119 / 150
第17章:解放戦線と偽りの英雄
第119話:英雄の仮面
しおりを挟む
(……まずは、お前の物語を丸裸にしてやる)
俺たちの、心を解くための本当の戦いが、今、始まろうとしていた。
◇ ◇ ◇
物見台から広場へと続く階段を、俺はゆっくりと、だが確かな足取りで下りていく。
俺の背後を、仲間たちが息を殺してついてくるのが分かった。
ルナの殺気、ジンの警戒、エルゴの分析、サラの知的好奇心、そしてリラとエリアーナの心配。
その全ての感情が、俺の背中を押していた。
広場を埋め尽くした民衆が、モーゼの十戒のように左右に分かれ、俺のために道を開ける。
その瞳に宿るのは、期待と不安、そして困惑の色。
彼らは、自分たちの救世主であるはずの俺たちと、帝国の英雄、そのどちらを信じるべきか決めかねていた。
やがて俺は、広場の中央に立つ偽りの英雄、アレクシオスの前に立った。
距離は、十メートル。
お互いの呼吸が聞こえるほどの、近さ。
白銀の鎧に身を包んだ彼は、物語の中から抜け出してきたかのように完璧だった。
その穏やかな笑みは、まるで俺がただ道を間違えただけの若者であるとでも言いたげだ。
「……愚かなことを」
アレクシオスが、静かに口を開いた。
その声は、民衆に語りかけた時と同じ、どこまでも優しく、そして憐れみに満ちている。
「武器を捨てて投降すれば、慈悲を与えようと言ったはずです。
なぜ、自ら破滅の道を選ぶのですかな?」
彼の言葉は、巧みだった。
この場の全ての人間に対し、俺こそが平和を乱す元凶なのだと、改めて印象付けていく。
だが、俺はもうその挑発には乗らない。
俺が今やるべきことは、ただ一つ。
「英雄、ね」
俺は、わざとらしく肩をすくめてみせた。
「帝国の英雄とやらに会うのは、これが初めてじゃないんでな。
どいつもこいつも、口だけは達者だった」
俺の言葉に、アレクシオスの穏やかな笑みがわずかに強張った。
俺は、さらに言葉を続ける。
彼の完璧な仮面を、一枚ずつ剥がしていくために。
「あんたが起こした、あの奇跡。
赤ん坊の病を癒した、あの力。
……ずいぶんと、見事なもんだったな」
俺は、一歩前に出た。
「だが、あの光には魂がこもっていなかった。
まるで、誰かから借りてきた力みたいだったぜ。
なあ、英雄アレクシオス。
その天賦は、一体誰の物語を奪って手に入れたんだ?」
その言葉は、毒の刃となってアレクシオスの心の最も深い場所へと突き刺さったはずだ。
彼の肩が、ごくわずかに震えたのを俺は見逃さなかった。
「……何を、言っているのか分かりませんな」
彼は、かろうじて平静を装った。
「その下劣な物言いが、あなた方の品性を物語っている。
民衆よ、ご覧なさい!
これこそが、偽りの解放者の正体です!」
彼は、再び民衆を味方につけようとする。
だが、俺はもう待たない。
彼の魂が、ほんの一瞬だけ揺らいだ。
その一瞬の隙こそが、俺が待ち望んでいた絶好の好機。
(その完璧な英雄の仮面の下に、どんな壊れた物語を隠している?)
(俺の魂に、その全てを晒せ――
《物語の観測者》!)
