異世界転生と『天賦（ギフト）』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる！

第18章：味方から敵へ

第134話：チェックメイト

「―――茶番は、終わりだ」

　ジンの声が、絶対的な王の宣告のように響き渡る。
彼の全身から、今までとは比べ物にならないほどの禍々まがまがしいオーラが放たれた。
もはや、彼は俺たちの動きを待たない。
完璧な予測に基づいた、一方的な殲滅せんめつが始まった。

「―――エリアーナッ！」
俺は、叫んだ。

「歌え！
仲間を、鼓舞する歌を！」

　エリアーナは、ハッと我に返るとリュートを構えた。
だが、彼女が最初の音色を紡つむぐよりも早く。

　ヒュンッ！

　ジンの手から放たれた短剣が、寸分の狂いもなくリュートの弦を断ち切った。
バチンッ、という虚しい音と共に、エリアーナの歌は封じられる。

「――ルナ！」

「――分かってる！」
ルナが、獣の雄叫びを上げてジンへと襲いかかる。
だが、その動きもまた、完全に読まれていた。

　ジンは、ルナが踏み出すであろう次の一歩、その場所に正確にクナイを投げつけた。
ルナは、咄嗟とっさにそれを避ける。
だが、その回避行動そのものが、ジンの予測通りだった。

　体勢を崩したルナの懐に、ジンは音もなく滑り込むと、その柄で容赦なくみぞおちを打ち据えた。

「がっ……はっ……！」
ルナは、カエルが潰れたような声を上げてその場に崩れ落ちる。

「――アレクシオス！
リラとサラを守れ！」

「承知！」
アレクシオスが、二人の女性の前に立ちはだかる。

　その瞳には、もはや苦悩くのうの色はない。
仲間を守るという、英雄としての強い決意の光が宿っている。

　だが、ジンの動きは彼の決意をあざ笑うかのように、冷徹だった。
彼は、アレクシオスを攻撃しない。
狙いは、彼が守るべきリラとサラ。

「―――やめろっ！」
アレクシオスは、仲間を庇かばうためにその身を投げ出した。

　その、予測通りの動き。
ジンは、アレクシオスの鎧のわずかな隙間を、まるで最初からそこにあると知っていたかのように正確に突き、その動きを完全に封じ込めた。

「―――エルゴ殿！」
俺は、最後の仲間へと叫んだ。

「天候を……！」

　だが、それも無駄だった。
ジンは、俺がエルゴに指示を出すことを予測し、あらかじめ彼の周囲に複数のクナイを突き立てていた。
それは、エルゴの天賦ギフトが発動する範囲を物理的に制限するための、完璧な布陣。

「……ぐ……儂の力が……届かん……！」

　絶望。
また、絶望。
俺たちの打つ手、打つ手が、全て完璧なカウンターによって打ち砕かれていく。

「どうした、ケント」
ジンの、冷たい視線が俺を捉えた。

「お前が、このチームの『頭脳』なのだろう？
なぜ、指示を出さない？
お前の仲間たちが、一人、また一人と無様に倒れていくのを、ただ見ているだけか？」

　その言葉は、俺の心を完全に折るための、最後の毒の刃。
俺は、奥歯を強く噛み締めた。

　俺が指示を出せば、ジンはそれを逆手に取るだろう。
だが、指示を出さなければ、俺たちはただ各個撃破されるだけだ。

　完全に、詰んでいる。
この盤上には、もう俺たちの勝ち筋は残されていない。

「終わりだ」
ジンが、静かに告げた。
その手には、いつの間にか一本の黒い短剣が握られている。
狙いは、この場で唯一まだ立っている、俺の心臓。

　俺たちの、物語。
俺の、復讐の物語。
その全てが、今、ここで終わるのか。

　仲間たちの、苦痛に満ちた呻うめき声が聞こえる。
リラの、絶望に濡れた瞳が見える。

（……すまない……）
俺は、心の中で仲間たちに謝った。

（俺の、力が足りなかったせいで……）

（俺が、リュウガの掌の上で踊らされていたせいで……）

（……みんなを、巻き込んで……）

　後悔が、絶望が、俺の思考を塗りつぶしていく。
もう、何も考えられない。

　ジンは、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
その足音だけが、やけに大きく響いていた。

　カツン、カツン、と。
それは、俺の物語の終わりを告げる、死神の秒読みのようだった。

　彼は、俺の目の前で足を止めた。
そして、その感情のない瞳で俺を見下ろす。

「チェックメイトだ、ケント」
その言葉と共に、黒い短剣が振り上げられた。

　俺は、動けなかった。
動く気力も、残っていなかった。
ただ、静かにその刃が振り下ろされるのを待つだけ。

（……ああ、そうか）

　死を目前にして、俺の心は不思議なほど穏やかだった。

（……これが、俺の物語の結末か）

（……歯車として死に、駒として死ぬ）
（……なんとも、俺らしいじゃないか）

　俺は、薄れゆく意識の中で自嘲気味に笑った。
そして、ゆっくりと目を閉じる。

　ジンの刃が、俺の心臓めがけて振り下ろされた。

　その、絶対絶命の瞬間。

　俺の脳裏に、今まで出会ってきた仲間たちの顔が、走馬灯のように駆け巡った。