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第18章:味方から敵へ
第123話:闇への潜入
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俺たちの本当の戦いは、ここから始まる。
リュウガが次に仕掛けてくるであろう、巧妙で悪質な罠。
その気配を、俺の魂は確かに感じ取っていた。
それは、俺たちの絆そのものを試すような、最も残酷な一手になるだろうという、不吉な予感を。
◇ ◇ ◇
解放区が誕生してから、五日が過ぎた。
街は、アレクシオスという本物の英雄と、アルマン市長という信頼できる指導者を得て、日に日にその活気を取り戻している。
俺たち《アケボシ》は、つかの間の平和を享受しながらも、決して警戒を解くことはなかった。
「――御意」
あの日、俺の命令を受けたジンは、静かに、だが力強く頷いた。
その隣では、まだ顔に蒼白さが残るものの、その瞳に確かな意志の光を宿したノクスが、同じように頷いていた。
「無理はするな、ノクス」
俺は、静かに言った。
「お前の魂は、まだ完全じゃない」
「ですが……」
ノクスが、何かを言おうとする。
それを遮ったのは、ジンだった。
「案ずるな、ケント。
こいつは、俺が守る」
その言葉は、どこまでも頼もしかった。
「それに、こいつの《影踏み遊戯》がなければ、帝国軍の懐深くまで潜り込むことはできん。
俺たち二人が揃って、初めてアケボシの『目』と『耳』になる」
その言葉に、俺はもう何も言えなかった。
彼らの絆は、俺が思っている以上に深く、そして固いものになっている。
同じ暗殺者として、同じようにリュウガに利用されてきた者として、彼らにしか分からない物語があるのだろう。
「……分かった。
だが、決して深入りはするな。
情報を得たら、すぐに戻ってこい」
「承知」
その夜。
二つの影は、誰にも気づかれることなく解放区を抜け出し、帝国の深い闇の中へと溶けていった。
それが、俺がジンの、仲間としての最後の姿を見ることになるとも知らずに。
◇ ◇ ◇
帝国領の深い森の中を、二つの影が疾風のように駆け抜けていた。
ジンと、ノクスだ。
彼らは、解放区を出てから丸二日間、ほとんど休みなく移動を続けていた。
「……ジン殿」
ノクスが、低い声で囁いた。
「少し、休みませんか。
あなたの消耗も激しいはずです」
「平気だ」
ジンは、短く答えた。
だが、その額には玉のような汗が浮かんでいる。
ノクスを背負い、彼の天賦である《影踏み遊戯》で長距離を移動するのは、術者であるノクス自身はもちろん、移動対象であるジンにも大きな精神的負荷がかかるのだ。
「……見えてきたぞ」
ジンの言葉に、ノクスが顔を上げる。
木々の向こうに、帝国軍のものと思われる巨大な駐屯地が見えてきた。
解放区を攻めるための、前線基地か。
「ここからは、徒歩で潜入する。
決して気取られるな」
「御意」
二人は、音もなく木から木へと飛び移り、駐屯地の詳細な情報を集め始めた。
兵の数、配置、そして指揮官らしき男の姿。
その全てを、驚異的な記憶力でその脳に刻み付けていく。
「……おかしい」
一通り偵察を終えたジンが、眉をひそめた。
「どうしました?」
「兵の数が、少なすぎる。
解放区を本気で奪還するつもりなら、この三倍は必要だ。
それに、指揮官の顔にも見覚えがない。
帝国の将軍クラスではないな」
それは、あまりにも不自然だった。
まるで、わざと手薄な守りを見せつけているかのようだ。
「……罠、か」
ジンが、呟いた。
「ですが、何のために……?」
「分からん。
だが、俺たちを誘い込もうとしているのは確かだ」
ジンは、しばらく思考を巡らせていた。
「……一度、引くぞ。
この情報を、ケントに持ち帰る」
「はい」
ノクスが頷いた、その瞬間だった。
リュウガが次に仕掛けてくるであろう、巧妙で悪質な罠。
その気配を、俺の魂は確かに感じ取っていた。
それは、俺たちの絆そのものを試すような、最も残酷な一手になるだろうという、不吉な予感を。
◇ ◇ ◇
解放区が誕生してから、五日が過ぎた。
街は、アレクシオスという本物の英雄と、アルマン市長という信頼できる指導者を得て、日に日にその活気を取り戻している。
俺たち《アケボシ》は、つかの間の平和を享受しながらも、決して警戒を解くことはなかった。
「――御意」
あの日、俺の命令を受けたジンは、静かに、だが力強く頷いた。
その隣では、まだ顔に蒼白さが残るものの、その瞳に確かな意志の光を宿したノクスが、同じように頷いていた。
「無理はするな、ノクス」
俺は、静かに言った。
「お前の魂は、まだ完全じゃない」
「ですが……」
ノクスが、何かを言おうとする。
それを遮ったのは、ジンだった。
「案ずるな、ケント。
こいつは、俺が守る」
その言葉は、どこまでも頼もしかった。
「それに、こいつの《影踏み遊戯》がなければ、帝国軍の懐深くまで潜り込むことはできん。
俺たち二人が揃って、初めてアケボシの『目』と『耳』になる」
その言葉に、俺はもう何も言えなかった。
彼らの絆は、俺が思っている以上に深く、そして固いものになっている。
同じ暗殺者として、同じようにリュウガに利用されてきた者として、彼らにしか分からない物語があるのだろう。
「……分かった。
だが、決して深入りはするな。
情報を得たら、すぐに戻ってこい」
「承知」
その夜。
二つの影は、誰にも気づかれることなく解放区を抜け出し、帝国の深い闇の中へと溶けていった。
それが、俺がジンの、仲間としての最後の姿を見ることになるとも知らずに。
◇ ◇ ◇
帝国領の深い森の中を、二つの影が疾風のように駆け抜けていた。
ジンと、ノクスだ。
彼らは、解放区を出てから丸二日間、ほとんど休みなく移動を続けていた。
「……ジン殿」
ノクスが、低い声で囁いた。
「少し、休みませんか。
あなたの消耗も激しいはずです」
「平気だ」
ジンは、短く答えた。
だが、その額には玉のような汗が浮かんでいる。
ノクスを背負い、彼の天賦である《影踏み遊戯》で長距離を移動するのは、術者であるノクス自身はもちろん、移動対象であるジンにも大きな精神的負荷がかかるのだ。
「……見えてきたぞ」
ジンの言葉に、ノクスが顔を上げる。
木々の向こうに、帝国軍のものと思われる巨大な駐屯地が見えてきた。
解放区を攻めるための、前線基地か。
「ここからは、徒歩で潜入する。
決して気取られるな」
「御意」
二人は、音もなく木から木へと飛び移り、駐屯地の詳細な情報を集め始めた。
兵の数、配置、そして指揮官らしき男の姿。
その全てを、驚異的な記憶力でその脳に刻み付けていく。
「……おかしい」
一通り偵察を終えたジンが、眉をひそめた。
「どうしました?」
「兵の数が、少なすぎる。
解放区を本気で奪還するつもりなら、この三倍は必要だ。
それに、指揮官の顔にも見覚えがない。
帝国の将軍クラスではないな」
それは、あまりにも不自然だった。
まるで、わざと手薄な守りを見せつけているかのようだ。
「……罠、か」
ジンが、呟いた。
「ですが、何のために……?」
「分からん。
だが、俺たちを誘い込もうとしているのは確かだ」
ジンは、しばらく思考を巡らせていた。
「……一度、引くぞ。
この情報を、ケントに持ち帰る」
「はい」
ノクスが頷いた、その瞬間だった。
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