俺の意識は、鋭い槍となってアレクシオスの魂へと突き進む。
彼の魂を覆っていた気高い光のオーラが、俺の観測を阻もうとする。
だが、俺の言葉によって生まれた心の揺らぎが、そのオーラにほんのかすかな亀裂を生んでいた。
俺の意識は、その亀裂から彼の魂の奥深くへと、濁流のように流れ込んでいく。
そして、俺は見た。
偽りの英雄の仮面の下に隠された、あまりにも悲しく、そして気高い魂の物語を。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名前:アレクシオス・グレイフィールド
状態:深い苦悩、絶望、家族への強い愛情、任務遂行への強迫観念
魂の物語:
【起源】:代々帝国に仕える騎士の家系。民を愛し、正義を信じた本物の英雄だった。
【絶望】:彼の持つ天賦、《命の重み》がリュウガに目をつけられ、妻と娘を人質に取られたこと。
【服従】:家族を救うため、リュウガの駒となり「偽りの英雄」を演じることを強いられている。
天賦:
《命の重み》(休眠状態)
能力概要:術者が守りたい対象への「想い」が強いほど、防御力が増大する。誰かを守るために戦う時にのみ、その真価を発揮する。
《癒しの光》(移植された天賦)
能力概要:リュウガによって、誰かから奪われた治癒の力が移植されている。
攻略の糸口:
【精神】:彼の行動原理は全て「家族を救いたい」という愛。彼を敵として断罪するのではなく、その苦悩を理解し、家族を救うという「別の道」を示すことが唯一の攻略法。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
俺たちの、心を解くための本当の戦いが、今、始まろうとしていた。
◇ ◇ ◇
物見台から広場へと続く階段を、俺はゆっくりと、だが確かな足取りで下りていく。
俺の背後を、仲間たちが息を殺してついてくるのが分かった。
ルナの殺気、ジンの警戒、エルゴの分析、サラの知的好奇心、そしてリラとエリアーナの心配。
その全ての感情が、俺の背中を押していた。
広場を埋め尽くした民衆が、モーゼの十戒のように左右に分かれ、俺のために道を開ける。
その瞳に宿るのは、期待と不安、そして困惑の色。
彼らは、自分たちの救世主であるはずの俺たちと、帝国の英雄、そのどちらを信じるべきか決めかねていた。
やがて俺は、広場の中央に立つ偽りの英雄、アレクシオスの前に立った。
距離は、十メートル。
お互いの呼吸が聞こえるほどの、近さ。
白銀の鎧に身を包んだ彼は、物語の中から抜け出してきたかのように完璧だった。
その穏やかな笑みは、まるで俺がただ道を間違えただけの若者であるとでも言いたげだ。
「……愚かなことを」
アレクシオスが、静かに口を開いた。
その声は、民衆に語りかけた時と同じ、どこまでも優しく、そして憐れみに満ちている。
「武器を捨てて投降すれば、慈悲を与えようと言ったはずです。
なぜ、自ら破滅の道を選ぶのですかな?」
彼の言葉は、巧みだった。
この場の全ての人間に対し、俺こそが平和を乱す元凶なのだと、改めて印象付けていく。
だが、俺はもうその挑発には乗らない。
俺が今やるべきことは、ただ一つ。
「英雄、ね」
俺は、わざとらしく肩をすくめてみせた。
「帝国の英雄とやらに会うのは、これが初めてじゃないんでな。
どいつもこいつも、口だけは達者だった」
俺の言葉に、アレクシオスの穏やかな笑みがわずかに強張った。
俺は、さらに言葉を続ける。
彼の完璧な仮面を、一枚ずつ剥がしていくために。
「あんたが起こした、あの奇跡。
赤ん坊の病を癒した、あの力。
……ずいぶんと、見事なもんだったな」
俺は、一歩前に出た。
「だが、あの光には魂がこもっていなかった。
まるで、誰かから借りてきた力みたいだったぜ。
なあ、英雄アレクシオス。
その天賦は、一体誰の物語を奪って手に入れたんだ?」
その言葉は、毒の刃となってアレクシオスの心の最も深い場所へと突き刺さったはずだ。
彼の肩が、ごくわずかに震えたのを俺は見逃さなかった。
「……何を、言っているのか分かりませんな」
彼は、かろうじて平静を装った。
「その下劣な物言いが、あなた方の品性を物語っている。
民衆よ、ご覧なさい!
