異世界転生と『天賦（ギフト）』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる！

第17章：解放戦線と偽りの英雄

第117話：嵐の前の静けさ

俺たちの最初の勝利は、次なる絶望の始まりを告げる鐘の音でもあった。

だが、俺たちはもう何も恐れない。
俺たちの背後には、この解放区で生きる人々の、温かい物語があるのだから。

◇　◇　◇

国境の街に、本当の夜明けが訪れてから数日が過ぎた。
リュウガの精神支配という名の分厚い雲が晴れた街は、まるで長い冬眠から目覚めたかのように、生命の息吹を取り戻していた。

市場には、商人たちの威勢のいい声が響き渡る。
子供たちの笑い声が、石畳の路地を駆け抜けていく。
人々は、顔を合わせれば笑顔で言葉を交わし、助け合い、この街の未来について熱く語り合っていた。

俺たち《アケボシ》は、その光景の中心にいた。
もはや、ただの反逆者ではない。
この街の、希望の象徴として。

「――ケント、この街の古い水路の設計図、解析が終わったわ」

俺たちの新たな拠点となった庁舎の一室で、サラが分厚い羊皮紙の束をテーブルに広げた。

「いくつかの水門の構造を改善すれば、少ない労力でより多くの農地に水を供給できる。
これで、冬が来る前の食料備蓄も万全よ」

　彼女の《万象解析オールシング・アナリシス》は、戦闘だけでなく街の復興においても、まさに「頭脳」として機能していた。

「ルナは、元帝国兵たちをまとめて自警団の訓練か。
ずいぶんと様になってきたな」

　窓の外では、ルナが元兵士たちに獣としての戦い方を教えている。
彼女の指導は厳しくも的確で、兵士たちの顔には帝国の駒だった頃にはなかった、自らの意志で街を守るという誇りが宿り始めていた。

　ジンとノクスは、帝国の国境付近の情報を集めるために斥候せっこうに出ている。

　エルゴは、その《未来への羅針盤フューチャー・コンパス》で長期的な天候を予測し、街の農夫たちに最適な種まきの時期を教えていた。
リラとエリアーナは、臨時の診療所を開き、心を失っていた間に病にかかった人々をその力で癒している。

　全てが、順調だった。
あまりにも、順調すぎた。
俺は、この穏やかな日々に言い知れぬ不安を感じていた。
リュウガが、この状況を黙って見過ごすはずがない。

　その、予感は最悪の形で的中することになる。

◇　◇　◇

　噂は、風のように街を駆け巡った。
最初は、行商人たちがもたらした、ほんのささやかな情報だった。

「――帝国の『英雄』が、この街に向かっているらしい」

　その噂は、瞬く間に人々の心に不安の種をまいた。

　英雄。
その言葉が意味するものは、ただ一つ。
帝国最強の戦力。
リュウガ皇帝の、右腕。

　街の空気は、一変した。
あれほど活気に満ちていた市場から、会話が消える。
子供たちの笑い声が、路地裏から聞こえなくなった。
人々は、俺たち《アケボシ》と、帝国の英雄、そのどちらを信じるべきか分からず、ただ狼狽ろうばいしていた。

　そして、運命の日。

　街の城門を見下ろす物見台の上で、俺たちはその時を待っていた。
眼下には、不安な面持ちで広場を埋め尽くす、大勢の住民たち。

　やがて、地平線の彼方から一騎の馬が見えてきた。