異世界転生と『天賦(ギフト)』で最強になったが親友に裏切られ追放されたので、銀狼少女と『双星』として成り上がる!

月影 朔

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第19章:模倣者の覚醒

第137話:我が友の力を此処に

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「―――《たましいの……》!」

 その声は、まだ産声を上げたばかりの赤ん坊のようにか細かったが、確かにこの世界の理をくつがえす、始まりの音だった。

◇ ◇ ◇

 俺の唇からつむがれた最後の言葉が、凍りついた時間の静寂を突き破る。

「―――《魂の指揮者ソウル・コンダクター》!」

 その瞬間。 
俺の魂が、爆ぜた。 

 俺の全身から、今までとは比べ物にならないほどのまばゆいオーラが放たれる。 

 だが、それは俺自身のオーラではなかった。 どこまでも鋭く、どこまでも静かで、そして影のように深い。 

 俺たちの仲間、ジンが本来持っていたはずの魂の輝きそのものだった。

「―――なっ!?」

 俺の心臓を貫く寸前だったジンの動きが、ぴたりと止まった。 
その機械のような瞳に、初めて純粋な「予測不能」に対する驚愕きょうがくの色が浮かぶ。

 俺から放たれた魂のオーラは、物理的な衝撃波となって彼を襲ったのではない。 
もっと根源的な、魂と魂の共鳴。 同じ波長を持つ二つの魂が、この世に同時に存在するというあり得ない矛盾が、彼の魂の核を直接揺さぶっていた。

「ぐ……ぁっ……!」 

 ジンは、短いうめき声を上げて後方へと大きく飛び退いた。 

 その顔は、もはや無表情な仮面ではない。 自らの魂と同じオーラを放つ俺という存在を前にして、その精神が、リュウガによって植え付けられたプログラムが、激しいエラーを起こしているのだ。

 仲間たちが、息をんでその光景を見守っている。 
何が起きているのか、誰にも理解できていない。 

 俺自身を除いては。

(……そうか……) 
俺は、自らの両手を見下ろした。 
そこから立ち上る、見慣れない、だが懐かしいオーラ。

(……これが、俺の力の本当の姿……)

 絶体絶命の刹那せつな、俺の脳裏を駆け巡った仲間たちの物語。 
あれは、ただの走馬灯ではなかった。 

 俺の天賦ギフト、《物語の観測者ストーリー・ウォッチャー》が、自らの生存本能に従って進化を遂げた、覚醒の儀式だったのだ。

 俺は、ただ他人の物語を「観測」するだけじゃない。 

 その物語を深く理解し、その魂に心の底から「共感」した時。 
俺は、その物語を自らの魂に宿し、その力を自らのものとして顕現けんげんさせることができる。

(……《物語の模倣者イミテーター》……!)

 脳内に、その名が雷鳴のように響き渡った。 
そうだ。 
これこそが、俺の最後の力。 

 リュウガが「使えない」と断じた、俺だけの物語の本当の姿。

 俺が深く理解した仲間の天賦ギフトを、自らの力として一度だけ模倣もほうして使用できる能力。 

 そして、俺が最初に模倣もほうしたのは。 
俺が、この世界で初めてその物語の全てを背負うと決めた、目の前の男の力。

「……あり得ない……」 
ジンが、震える声でつぶやいた。

「……その力は、俺だけのもののはずだ……。 
なぜ、お前が……」

「決まってるだろう」 
俺は、ゆっくりと立ち上がった。 

 その瞳には、仲間たちの物語の色が万華鏡のように渦巻いている。

「俺は、お前の物語を背負ったからだ。 
お前の痛みも、絶望も、そしてお前が心の底から望んでいた本当の願いも、今、この俺の魂の中にある」

 俺は、ゆっくりと右手を掲げた。 
その手には、ジンのものと全く同じ、影色のオーラが渦巻いている。

「だから、見せてやるよ、ジン。 
お前が本当にやりたかった、この力の本当の使い方をな」

俺は、彼が本来持っていたはずの天賦ギフト、《魂の指揮者ソウル・コンダクター》の本当の意味を、誰よりも深く理解していた。 

 それは、リュウガのように他人の魂を無理やり支配する力じゃない。 
自らの魂の波長を相手の魂に共鳴させ、その心を「導く」ための力だ。

 俺は、その力を目の前の男――心を失った器ではなく、その奥底で今もなお眠り続けているはずの、本当のジンの魂へと向けた。

(――聞こえるか、ジン)

 俺の思考が、魂の波長に乗ってジンの心の最も深い場所へと届けられる。 
リュウガが築き上げた、鉄壁の精神支配の壁をすり抜けて。

(お前の物語は、まだ終わっちゃいない) 

(思い出せ、ジン。 
お前が本当に守りたかったものは、何だ?)

 俺は、彼に命令はしなかった。 
ただ、問いかける。 
彼の魂の核に、直接。

 そして、俺は彼の魂へと一つの光景を送り込んだ。 

 俺が観測した、彼の物語の【起源】。 
彼が、暗殺者になることを選んだ、たった一つの理由。

 帝都の片隅にある、小さな療養院。 
窓辺のベッドで、蒼白そうはくな顔をしながらも健気に微笑む、一人の少女の姿。 彼の、たった一人の妹。

『――お兄ちゃん……。 
無理、しないでね……』

その、か細くも優しい声。 
その記憶は、リュウガの精神支配ですら完全に消し去ることのできなかった、ジンの魂の最後の聖域。

「―――ッッ!!」 

 ジンの体が、今までで最も激しくけいれんした。 
その機械のような瞳が、大きく見開かれる。

「……あ……あ……」 

 彼の口から、意味をなさない声がれた。 その瞳の奥で、リュウガによって植え付けられた偽りの忠誠心と、今俺が呼び覚ました本当の物語が、激しくせめぎ合っているのが分かった。

 黒いオーラと、彼本来の影色のオーラが、その全身で火花を散らすようにぶつかり合う。 

 リュウガが築き上げた完璧な洗脳に、初めて明確な亀裂が入った瞬間だった。
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