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第19章:模倣者の覚醒
第135話:百の物語
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(……これが、俺の物語の結末か)
(……歯車として死に、駒として死ぬ)
(……なんとも、俺らしいじゃないか)
俺は、薄れゆく意識の中で自嘲気味に笑った。
そして、ゆっくりと目を閉じる。
ジンの刃が、俺の心臓めがけて振り下ろされた。
その、絶対絶命の瞬間。
俺の脳裏に、今まで出会ってきた仲間たちの顔が、走馬灯のように駆け巡った。
◇ ◇ ◇
時間が、引き延ばされる。
死の刹那に、俺の魂は最後の物語を再生し始めていた。
最初に浮かんだのは、ルナの顔だった。
奈落の谷で出会った、孤高の銀狼。
その琥珀色の瞳に宿っていた、人間への激しい憎悪の炎。
だが、俺の意識はその炎の奥深くへと潜っていく。
俺は、ただ思い出すのではない。
「体験」していた。
彼女の物語そのものを。
燃え盛る故郷、銀月の森。
同胞たちの断末魔の叫び。
そして、リュウガによって魂の核である《百獣の咆哮》を暴力的に引き剥がされる、あの魂が引き裂かれる痛み。
その絶望の果てに生まれた、彼女のたった一つの願い。
『――力が欲しい。
もう二度と、大切なものを失わないための力が。
孤独ではなく、仲間と共に戦うための、新しい力が』
その渇望が、俺の魂に流れ込んでくる。
俺は、理解した。
彼女の新たな天賦、《絆を力に》は、ただの能力の名前などではない。
それは、彼女の生きる意味そのものなのだと。
次に浮かんだのは、エルゴの顔だった。
奈落の谷の出口で出会った、絶望に満ちた老賢者。
俺は、彼の物語を追体験する。
帝国の気象院長官としての、輝かしい誇り。
リュウガによって未来を予測する力を否定され、過去の記憶の中に閉じこもった深い絶望。
そして、俺との対峙の中で見つけ出した、最後の希望。
『――もう一度、未来を見たい。
過去ではなく、これから訪れる道を照らす力が欲しい』
その願いが、彼の魂を「再誕」させ、《未来への羅針盤》を生み出した。
俺は、彼の物語の全てを、今、完全に理解した。
奔流は、止まらない。
次々と、仲間たちの物語が俺の魂の中へと流れ込んでくる。
リラの物語。
愛する恋人、ノクスの記憶を奪われ、その絶望から他人の幸福な記憶を盗んでまで彼を救おうとした、歪で純粋な愛の物語。
そして、その果てに目覚めた本当の願い。
『――失われたものを取り戻し、壊れたものを『修復』したい』
エリアーナの物語。
帝国に仲間たちの歌声を奪われ、たった一人で戦い続けた孤独な歌姫。
その魂に刻まれた、決して消えることのない誓い。
『――歌の力で、この凍てついた世界をもう一度『温めたい』』
サラの物語。
純粋な知的好奇心を、リュウガによって非道な実験のために利用された天才研究員。
その罪の意識の奥底で、今もなお輝き続ける根源的な渇望。
『――この世界の、美しい法則性を知りたい』
アレクシオスの物語。
民を愛する本物の英雄が、愛する家族を人質に取られ、偽りの英雄を演じることを強いられた絶望の物語。
その魂の奥底で、今もなお燃え続ける本当の願い。
『――愛する家族を、この手で救いたい』
そして、最後に流れ込んできたのは。
目の前で、俺に刃を向けている男。
俺たちの、仲間だったはずの男。
ジンの物語。
病弱な妹を守るため、その手を血に染めることを選んだ暗殺者。
その汚れた力に絶望しながらも、俺たち《アケボシ》の中に新たな光を見出した、彼の魂の叫び。
『――自らの汚れた力を、本当に守るべき誰かのために使いたい』
その、あまりにも純粋で悲痛な願い。
その全てを、リュウガは踏みにじり、破壊し、偽りの忠誠心で上書きしたのだ。
「……ああ……そうか……」
俺の唇から、声にならない声が漏れた。
俺は、今まで彼らの物語をただの「情報」として観測していたに過ぎない。
軍師として、彼らの力をどう使えば勝てるかという「駒」として見ていた部分が、どこかにあったのかもしれない。
だが、今は違う。
彼らの痛みも、喜びも、絶望も、希望も。
その全てが、俺自身の物語であるかのように、魂に流れ込んでくる。
俺は、ケントというただ一人の人間ではない。
俺は、ルナであり、エルゴであり、リラであり、エリアーナであり、サラであり、アレクシオスであり、そして、ジンでもあるのだ。