これこそが、偽りの解放者の正体です!」
彼は、再び民衆を味方につけようとする。
だが、俺はもう待たない。
彼の魂が、ほんの一瞬だけ揺らいだ。
その一瞬の隙こそが、俺が待ち望んでいた絶好の好機。
(その完璧な英雄の仮面の下に、どんな壊れた物語を隠している?)
(俺の魂に、その全てを晒せ――
《物語の観測者》!)
俺の意識は、鋭い槍となってアレクシオスの魂へと突き進む。
彼の魂を覆っていた気高い光のオーラが、俺の観測を阻もうとする。
だが、俺の言葉によって生まれた心の揺らぎが、そのオーラにほんのかすかな亀裂を生んでいた。
俺の意識は、その亀裂から彼の魂の奥深くへと、濁流のように流れ込んでいく。
そして、俺は見た。
偽りの英雄の仮面の下に隠された、あまりにも悲しく、そして気高い魂の物語を。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名前:アレクシオス・グレイフィールド
状態:深い苦悩、絶望、家族への強い愛情、任務遂行への強迫観念
魂の物語:
【起源】:代々帝国に仕える騎士の家系。民を愛し、正義を信じた本物の英雄だった。
【絶望】:彼の持つ天賦、《命の重み》がリュウガに目をつけられ、妻と娘を人質に取られたこと。
【服従】:家族を救うため、リュウガの駒となり「偽りの英雄」を演じることを強いられている。
天賦:
《命の重み》(休眠状態)
能力概要:術者が守りたい対象への「想い」が強いほど、防御力が増大する。誰かを守るために戦う時にのみ、その真価を発揮する。
《癒しの光》(移植された天賦)
能力概要:リュウガによって、誰かから奪われた治癒の力が移植されている。
攻略の糸口:
【精神】:彼の行動原理は全て「家族を救いたい」という愛。彼を敵として断罪するのではなく、その苦悩を理解し、家族を救うという「別の道」を示すことが唯一の攻略法。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
0
あなたにおすすめの小説
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
家族と魔法と異世界ライフ!〜お父さん、転生したら無職だったよ〜
三瀬夕
ファンタジー
「俺は加藤陽介、36歳。普通のサラリーマンだ。日本のある町で、家族5人、慎ましく暮らしている。どこにでいる一般家庭…のはずだったんだけど……ある朝、玄関を開けたら、そこは異世界だった。一体、何が起きたんだ?転生?転移?てか、タイトル何これ?誰が考えたの?」
「えー、可愛いし、いいじゃん!ぴったりじゃない?私は楽しいし」
「あなたはね、魔導師だもん。異世界満喫できるじゃん。俺の職業が何か言える?」
「………無職」
「サブタイトルで傷、えぐらないでよ」
「だって、哀愁すごかったから。それに、私のことだけだと、寂しいし…」
「あれ?理沙が考えてくれたの?」
「そうだよ、一生懸命考えました」
「ありがとな……気持ちは嬉しいんだけど、タイトルで俺のキャリア終わっちゃってる気がするんだよな」
「陽介の分まで、私が頑張るね」
「いや、絶対、“職業”を手に入れてみせる」
突然、異世界に放り込まれた加藤家。
これから先、一体、何が待ち受けているのか。
無職になっちゃったお父さんとその家族が織りなす、異世界コメディー?
愛する妻、まだ幼い子どもたち…みんなの笑顔を守れるのは俺しかいない。
──家族は俺が、守る!
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
「元」面倒くさがりの異世界無双
空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。
「カイ=マールス」と。
よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
異世界おっさん一人飯
SILVER・BACK(アマゴリオ)
ファンタジー
サラリーマンのおっさんが事故に遭って異世界転生。
秀でた才能もチートもないが、出世欲もなく虚栄心もない。安全第一で冒険者として過ごし生き残る日々。
それは前世からの趣味である美味しいご飯を異世界でも食べ歩くためだった。
推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる
ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。
彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。
だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。
結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。
そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた!
主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。
ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる