどこが壊れているのか、その設計上の欠陥を『解析』してくれ」
「……分かったわ」
サラは、少しだけはにかむように頷くと、その大きな眼鏡の奥の瞳で車輪をじっと見つめ始めた。
彼女の脳内に、車輪の設計図が立体的に展開されていくのが、俺の魂には見えた。
数秒後。
「……ここよ」
彼女は、車軸のわずかな歪みを指さした。
「ここの金属疲労が、全体のバランスを崩している原因。
あと数時間も走れば、完全に壊れていたはずよ」
「――リラ」
俺は、もう一人の仲間を呼んだ。
「今度は、あんたの番だ」
リラは、こくりと頷くと、サラが示した車軸の歪みにそっと手を触れた。
《記憶の修復師》――発動。
彼女の力は、人の記憶を癒すだけではない。
物体に残された、「本来あるべきだった姿」の記憶すらも読み解き、修復することができるのだ。
ギギ、と。
わずかな金属のきしむ音と共に、歪んでいた車軸がまるで生き物のようにその形を取り戻していく。
ほんの数分で、壊れかけていた車輪は新品同様の輝きを取り戻していた。
「…………」
俺たちは、ただ呆然と立ち尽くしていた。
俺たちのチームは、今やどんな困難も乗り越えられる最強の集団へと進化しつつあった。
リュウガが支配する、偽りの理想郷の最前線。
俺たちの本当の戦場へと、ギルド《アケボシ》の歯車は今、確かに回り始めた。
◇ ◇ ◇
秘密研究施設を後にしてから、数日が過ぎた。
俺たちは、神聖ロゴス帝国の領土を東へと進んでいた。
目指すは、自由都市連合との境界に位置する国境の街。
リュウガの支配体制を内側から切り崩すための、最初の足掛かりとなる場所だ。
旅の空気は、以前とは比べ物にならないほど穏やかだった。
荷馬車の荷台では、仲間たちの静かな、だが温かい会話が交わされている。
「……すごい……」
リラが、感嘆の声を漏らした。
彼女の視線の先では、エリアーナがその手に持つリュートを奏でている。
だが、そのリュートから響き渡るのは、音楽ではない。
若草色の、生命の光そのものだ。
エリアーナの《生命の揺り籠》の力が、意識のないノクスの体を優しく包み込み、その砕け散った魂の欠片を少しずつ、だが確かに繋ぎ合わせていく。
「あなたの《記憶の修復師》の力も、素晴らしいわ」
エリアーナが、リラに微笑みかける。
「あなたが彼の魂を繋ぎ止めてくれていなければ、アタシの歌も届かなかった」
二人の癒し手の間には、もう言葉はいらなかった。
互いの力を尊重し、一つの命を救うという共通の目的のために、その魂は静かに共鳴している。
俺たちのチームは、ただの戦闘集団ではない。
互いの傷を癒し、互いの物語を支え合う、本当の意味での「仲間」へと変わりつつあったのだ。
そんな穏やかな旅路の途中、俺は一つの提案をした。
「――少し、休憩しよう」
森の中に開けた場所を見つけ、俺は荷馬車を止めた。
「次の戦いに備えて、俺たちは互いの力を、そして何より俺たちの『連携』の可能性を、もっと深く知る必要がある」
俺の言葉に、仲間たちの顔が引き締まる。
これは、ただの休息ではない。
新生《アケボシ》の、最初の合同訓練だ。
◇ ◇ ◇
「まずは、ルナとエリアーナだ」
俺は、二人の女性陣に声をかけた。
「ルナ、お前の《絆を力に》で、エリアーナの力を借りてみろ」
「アタシが、エリアーナの?」
ルナは、少しだけ戸惑ったような顔をした。
彼女の力は、あくまで戦闘のためのもの。
癒しの力と、どう繋がれというのか。
だが、彼女は俺の言葉を信じてエリアーナの手にそっと触れた。
パチッ、と絆の光が弾け、ルナの全身を若草色のオーラが包み込む。
「……なんだか、力がみなぎってくるみてえだ」
「その爪で、あの枯れ木を斬ってみろ」
俺は、近くにあった枯れ果てた大木を指さした。
ルナは、半信半疑のままその大木に向かって駆け出す。
そして、生命のオーラをまとった爪を、鋭く振り抜いた。
ザシュッ!