俺たちの物語は、もう分かちがたく一つに結ばれている。
(……歯車として死に、駒として死ぬ)
(……なんとも、俺らしいじゃないか)
俺は、薄れゆく意識の中で自嘲気味に笑った。
そして、ゆっくりと目を閉じる。
ジンの刃が、俺の心臓めがけて振り下ろされた。
その、絶対絶命の瞬間。
俺の脳裏に、今まで出会ってきた仲間たちの顔が、走馬灯のように駆け巡った。
◇ ◇ ◇
時間が、引き延ばされる。
死の刹那に、俺の魂は最後の物語を再生し始めていた。
最初に浮かんだのは、ルナの顔だった。
奈落の谷で出会った、孤高の銀狼。
その琥珀色の瞳に宿っていた、人間への激しい憎悪の炎。
だが、俺の意識はその炎の奥深くへと潜っていく。
俺は、ただ思い出すのではない。
「体験」していた。
彼女の物語そのものを。
燃え盛る故郷、銀月の森。
同胞たちの断末魔の叫び。
そして、リュウガによって魂の核である《百獣の咆哮》を暴力的に引き剥がされる、あの魂が引き裂かれる痛み。
その絶望の果てに生まれた、彼女のたった一つの願い。
『――力が欲しい。
もう二度と、大切なものを失わないための力が。
孤独ではなく、仲間と共に戦うための、新しい力が』
その渇望が、俺の魂に流れ込んでくる。
俺は、理解した。
彼女の新たな天賦、《絆を力に》は、ただの能力の名前などではない。
それは、彼女の生きる意味そのものなのだと。
次に浮かんだのは、エルゴの顔だった。
奈落の谷の出口で出会った、絶望に満ちた老賢者。
俺は、彼の物語を追体験する。
帝国の気象院長官としての、輝かしい誇り。
リュウガによって未来を予測する力を否定され、過去の記憶の中に閉じこもった深い絶望。
そして、俺との対峙の中で見つけ出した、最後の希望。
『――もう一度、未来を見たい。
過去ではなく、これから訪れる道を照らす力が欲しい』
その願いが、彼の魂を「再誕」させ、《未来への羅針盤》を生み出した。
俺は、彼の物語の全てを、今、完全に理解した。
奔流は、止まらない。
次々と、仲間たちの物語が俺の魂の中へと流れ込んでくる。
リラの物語。
愛する恋人、ノクスの記憶を奪われ、その絶望から他人の幸福な記憶を盗んでまで彼を救おうとした、歪で純粋な愛の物語。
そして、その果てに目覚めた本当の願い。
『――失われたものを取り戻し、壊れたものを『修復』したい』
エリアーナの物語。
帝国に仲間たちの歌声を奪われ、たった一人で戦い続けた孤独な歌姫。
その魂に刻まれた、決して消えることのない誓い。
『――歌の力で、この凍てついた世界をもう一度『温めたい』』
サラの物語。
純粋な知的好奇心を、リュウガによって非道な実験のために利用された天才研究員。
その罪の意識の奥底で、今もなお輝き続ける根源的な渇望。
『――この世界の、美しい法則性を知りたい』
アレクシオスの物語。
民を愛する本物の英雄が、愛する家族を人質に取られ、偽りの英雄を演じることを強いられた絶望の物語。
その魂の奥底で、今もなお燃え続ける本当の願い。
『――愛する家族を、この手で救いたい』
そして、最後に流れ込んできたのは。
目の前で、俺に刃を向けている男。
俺たちの、仲間だったはずの男。
ジンの物語。
病弱な妹を守るため、その手を血に染めることを選んだ暗殺者。
その汚れた力に絶望しながらも、俺たち《アケボシ》の中に新たな光を見出した、彼の魂の叫び。
『――自らの汚れた力を、本当に守るべき誰かのために使いたい』
その、あまりにも純粋で悲痛な願い。
その全てを、リュウガは踏みにじり、破壊し、偽りの忠誠心で上書きしたのだ。
「……ああ……そうか……」
俺の唇から、声にならない声が漏れた。
俺は、今まで彼らの物語をただの「情報」として観測していたに過ぎない。
軍師として、彼らの力をどう使えば勝てるかという「駒」として見ていた部分が、どこかにあったのかもしれない。
だが、今は違う。
彼らの痛みも、喜びも、絶望も、希望も。
その全てが、俺自身の物語であるかのように、魂に流れ込んでくる。
俺は、ケントというただ一人の人間ではない。
俺は、ルナであり、エルゴであり、リラであり、エリアーナであり、サラであり、アレクシオスであり、そして、ジンでもあるのだ。
俺たちの物語は、もう分かちがたく一つに結ばれている。
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