異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第18章:味方から敵へ

​第124話:無音の領域

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 ザシュッ!

 鋭い音と共に、ノクスが立っていた木の枝が、根元から切断された。

「―――!?」

 バランスを崩したノクスが、地面へと落下する。

 ジンは、咄嗟とっさにその手を掴み、自らの元へと引き寄せた。

「……くそっ、囲まれている!」

 ジンの言葉通り、彼らの周囲の木々の上から、おびただしい数の帝国兵がその姿を現した。

 その全員が、黒い特殊装甲特殊そうこうに身を包み、その手には天賦ギフトの力を無効化する特殊な弩が構えられている。

 帝国暗殺部隊、『チェックメイト』の兵士たちだ。

「……いつの間に……!」
ノクスが、驚愕の声を上げる。

 ジンほどの達人が、ここまで接近されるまで全く気づかなかった。

「これは……」

 ジンは、周囲の空間を見渡して、そのカラクリに気づいた。

「……天賦ギフトか。
この一帯の空間そのものが、音や気配を吸収する結界になっているのか……!」

 その、ジンの分析を肯定するかのように、拍手をしながら一人の男が闇の中から姿を現した。

 『チェックメイト』の指揮官らしき、痩せこけた男。
その顔には、獲物を追い詰めた蜘蛛のような、陰湿いんしつな笑みが浮かんでいた。

「――いかにも。
俺の《無音の領域サイレント・フィールド》へようこそ、裏切り者のジン」

 男は、芝居がかった口調で言った。

「お前ほどの男が、まんまと誘いに乗るとはな。
よほど、新しい仲間とやらができて、腕が鈍ったと見える」

「……ガイスト……!」

 ジンは、忌々いまいましげにその名を吐き捨てた。

 ガイスト。
『チェックメイト』の中でも、最も残忍で、そして最も狡猾こうかつな男。
ジンが部隊にいた頃から、犬猿の仲だった男だ。

「さあ、おとなしく投降しろ」
ガイストが、その指をパチンと鳴らす。

「皇帝陛下は、お前に聞きたいことが山ほどあるそうだ。
特に、双星そうせいの片割れ……ケントとか言ったか。奴の物語について、じっくりとな」

「断る」
ジンは、短く答えた。

 その手には、いつの間にか二本の短剣が握られている。

「……ならば、死ね」
ガイストが、冷たく言い放った。

「――放て!」

 号令と共に、無数の矢がジンとノクスに降り注ぐ。
その全てが、天賦ギフトを封じる特殊な矢だ。

「――ノクス、影に!」
ジンが叫んだ。

 だが、ノクスの顔は絶望に染まっていた。

「……ダメです、ジン殿!
影に、潜れない……!
この空間そのものが、俺の天賦ギフトを拒絶している……!」

 ガイストの《無音の領域サイレント・フィールド》は、ただ音や気配を消すだけではない。
空間そのものを不安定にさせ、影から影へと渡るノクスの能力を完全に封じ込めていたのだ。

 アケボシ最強の偵察部隊の連携は、完全に断ち切られた。

「―――くそっ!」

 ジンは、ノクスの体をかばうようにして短剣を振るい、降り注ぐ矢を驚異的な反射神経はんしゃしんけいで弾いていく。

 だが、多勢に無勢。
全ての矢を防ぎきることは、不可能だった。

 ザクッ!

 一本の矢が、ジンの左肩を深々と貫いた。

「ぐっ……!」

「ジン殿!」
ノクスが、悲痛な声を上げる。

「……まだだ……!」
ジンは、歯を食いしばりながら戦い続ける。

 だが、その動きは明らかに鈍っていた。
特殊な矢に込められた天賦ギフト封じの毒が、彼の体をむしばんでいく。

 このままでは、二人とも殺される。
絶体絶命。

 ノクスの脳裏を、数日前の悪夢がよぎった。
ザイムに殺されかけた、あの時の絶望。
また、自分は何もできずに、仲間を失うのか。

(――嫌だ……!)

 ノクスは、震える手で懐から一本のクナイを取り出した。

 だが、そのクナイを投げるよりも早く、ガイストの部下の一人が彼の背後に回り込んでいた。

 その手には、煌々こうこうと輝く刃が握られている。

「―――死ね、裏切り者のひなよ!」

 死。
ノクスは、静かに目を閉じた。

 だが、その喉元のどもとを切り裂くはずだった刃が、彼に届くことはなかった。

 ザシュッ!

 生々しい肉を切り裂く音。
そして、自分の体を包み込む、温かい感触。

 ノクスが、おそるおそる目を開けた時。

 そこにいたのは、彼の前に立ちはだかり、その背中を深々と斬り裂かれた、ジンの姿だった。

「……ジン、殿……?」

「……ぐ……ふっ……」
ジンの口から、大量の血が吐き出された。
その血が、ノクスの顔を赤く染める。

「……早く……行け……」
ジンは、最後の力を振り絞るように言った。

 彼は、ノクスの体を強く突き飛ばす。

「……この結界……外縁部は、効果が薄いはずだ……。
あそこまで、走れ……!」

「で、でも……!」

「これは、命令だ……!」
ジンは、鬼の形相で叫んだ。

「……生きろ、ノクス……!
そして……ケントに、伝えろ……!
リュウガの、狙いは……」

 ジンの言葉は、そこで途切れた。
彼は、崩れ落ちるようにその場に膝をつく。

「……ケントに……会いたかったな……」
最後にそうつぶやくと、彼は完全に意識を失った。

「―――ジン殿ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」

 ノクスの絶叫が、音のない森に響き渡った。
だが、その声はガイストの結界に吸収され、誰の耳にも届かない。

 ノクスは、血の涙を流しながら、それでも走った。

 ジンの最後の命令を守るために。
この絶望的な真実を、仲間の元へ届けるために。

 やがて、彼は結界の綻びを見つけ、最後の力を振り絞って影の中へとその身を沈めた。

 彼が最後に見たのは、意識を失ったジンに冷たい視線を落とす、ガイストの歪んだ笑顔だった。

「――チェックメイトだ」
ガイストは、静かに言った。

「そいつを捕らえろ。
皇帝陛下が、この男のために最高の『舞台』を用意して待っておられる」
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