乾いた音が響くはずだった。
だが、俺たちの目の前で信じられない光景が広がる。
ルナの爪が触れた瞬間、枯れ木の幹から新しい若葉が芽吹き、その傷口を塞ぐようにみるみるうちに成長していくのだ。
「……なっ!?」
ルナが、一番驚いていた。
「……アタシの爪が……
木を、治した……?」
「すごいわ……」
エリアーナも、感嘆の声を漏らす。
「アタシの『命を育む』力が、あなたの『切り裂く』力と合わさって、『再生を促す』力へと変わったのね……!」
そうだ。
これこそが、俺たち《アケボシ》の戦い方。
個々の天賦をただ足し算するだけじゃない。
物語と物語を掛け合わせることで、全く新しい可能性を生み出すのだ。
「次は、ジンとノクスだ」
俺は、意識を取り戻し、まだ少し蒼白だがその足で立つ暗殺者へと視線を移した。
「お前たち二人は、俺たちの『目』と『耳』だ。
その連携を見せてくれ」
「御意」
二つの影が、同時に頷く。
ジンが、音もなく森の闇へと溶けた。
ノクスもまた、近くの木の影にその身を沈める。
次の瞬間。
森のあちこちで、二つの影が神出鬼没に現れては、消えた。
ジンが作り出すわずかな物音や気配の乱れを囮にして、ノクスが《影踏み遊戯》で影から影へと瞬時に跳躍していく。
もはや、どちらが本体でどちらが陽動か分からない。
数分後。
俺たちの背後に、二つの影が音もなく現れた。
その手には、俺が目標として定めていた森の奥に咲く珍しい花が、確かに握られていた。
「……見事だな」
俺は、素直な賞賛の言葉を送った。
「お前たち二人なら、帝国軍のどんな包囲網も突破できるだろう」
最後に、俺は残った二人へと向き直った。
エルゴと、サラだ。
「俺たちは、戦闘だけが能じゃない」
俺は、荷馬車の壊れかけた車輪を指さした。
「サラ、あんたの力で、この車輪のどこが壊れているのか、その設計上の欠陥を『解析』してくれ」
「……分かったわ」
サラは、少しだけはにかむように頷くと、その大きな眼鏡の奥の瞳で車輪をじっと見つめ始めた。
彼女の脳内に、車輪の設計図が立体的に展開されていくのが、俺の魂には見えた。
数秒後。
「……ここよ」
彼女は、車軸のわずかな歪みを指さした。
「ここの金属疲労が、全体のバランスを崩している原因。
あと数時間も走れば、完全に壊れていたはずよ」
「――リラ」
俺は、もう一人の仲間を呼んだ。
「今度は、あんたの番だ」
リラは、こくりと頷くと、サラが示した車軸の歪みにそっと手を触れた。
《記憶の修復師》――発動。
彼女の力は、人の記憶を癒すだけではない。
物体に残された、「本来あるべきだった姿」の記憶すらも読み解き、修復することができるのだ。
ギギ、と。
わずかな金属のきしむ音と共に、歪んでいた車軸がまるで生き物のようにその形を取り戻していく。
ほんの数分で、壊れかけていた車輪は新品同様の輝きを取り戻していた。
「…………」
俺たちは、ただ呆然と立ち尽くしていた。
俺たちのチームは、今やどんな困難も乗り越えられる最強の集団へと進化しつつあった。
10
あなたにおすすめの小説
魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです
忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
「元」面倒くさがりの異世界無双
空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。
「カイ=マールス」と。
よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
異世界おっさん一人飯
SILVER・BACK(アマゴリオ)
ファンタジー
サラリーマンのおっさんが事故に遭って異世界転生。
秀でた才能もチートもないが、出世欲もなく虚栄心もない。安全第一で冒険者として過ごし生き残る日々。
それは前世からの趣味である美味しいご飯を異世界でも食べ歩くためだった。
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
家族と魔法と異世界ライフ!〜お父さん、転生したら無職だったよ〜
三瀬夕
ファンタジー
「俺は加藤陽介、36歳。普通のサラリーマンだ。日本のある町で、家族5人、慎ましく暮らしている。どこにでいる一般家庭…のはずだったんだけど……ある朝、玄関を開けたら、そこは異世界だった。一体、何が起きたんだ?転生?転移?てか、タイトル何これ?誰が考えたの?」
「えー、可愛いし、いいじゃん!ぴったりじゃない?私は楽しいし」
「あなたはね、魔導師だもん。異世界満喫できるじゃん。俺の職業が何か言える?」
「………無職」
「サブタイトルで傷、えぐらないでよ」
「だって、哀愁すごかったから。それに、私のことだけだと、寂しいし…」
「あれ?理沙が考えてくれたの?」
「そうだよ、一生懸命考えました」
「ありがとな……気持ちは嬉しいんだけど、タイトルで俺のキャリア終わっちゃってる気がするんだよな」
「陽介の分まで、私が頑張るね」
「いや、絶対、“職業”を手に入れてみせる」
突然、異世界に放り込まれた加藤家。
これから先、一体、何が待ち受けているのか。
無職になっちゃったお父さんとその家族が織りなす、異世界コメディー?
愛する妻、まだ幼い子どもたち…みんなの笑顔を守れるのは俺しかいない。
──家族は俺が、守る!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる