異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

文字の大きさ
121 / 150
第17章:解放戦線と偽りの英雄

第121話:英雄の涙

しおりを挟む
「アレクシオス・グレイフィールド」
俺は、初めて彼の本当の名を呼んだ。

「あんたの物語は、まだ終わっちゃいない。
あんたが守りたかったものは、まだ何も失われてはいないんだ」

 その言葉が、新たな戦いの始まりを告げる合図だった。
俺は、この偽りの英雄を救い出すための、あまりにも無謀で、俺たち《アケボシ》にしかできない作戦を、静かに練り始めていた。

◇ ◇ ◇

 広場は、異様な静寂せいじゃくに包まれていた。
さっきまでの熱狂的な歓声は嘘のように消え去り、代わりに戸惑とまどいと疑念に満ちた民衆のささやきだけが、低い羽音はおとのように響いている。

 彼らが信じていた、完璧な英雄の姿はもうどこにもない。
そこにいるのは、白銀の鎧もむなしく、地面に崩れ落ちて子供のように泣きじゃくる、ただ一人の哀れな男の姿だけだった。

 俺は、ゆっくりと立ち上がった。
そして、泣きじゃくるアレクシオスに背を向け、広場を埋め尽くす民衆に向き直る。

 俺の、最後の戦いが始まる。
剣ではなく、言葉で。
偽りの物語を、真実の物語で打ち砕くための戦いが。

「皆、混乱しているだろう」
俺の声は、不思議なほど穏やかに、そして力強く響き渡った。
広場の隅々にまで届くように、俺は魂で語りかける。

「目の前の光景が、信じられないはずだ。
帝国の英雄が、なぜ泣き崩れているのか。
我ら反逆者が、なぜ彼を追い詰めているように見えるのか」

 俺の言葉に、民衆のざわめきが少しだけ収まった。
彼らは、答えを求めて俺の顔をじっと見つめている。

「最初に、一つの真実を告げよう」
俺は、泣き崩れるアレクシオスを指さした。

「この男、アレクシオス・グレイフィールドは、本物の英雄だ。
俺たちが知る、どんな者よりも気高く、民を愛する、真の英雄だ」

 その言葉に、広場は再びどよめいた。
俺が、敵であるはずの彼を称賛したからだ。

「五年前、帝国の西の国境を大地の魔獣『ベヒモス』が襲った時のことを覚えている者はいるか?」

 俺の問いに、何人かの年老いた者たちがこくりとうなずいた。

「その時、たった一人で魔獣の進撃を三日三晩食い止め、西の民を救った男がいた。
その男こそが、今お前たちの目の前で泣き崩れている、この男だ!」

 俺は、観測した彼の英雄譚を、まるで見てきたかのように熱く語った。
彼の本当の天賦ギフト、《命の重みウェイト・オブ・ライフ》が、民を守りたいという強い想いによって奇跡を起こした、その真実の物語を。

 民衆の目に、わずかな尊敬の色が戻り始める。
そうだ。
まずは、彼の失われた誇りを、俺が取り戻してやる。

「だがな」
俺は、そこで一度言葉を切った。

 そして、声のトーンを絶対零度の怒りへと変える。
矛先は、もはやアレクシオスではない。
この悲劇の脚本を書いた、ただ一人の悪魔へ。

「我らが皇帝、リュウガは、この英雄の力を『恐れた』」

「民を愛するその強い想いを、彼は自らの支配の脅威になると判断した。
そして、彼は英雄から全てを奪ったのだ!」

 俺の言葉は、雷鳴のように広場に響き渡った。

「リュウガは、この英雄が何よりも愛する妻と、まだ幼い娘を人質に取り、帝都の奥深くに幽閉ゆうへいした!
そして、彼に命じたのだ!
家族の命が惜しくば、自らの誇りである守護の力を捨て、俺の忠実な駒となれ、と!」

「……なっ……!?」

「……嘘だろ……?」

 民衆の顔が、驚愕きょうがくと不信にゆがんでいく。
彼らが信じていた、慈悲深き皇帝の姿がガラガラと音を立てて崩れ始めていた。

 俺は、畳みかける。
この偽りの理想郷を、根底からひっくり返すために。

「あんたたちがさっき見た、奇跡の光景。
赤ん坊の病を癒した、あの治癒の力。
あれは、アレクシオスの力じゃない!
リュウガが、どこかの誰かから奪い取った天賦ギフトを、彼に無理やり移植したものだ!」

 俺は、先ほど赤ん坊を抱いて駆け寄ってきた少女を指さした。

「あの奇跡は、英雄の善意なんかじゃない!
愛する家族を人質に取られ、心を殺してでも命令を遂行しなければならない、一人の父親の悲痛な叫びだったんだ!」

 その言葉が、最後の一撃だった。
民衆の心の中で、何かが完全に砕け散る音がした。

 彼らは、数日前にリュウガの精神支配から解放されたばかりだ。
その魂にはまだ、彼の支配の冷たい手触りが生々しく残っている。
俺の言葉は、その傷口に突き刺さる真実の刃だった。

「……ひどい……」

「……なんて、ことを……」

侮蔑ぶべつの視線は、もはや俺たちには向けられていなかった。
その全てが、遥か東、帝都にいるはずのたった一人の男へと向けられていく。

「さあ、答えてくれ」
俺は、民衆に問いかけた。

「本当の悪は、誰だ?
家族を救うために、偽りの英雄を演じるしかなかったこの男か?
それとも、英雄の誇りを踏みにじり、その家族を人質にとって、この茶番劇を裏で操っている、我らが皇帝か?」

 誰も、答えなかった。
だが、その沈黙こそが何よりも雄弁な答えだった。
彼らの心は、もう決まっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

家族と魔法と異世界ライフ!〜お父さん、転生したら無職だったよ〜

三瀬夕
ファンタジー
「俺は加藤陽介、36歳。普通のサラリーマンだ。日本のある町で、家族5人、慎ましく暮らしている。どこにでいる一般家庭…のはずだったんだけど……ある朝、玄関を開けたら、そこは異世界だった。一体、何が起きたんだ?転生?転移?てか、タイトル何これ?誰が考えたの?」 「えー、可愛いし、いいじゃん!ぴったりじゃない?私は楽しいし」 「あなたはね、魔導師だもん。異世界満喫できるじゃん。俺の職業が何か言える?」 「………無職」 「サブタイトルで傷、えぐらないでよ」 「だって、哀愁すごかったから。それに、私のことだけだと、寂しいし…」 「あれ?理沙が考えてくれたの?」 「そうだよ、一生懸命考えました」 「ありがとな……気持ちは嬉しいんだけど、タイトルで俺のキャリア終わっちゃってる気がするんだよな」 「陽介の分まで、私が頑張るね」 「いや、絶対、“職業”を手に入れてみせる」 突然、異世界に放り込まれた加藤家。 これから先、一体、何が待ち受けているのか。 無職になっちゃったお父さんとその家族が織りなす、異世界コメディー? 愛する妻、まだ幼い子どもたち…みんなの笑顔を守れるのは俺しかいない。 ──家族は俺が、守る!

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界おっさん一人飯

SILVER・BACK(アマゴリオ)
ファンタジー
 サラリーマンのおっさんが事故に遭って異世界転生。  秀でた才能もチートもないが、出世欲もなく虚栄心もない。安全第一で冒険者として過ごし生き残る日々。  それは前世からの趣味である美味しいご飯を異世界でも食べ歩くためだった。  

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...